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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十五章『新世界に至る道』

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ライムさんはお仕事がしたい


 あちらを見てもこちらを見ても大忙し。

 スケジュールに余裕がなくなったせいで友人達は揃って余裕のない日々を送っていましたが、ライムだけは例外的にヒマを持て余していました。



「むぅ」



 彼女としても、この状況に思うところがないわけではありません。

 シモンや他の皆から助力を求められたら一も二もなく駆けつける気ではいるのですが、困ったことにライム向きの仕事がどこにも残っていないのです。


 少し前に任されていた自衛官や警察官の育成も完了し、彼らは元の予定通りに各地での工作チームの護衛役として巣立っていきました。

 短い期間ではありましたが、ライム流の過酷すぎるトレーニングに最後までついて来た面々であれば、そこらの魔物や悪人程度は軽く片付けることができるでしょう。全てが終わった後に元の日本での暮らしに順応できるかは分かりませんが。



「シモン。ご飯」


「おお、ライムか。かたじけない、最近はゆっくり飯を食う時間もなくてな」



 仕事がないか尋ねがてらお弁当を作ってシモンを訪ねたりもしましたが、界港完成までの目途が立った現状では、ライムにもできそうな大雑把な力仕事は残っていません。

 工事の初期段階であれば、大型ゴーレムに混ざって地面から木を引っこ抜くとかの仕事もあったのでしょうが、彼女が知った時点ではすでにそういった工程は終わっていました。

 残るは、専門の建築知識や技術を要する仕上げの段階。

 普段からの地道な訓練がモノを言う分野です。

 下手に素人が触って完成しかけた建物を壊したり、作業をしている兵隊達の邪魔をしてはいけませんし、退屈しのぎのためだけに作業班に入れてもらうのはライムとしても憚られました。








「ん」


「おや、ライムさん、いらっしゃい。うん、私かい? 例の悪魔達の中に人間の姿に変身できる連中がいてね。善良な一般市民になりすまして、酒場や街角で雑談をする体で噂を広められないか検証していたところさ。老若男女の容姿差によっても情報の拡散具合が違うみたいでね、なかなか興味深い実験ができているよ」


「そう」



 駄目元でレンリを訪ねてもみましたが、案の定、とてもライムが手伝えそうな仕事ではありませんでした。

 新聞メディアや噂を活用して、特定の思想を不特定多数の市民の間に浸透させる情報工作。今回の場合は、地球との接触に際して予想される一般市民の抵抗感をなるべく軽減するためにやっていることですが、それ自体が楽しくなってしまったらしいレンリは仕事の名目で勝手にあれこれ実験をしているようです。



「レン、ほらメシだぞ……っと、ライムさん、どうも」


「い、いらっしゃい……」


「ん。来た」



 ずっとレンリと一緒に行動しているルグやルカも、ライムと同じように最早レンリが何をどうしているのかほとんど理解できていませんが、それでも彼らには大量の食料を拠点としている宿屋の一室に運び込むという割とどうでもいい仕事がありました。

 あとは時折、勇者神殿の時のように近隣地域で進んでいる何かしらの視察に赴くこともあり、意外にもそれほど退屈はしていないようです。



「えへへ……最近、ルグくんと……いっぱい一緒にいられて、嬉しい、な」


「そう」



 空き時間ができてもルカ達はちょくちょくデートなどしているらしく、やはりヒマとは無縁。なかなか充実した毎日を送っているようです。残念ながら、交際している相手が多忙で動けないライムには、真似したくともできない方法ではありますが。








「来た」


『あ、ライムお姉さん、よく来たの!』


『見学。歓迎。今ちょうど新天国を試験的に開業したところだよ』



 次にライムは新しい天国を創るべく活動していたウル達を訪ねました。

 別次元に位置する天国や地獄への移動は少々コツを要するのですが、『悪神666同盟』との壮絶なようなそうでもないような戦いの結果、以前より魔力や空間の扱いに習熟したことで、世界の壁を斬れるシモンが一緒でなくとも気軽に行き来できるようになったようです。


 無数の悪魔や鬼達が汗水垂らして働いた甲斐もあって、新天国は完成間近。

 今はヨミの『奈落城』に住む死者やその知り合いの魂を連れてきて、体験モニターをやってもらっているところでした。

 その反応は概ね良好。

 しばらく前に話し合った意見を取り入れており、様々な需要に応えられるようにバリエーションも多種多様。正式オープンの後にも柔軟な対応ができるよう、拡張や改良の余地も意図的に残してあります。これなら今生きている人々も、将来安心して死ねるというものでしょう。


 まあ、やはりライムが手伝えそうな内容ではありませんが。








「むむぅ」



 結局ピンと来るものがないまま、第一迷宮の自宅まで帰ってきました。

 一通り回ってみたものの、やはりライムが手出しできそうな仕事はありません。

 普段なら一人の時でも修行をして充実した時間を過ごしているのですが、親しい皆が働いている時に自分だけ好き放題に遊んでいるというのも据わりが悪い。

 このあたり彼女の姉のタイムやレンリであれば一切気にしないのでしょうが、ライムとしてはどうしても気になってしまいます。


 いっそ、しばらく実家に帰省して赤ん坊の世話でもするべきか。

 そんな考えも浮かびかけたのですけれど……。



「おお、良かった。家にいたか!」


「シモン?」


「さっきお前と会った時に思いついておれば良かったのだが、あの後でちょっと閃いてな。実はライムに頼みたい仕事があるのだ」


「うん。やる」



 ライムの家を訪ねてきたシモンが、そんな話を切り出したのです。

 まだ内容すら聞いていませんが、ライムは即座に引き受けました。



「ははは、頼もしいな。ライムが受けてくれたのなら安心だ」


「そう?」


「そうだとも。それで肝心の頼みの中身だが、お前に人探しを頼みたいのだ」


「誰?」



 人探し。

 気配を頼りに広範囲から目当ての相手を見つけ出せるライムには、まさにうってつけの仕事でしょう。探すのが初対面の相手であれば難しいのですが、幸い、今回の探し人は彼女もよく知っていました。



「うむ、ガルド殿に冒険者としての依頼をしたくてな。迷宮都市のギルドや魔王の所に顔を出してくれれば簡単だったのだが、ま、それは言っても仕方あるまい」


「分かった」



 昨年末の武術大会では、一身上の都合により結局リベンジが叶わなかった相手です。ライムとしても是非とも会いたい人物ではありました。シモンからの依頼に差し障りのない範囲であれば、空いた時間に組手などもできるかもしれません。



「じゃ」


「うむ、頼む」



 現在ガルド氏がどこにいるかは不明ですが、この世界のどこかにいるのはまず間違いありません。事によっては魔界も捜索範囲に含まれるかもしれませんが、どちらだろうと問題なし。ライムが気配を探りつつ全速力であちこち駆け回れば、きっとすぐにでも見つかることでしょう。


 念願の仕事が見つかったライムは勢いよく自宅を飛び出しました。



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― 新着の感想 ―
カタパルト発進並みの勢いで出かけた筈? とりあえず、半日か数日で終わる簡単な依頼 シモンは必ず家に帰宅するからガイナ立ちライムのお怒りモードな案件はない筈 つまり、忘年会の5次会とか急な接待で帰宅が遅…
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