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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十五章『新世界に至る道』

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騎士団の特別任務


 古今東西、軍隊という組織は戦闘のみならず建築にも秀でるもの。

 効率的な行軍のためには、道の整備や兵が寝起きする場所の用意は欠かせません。銃火器については発達が遅れているこの世界でも、攻撃魔法への対処としての塹壕掘りはよく知られた戦術です。


 国家間での戦争が少なくなって久しい昨今においても、多くの国の軍隊ではいつか来るかもしれない有事に備えて建築方面の訓練を普段から欠かさず行っていますし、それは当然シモン率いる学都方面軍においても同様。

 優秀なゴーレム使いを多く抱える利を活かして、短時間での大規模な土地整備を特に得意としていました。



「ふぅ、これで午前のノルマは終了っと」


「お疲れさん、手の空いた奴は午後まで休憩でいいってさ。あっちで弁当配ってるから取ってきな。今日は豚の揚げ物にパンだってよ」


「あいよ。正直、普段の訓練よりラクで助かるわ」


「ははっ、違ぇねえ」



 学都の街の南側。

 首都方面に伸びる街道近くの森沿いで、学都騎士団の騎士や兵士達が熱心に動き回っていました。大型のゴーレムが大木を引っこ抜き、続いて魔法兵が土魔法と火魔法で土中に残った根っこを残らず丁寧に焼き払う。

 そこまで済んだら円匙スコップを手にした兵士達の人海戦術で、地面を平らに均したり邪魔な石を拾い集めたりといった具合です。普段からの訓練の甲斐あって、自然のままの森だった場所が見るみるうちに真っ平に整地されていきました。



「にしても、俺らいったい何を造ってるんだろうなぁ?」


「さあなぁ。隊長格は団長に集められて何か聞いたみたいだけど」


「そういやウチの班長が何日か前に挙動不審になってたっけ。やっぱり、ちょっと前に俺らが馬術を教えてたどっかの国の兵隊連中に関係あるのかね?」


「ああ、あいつらも変な連中だったな。そこそこ腕が立ちそうな雰囲気はあるのにマトモに馬に乗れる奴がほとんどいないし、剣や槍も素人同然みたいだったし」



 しばらく前から学都騎士団では妙な任務が増えていました。

 機密保持のため詳しい事情を知らされていない現場の兵士達も、そういった違和感は当然ながら感じ取っています。


 日本人の自衛官や警察官に対する馬術教練や剣や槍といった武器術の指導(もっとも実際の指導に当たった彼らは相手の素性を知らされていませんでしたが)、それが一段落したと思ったら今度はこうして街の外での土木作業です。

 作業面積の広さからして、相当に大掛かりな施設を建てるものとは推測できましたが、その肝心の部分についてはさっぱり分かりません。こうして国の軍隊を動員するからには、民間の商会や家屋ではなく何らかの国家事業に関わるモノではあるのでしょうが。



「おっと、話し込んでたらせっかくの昼休憩が終わっちまう」


「そりゃ一大事だ。上が言わないってことは、まだ俺らは知らんほうがいいってことだしな。知らんでいいことを下っ端が知りたがってもロクなことにならん……って、新兵の頃に古参兵殿から口酸っぱく言われたっけか」



 シモンや他の幹部格があえて秘密にしているということは、そうするだけの理由があるはず。ならば余計な好奇心や野次馬根性を発揮せず、与えられた任務だけに集中するが吉。いずれ然るべき時が来れば疑問が解けることもあるだろう、と。


 現場で働く兵士達の受け取り方は、大凡このような具合でありました。






 ◆◆◆






「は、え? 団長が実は勇者様の弟子で、この街がニホンと繋がる?」


「ある意味納得。そりゃ強いわけだわ……」


 下の人間は案外のんびりしたものですが、諸々の秘密を教えられた騎士団の幹部クラスは、重責と多忙のあまり神経をすり減らすような日々が続いていました。



「『界港』だっけ? その予定地の均し作業、八割まで進みました。残り二割は特に頑固な根っこが深く根を張ってるらしくて、順調に進んでる班から人を回してペース上げてます」


「建物の資材は使途様……じゃなかった、ゴゴ神が先程創りに来てくれました。設計図通りの寸法で金属パネルと石板を各二万枚、プラス予備分で追加二千ずつ。木材に関してはウル神が後で来てくれるそうです」


「開通式当日の警備スケジュールですけど、ウチらだけじゃどう考えても無理がありますって! 首都や他領の騎士団に応援頼めないですか!?」



 『界港』とは、読んで字の如く空港の異世界版のような施設です。

 ゆくゆくは学都以外の街や他国での開港も予定されてはいますが、この学都に設置されるそれが記念すべき世界第一号。既存の鉄道路線や大河を利用した水上交通など、大陸各地へのアクセスの良さが決定の理由となったようです。

 地球との接続が無事に果たされれば、頻繁かつ大量にヒトやモノの行き来が発生するのは必定。そうした大量輸送に耐えられる都市となると、世界広しといえども候補地はかなり限られたことでしょう。



「いや、皆には無理をさせてしまってすまぬな。俺としても、もう少し余裕のあるスケジュールで進むものと思っていたのだが……」



 指揮官であるシモンとしても、本来はもっとじっくりゆっくりと諸々の計画を進めるつもりだったのです。つい先日に設定された、残り一か月というタイムリミットはまさに寝耳に水。


 界港の建設だけならまだしも、開通式の当日には世界各国から王族やそれに近い身分の賓客が詰めかけることでしょう。


 鉄道のおかげで随分マシになったとはいえ、世界にはまだ馬車や人力車が主要な交通機関という国や地方も少なくないのです。特に移動が大変な遠方の国々に関しては、大国が保有する飛空艇を特例的に貸し出す手筈になってはいますが、いくら最新の飛空艇とはいえ風や天候の具合によっては航行を見合わせねばなりません。

 多くのゲストは数日から長ければ十日前後の余裕を見て早入りしてくるでしょうし、滞在中には様々な口実で毎日のように晩餐会などパーティの類が開かれるはずです。


 ゲスト達もそれぞれ身の回りの世話をする侍従や護衛を連れてくるのでしょうが、土地勘の利かない学都では色々と不都合もあることでしょう。そういったサポートをする接待役の手配に、相手側の警備責任者と顔を合わせてからの打ち合わせ。

 ゲスト同士の仲の良し悪しなどがあれば、不意に顔を合わせて険悪な状況に陥らぬよう、滞在場所や各人の移動スケジュールにまで気を配る必要もあるでしょう。



「接待役に関しては領主殿に頼んで伯爵家から人を寄越してもらう。伝手のある貴族家にも同じように。それでもまだ足りぬ分は国王陛下あにうえに助力願うことにする」



 学都方面軍の総数は五千人以上。

 しかし全員が学都に詰めているわけではなく、近隣の街や村に常駐している者も少なくないですし、通常の業務に関しても人手を割かねばなりません。どこをどう計算しても絶対的な人手不足に陥る未来が予測できました。



「期間中の巡回など会場外の業務に関しては、やはり冒険者を頼るのが手堅いか」


「しかし、団長。機密保持を考えると、連中に依頼の詳細を教えられるのは、それこそ開通式だかお披露目式だかの直前でしょう? どんな仕事かも分かんないのに、半月近くスケジュールを空けてくれる冒険者がどれだけいるかっていうと……」


「ああ、いや。それについては考えがある。一声かければ細かいことを聞かずに大勢が手を貸してくれるような、冒険者の間に凄まじく顔が利く御仁に心当たりがあるのだ。ただ、彼が今どこにいるのかが分からなくてな。迷宮都市の馴染みの店に顔を出してくれればよいのだが」



 不確定要素は大きいものの、シモンの人脈もそう捨てたものではありません。運良く目当ての相手が捕まれば、きっと多くの問題が一気に解決してくれることでしょう。



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― 新着の感想 ―
困ったら兄弟に相談 とりあえず、袖の下無しで必要な物を揃える下準備はしてくれる筈さ。 緊急クエスト、国王のお使いが始まりました。 拒否は認められません。王様の発言は国の総意なので。 シモンの部下なら…
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