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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十五章『新世界に至る道』

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世界平和の進捗確認


 世界の危機を片付けて、その後の後始末も一段落。

 途中から趣味的な遊びの部分が多くなっていたのには目を瞑るとして、流石にそろそろ本来のお仕事に戻らないといけません。



『さあさあ、お兄さんお姉さん達。今日も一日ご安全に、なの!』


『『『今日も一日ご安全に!』』』



 迷宮達に関しては、新地獄のブラッシュアップと新天国の本格的な着工。

 「安全第一」と書かれた黄色のヘルメットを被った悪魔や鬼達が、現場監督たるウル達の下で忙しなく動き回っています。動かし方を教わってゴゴ謹製のトラクターやショベルカーを走らせて、まだ手付かずだった天国も見るみるうちに形になっていきました。



悪魔(おれたち)が天国作りとは世も末だなぁ』


『でもまあ、前のボスみたいに機嫌が悪いからとか遊び半分でいきなりブッ殺されることはなさそうだし、ちゃんと働いてるうちはメシも食わせてくれるしな』



 一応、タダ働きというわけではありません。

 無限に生産可能な宇宙怪獣の肉をはじめ、各迷宮産の食料を現物支給することで労働の対価としています。いずれは金銭での支払いに移行することもあるかもしれませんが、必要な予算や管理の手間を考えるとまだ当分は先のことでしょう。




 ◆◆◆




「ん。皆、よく頑張った」


「いや、ライムよ。俺が言うのもなんだが、ちょっとやりすぎではないか?」



 ライムやシモンに関しては、教育を任された日本人達の総仕上げ。

 騎士団で馬術を習っていた面々は、シモンが不在の間にも一般団員から教わって着実に腕前を上げていたのですが、元々ライムが面倒を見ていた自衛官や警察官達はちょっと見ない間に大変なことになっていました。



「ヘヘヘ、ライムの姐さん。姐さんがお留守の間に俺らだけで迷宮のワイバーンを仕留めてきやしたぜ。まだガキだったけどな」


「ヒヒヒ、銃も嫌いじゃあねえが剣を振り回してバケモン共と殺し合うスリリングな感覚。もう、俺達すっかり病みつきでさぁ。キヒヒヒ」


「そうそう、ブッ殺した魔物を肴に一杯やるのがたまらねぇんだ。ガハハハッ」



 ちょっと見ない間に本当に大変なことになっていました。

 服装は元々偽装のためにこの世界で購入した衣服を着ていたのですが、それが破れたり擦り切れたりして全体的にワイルド風味に。以前は懐やカバンの中に隠し持っていた銃火器は他部隊に預けて身軽になり、その代わりとばかりに街中の武器屋で購入したと思しき大剣や両手斧を背負っています。

 格好といい言動といい、すっかりファンタジーな世界に順応してしまったようです。冒険者ギルドにでも行けば、誰一人として彼らが異世界人だとは思わないでしょう。



「楽しそうで何より」


「たしかに楽しそうではあるが。この者達、日本に帰しても大丈夫か?」



 まあ、大きく腕を上げたのは確かなようですし、この世界で活動する各チームの護衛という本来の役割をこなすには申し分ありません。任務が全て完了した後で、彼らが元の平和な日本の暮らしに馴染めるのかがやや不安ではありますが。




 ◆◆◆




 レンリ達の役割であった案内役の仕事についても、他の例に漏れず、いつの間にか大きく状況が進んでいたようです。それについての報告を、皆は日本人自衛官の運転する馬車の中で聞いていました。



「へえ、それじゃあ、これからは一般の不特定多数に情報を流していく感じ?」


「ええ。各国の有力者に関しては、もう粗方の根回しを終えましたので」



 日本国外務省の外村氏によると、世界各国の有力な貴族、豪商、聖職者、学者などへの根回しはほぼほぼ完了。大半の相手からは惜しみない協力を取り付けていますし、どうしても動かせない用件でスケジュールが詰まっていたり、積極的な援助が難しいと回答した少数に関しても、一連の計画が決着するまでは秘密を漏らさないという確約が取れています。各国の王が噛んでいる以上、よほどの破滅主義者でもなければ当然の判断でしょう。


 そして、ここから計画は次の段階へ。

 いよいよ、不特定多数の一般人向けの情報工作へと移っていきます。



「明日からいきなり『今日から異世界との行き来ができるようになるから上手いことやってください』なんて言われても、ほとんどの人は困っちゃうだろうからね。まあ、この世界はもう既に魔界相手に似たようなことをやったわけだけど」



 実際にはレンリの言うように即日誰もが行き来できるようになるのではなく、まずは両世界の要人や役人が行き来をして、それから審査を経て許可を得た法人が商売のために。民間人が旅行で自由に行き来できるようになるのは、その先の段階からでしょう。だとしても、当然の心情として多少の混乱が生じるのは仕方がありません。


 この世界は十数年前に魔界相手に似たようなことをやった前例があるわけですが、今から振り返ればなかなかに危ない橋を渡っていたものです。

 下手をすれば恐慌状態に陥った国や個人が、魔王に暗殺でも仕掛けていたかもしれません。魔王本人はそれでも特には気にしないでしょうが、その隣にいた元魔王の反応を考えると恐ろしいものがありました。最悪、国の二つや三つは消し飛んでいたかもしれません。


 色々と成功の要因を分析していくと、やはり勇者という存在の絶大なネームバリューを誇る人物が橋渡しの役目を務めたからこそ、辛うじて平和的な交渉が成立したと考えるのが妥当です。あることないこと語られまくった華やかなる英雄譚が、民衆の感情や考え方に与えた影響は決して無視できないものがあったことでしょう。


 その勇者本人だってもう一度同じことができるかと聞かれたら必死に首を横に振るでしょうし、今回は少なくとも表向きには勇者のネームバリューを使うことはできません。

 相棒のゴゴと力を合わせれば当時のリサをも上回る戦闘力を持つユーシャも、知名度においてはほとんど無名。彼女が本格的に三代目勇者としての活動を始めるのは、無事に他世界との交流が開始された後になるでしょう。



「でも、その代わりに今は当時にはなかったものがあるわけだ。正直そこまであの子達と親しいってわけじゃないんだけれど、まっ、使えそうなものは積極的に使っていかないとね。さあ、そろそろ着く頃かな」



 そうして一行を乗せた馬車が停まったのは、学都西側の職人街にある一軒の建物前。隣接する印刷工場から漂うインクの匂いが染み付いた建物には、『ハンプティダンプティ新聞社』という看板が掲げられておりました。



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