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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十五章『新世界に至る道』

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ゴッド・アイテム研究会


 最後はなんだか趣旨が変わっていましたが、兎にも角にも世界の危機は去りました。原因の解明と解決に成功したことで、砂漠地帯に発見された油田の本格的な調査も始まり、早くも現地の国と日本を窓口とした地球の各国間で取引レートについての話し合いも持たれているようです。


 まあ、そのあたりはもうレンリ達には無関係。

 今はそれよりも、先日の『悪神666同盟』世界からかっぱらって来た、もとい迷惑料として頂いてきた神器での実験や遊びに夢中です。騎士団の訓練場に我が物顔で居座って、あれやこれやとテストを繰り返していました。



「ふむ? 特にこれを持って強くなった実感はないのだが、とにかく言われた通りに剣の型をいくつかやってみたぞ」


「効果が感じられないのは、これまでの持ち主にシモン君を上回る達人がいなかったせいかな? まあ、そこまでは織り込み済みさ。次はその剣をルー君に渡して、それでちょっと振ってみたまえ」



 現在は神器『前の使い手の技量を引き継げる剣』の実験の真っ最中。

 生憎とシモンの場合は本人の技術が極まりすぎて、特にこれといった影響を実感できなかったようですが、先にいくらか振ってシモンが『前の使い手』となった状態で他の人に渡してみたらどうなるでしょう。首尾よく運べば、通常の成長過程を何段階も何十段階もスキップして、一気に達人になれるかもしれません。



「それで強くなっても、なんだかズルしてるみたいで気が引けるんだけど」


「なに、だとしても効果があるのは、その剣を持ってる間だけだろう。それにルー君だって、シモン君の技を使えるか試してみたくもあるんじゃないかい?」


「それは、まあ……なくはない」



 気乗りしないのと同じくらいに関心があるのも確かです。

 そして、そういう僅かな欲望につけこんで他人をコントロールするのは、レンリの得意分野。本物の悪魔も恐れおののく口八丁は伊達ではありません。

 シモンから受け取った『前の使い手の技量を引き継げる剣』を構えたルグは、間合いの範囲に誰もいない位置まで移動すると素振りを始めました。


 縦斬り。

 右の袈裟斬り。

 右の胴斬り。

 右の斬り上げ。

 斬り上げ。

 次は左からも同じように。

 ただ空振るのではなく、空にイメージした敵の防御を掻い潜って斬るように。

 毎日の自主練習で何万回も繰り返してきた動作だけに、その動きによどみはありません。普段との違いはどうか、というと素人目にはイマイチ分かりませんでしたが。



「うーん。シモン君と比べたら遅いなぁ。もっと山とか星とか斬ってみてよ」


「無茶言うな! というか、多分あれだな。確かにいつもより速さとか威力が上がってる感じはするけど、別に俺の魔力が増えたりとかはしないから。身体強化で上がるパワーとかスピードが元のままなら、それはまあ見た目でハッキリ分かるほどの差にはならないんじゃないか?」


「ルー君のくせに的確な分析をしてくるとは生意気な。よくできました、花丸をあげよう。歓喜にむせび泣きたまえ、さあ!」


「レンのそれはどういう感情のどういう反応なんだよ……」



 まあ流石に、いくら神器とはいえ持っただけで誰でもシモンと同等の使い手になれるほどの効力はなかったようです。とはいえ、言葉で説明するのが難しい微妙な力の入れ方抜き方の加減、関節の曲げ方に重心の移し方など最適な動きを身体で理解できるため、練習用の便利アイテムとして活用する分には十分に有用でしょう。



「今度、うちの団員にも使わせてみるか。訓練場の倉庫に放り込んでおくから、そなたらも使いたい時はいつでも遠慮なく使ってくれ」


「それなら今度、日本から筋電センサーを取り寄せるつもりだから、どういう仕組みで技量の記録と引き継ぎがされるのか詳しく調べさせてよ。何人か性別や年齢別にモニターさせてもらう形で。そうそう、脳波計も個人で買えるやつがあるか聞いておかないと」


「そのうち神器のコピー品とか量産しそうだな、コイツ」



 神器のサンプルを何十何百と目にする機会を得て判明したのは、この世界の女神が創った聖剣や聖杖の完成度の高さ。何かと頼りない面の目立つ女神ですが、神器の創造に関しては神様基準でもかなりの上澄み側だったようです。

 現状レンリの最高傑作である流星剣でも、本物の神造聖剣と比較するとまだ一段か二段は落ちるのは否めません。剣自体が成長する特性ゆえに今後追いつく可能性はありますが、成長するのは神造聖剣も同じこと。同じペースで育っていては、いつまで経っても追いつけません。更なる改良・改造による成長スピードの加速が当面の課題でしょうか。



「で、神器からそのあたりのヒントを得られればと思ったわけさ。おっと、そういえば他の実験も並行して進めてもらってたっけ」



 そう言ってレンリが視線を上げると、ちょうどルカとライムが大きな鍋を抱えて訓練場に運んでくるところでした。他にも日本製と思しきクーラーボックスや素朴な竹カゴなどもありますが、やはり真っ先に目に付くのは巨大鍋。

 そのサイズは並のドラム缶以上。個人用のお風呂としても使えそうなビッグサイズです。もっとも、この鍋を風呂代わりにするのは、色々な意味で避けるのが賢明と思われますが。



「お、お待たせ……ちゃんと、使えた、よ……『食材を放り込むだけで勝手に料理が出来上がる大鍋』……」


「ん。食材提供」



 神器『食材を放り込むだけで勝手に料理が出来上がる大鍋』。

 先日のじゃんけん大会でルカが勝ち取った景品になっていたシロモノです。

 お肉、お魚、野菜、果物など、食材を放り込んで念じるだけで勝手に美味しい料理が出来上がるという、世の奥様方がノドから手が出るほど欲しがりそうな脅威のアイテム。今回はライムの協力で迷宮産の食材をあれこれ集め、検証のために実際使ってみたというわけでして。



「熊。美味」


「うん……いっぱいあるから、どうぞ」



 例えばライムの好物である熊を山菜や味噌と一緒に放り込むと、あっという間に絶品の鍋料理のできあがり。臭み取りの下ごしらえや筋切りもしっかりとされています。

 血抜きどころか毛や爪が付いたままの状態で入れたはずなのに、完成した料理には可食部以外の部位はどこにも見当たりません。一体どこに消えてしまったのかを考えると、少々怖いものがありました。間違っても浴槽としての使用をしないほうがいいと皆が判断した理由もお分かりでしょう。



「果物。ジャム」


「甘いのも、できた……よ。あとは、牛乳を入れると……生クリームになったり」



 『食材を放り込むだけで勝手に料理が出来上がる大鍋』は、しょっぱい系以外にも対応しています。果物と砂糖を入れれば、煮詰める時間もほとんどなしで甘いジャムやコンポートに。牛乳を流し込めば生クリームやバターに早変わり。どういう風に加工するかは、使用者の意思によって多少のコントロールができるようです。



「なるほど、これは便利だ。ルカ君、良いモノを手に入れたね」


「えへへ……お料理、楽しい」



 料理の過程そのものを趣味的に好むルカとしては、便利な道具を手に入れたからといって何もかも任せきりにするつもりはありませんが、面倒な下ごしらえや時短に活用する分にはこんなに便利なキッチングッズも中々ありません。

 台所で普段使いするには大きすぎるのがネックですが、そこはルカ自身の便利能力でカバーが可能。手を触れることなく鍋底の完成品だけを浮かび上がらせれば、何も問題はありません。



「魚」


「そうそう、こんなのも……できたの」



 早くも熊鍋を完食して鍋が空いたため、ルカとライムは皆の目の前で面白い実験結果を披露することにしたようです。クーラーボックスに入っていた第三迷宮産の新鮮なマグロやハマチ、それから別のカバンから取り出した穀類や調味料を『食材を放り込むだけで勝手に料理が出来上がる大鍋』に入れてグツグツと煮込むことしばし。そうしてできあがったのが……。



「えへへ、お寿司……おいしい、よね」


「いや、美味いけどさ。流石に生モノはちょっとおかしくない?」


「ルー君は細かいことを気にするねぇ。ああ、ルカ君。次は中トロの部分を握って? それとも煮込んで、かな? まあ、いいや、とにかく美味しいところを頼むよ」



 新鮮な魚とコメやお酢と一緒にグツグツ煮込めば、あっという間に新鮮な握り寿司のできあがり。もちろん魚肉部分は生のまま。いったいどんな仕組みになっているのか実に不思議です。



「そうだ、この鍋の仕組みも解明してさ、ステラ君で斬った相手が美味しい料理になる機能とか組み込めないかな? シモン君、どう?」


「はっはっは、面白い話だがそれは勘弁願いたい。敵が魔物ならまだしも、人間相手の試合などでそれをやると流石に困るのでな」



 どこまで実現可能かはさておいて、数々の神器は大いにレンリのインスピレーションを刺激したようです。彼女の好奇心が赴くままに任せていたら、今後、流星剣やルグの武器にどんな恐ろしい機能が盛り込まれるか分かったものではありません。


 さりげなく穏当な方向に誘導するようにしなくては。

 レンリ以外の皆は、言外にそう誓い合うのでありました。



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― 新着の感想 ―
レンリの新作鍋その名も闇鍋君 とりあえず無難なメニューに挑戦ですね
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