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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十五章『新世界に至る道』

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間に合うか、間に合わざるか


 巨神がこの場を離れてから既に三分、いえ、五分は経過しているでしょうか。

 神気の気配だけを残して、正確にはそう感じるよう『奇跡』で小細工をして、敵に警戒状態を維持させたまま密かに戦場を離脱する。単純かつ姑息な手ではありますが、それだけに見破るのは困難です。



「ウルよ、奴が向かったのは俺達の世界で間違いないのだな?」


『うん、そのはずなの! 急いで戻らなきゃ間に合わなくなっちゃうのよ!』



 百腕巨神がこのままどことも知れぬ異世界に逃げたのであればともかく、逃走先は他でもないウル達の世界。ウルが『奇跡』で視た結果なので、その狙いは確かなはずです。


 恐らく百腕巨神は、この今やボロボロの廃墟と成り果てた『悪神666同盟』世界を主力が攻めて手薄になっている隙を突こうとでも考えたのでしょう。

 迷宮達の力の源である信仰心を生産する人間の数を直接的に減らす、あるいは親しい者達を始末することで動揺させる。戦闘中、技術と経験差によって次第に押されてきたとはいえ、単純なパワーやスピードにおいてはまだまだ巨神に分があるのです。精神面を崩せば逆転を狙えるとでも思ったのかもしれません。



「うむ、それは不味いな。俺達も急ぎ引き返さねば」


『じゃあ、空にいるレンリさん達も急いで連れてくるわね』


「ん。なるはやで」



 シモンやヒナやライム、他の皆も大いに慌てています。

 今から急いで追いかけたとして、果たして百腕巨神の到着から何分遅れになることやら。このままでは本当に手遅れになってしまうかもしれません。


 上空に避難させていた非戦闘員の皆や、ついでに成り行きで保護する形となった『悪神666同盟』の下っ端数億も引き連れて、大急ぎで迷宮達が開いた世界間移動用のゲートに飛び込みました。





 ◆◆◆





「くっ、間に合わなかったか……?」


 自分達の世界に戻った直後。

 シモンが悔しげに言葉を放ちました。

 無論、彼だけではありません。

 ライムや迷宮達も大変に残念そうにしています。


 ちなみにレンリやルグやルカは安心したような呆れたような、その他大勢の悪魔や鬼達は自分達の目がおかしくなったとでも思ったのか、しきりに目をごしごし擦っています。



「あれ? やあ、皆こんにちは。今日はずいぶんと大人数だね」


『ガ……バ、バケモノ……』



 皆の前にいたのは、素手で百腕巨神を半死半生にまで追い込んでいたと思しき魔王の姿。なんらかの能力によるものか、それとも再生不可能になるまで体力や魔力や神力を削ったせいか、力任せに引き千切られたらしい手足が生えてくる様子もありません。


 ちなみに、現在彼らがいるのは迷宮都市近くの山間部。

 巨神の体格ならば、きっと街のどこからでもよく見えたことでしょう。巨体が倒れ込んだことで周囲の木々が折れたり、怯えた野生動物が逃げ出したりはしたようですが、目に付く被害といえばその程度。これくらいなら十分に許容範囲内です。

 どちらかというと無駄に数だけ多い悪魔達のほうが大変です。とりあえずはヒナが大半をまとめて液体化して、生きたまま高密度かつコンパクトに圧縮してあります。



「ううむ、この様子ではすでに致命傷か? まあ仕方がないとはいえ、できれば一対一で勝てるようになってからトドメと行きたかったのだがな」


「この魔物? 魔物かな? まあ、どっちでもいいけど、この手が沢山ある生き物って、もしかしてシモン君達が戦ってたのかい? もしかして皆の獲物を横取りしちゃったかな、ごめんごめん」


「いやまあ、今回は文句を言うつもりはないが。結構強いだろう、コレ?」



 実際、魔王がなんとかしていなければ、この惑星は今頃粉々に粉砕されていたかもしれません。修行のための手頃な獲物として惜しいという気持ちはあれど、シモンにも魔王を責めるつもりはありませんでした。



「――――へえ、悪い神様が合体してこんな感じに? この人……じゃなくて、この神様と戦えるなんて皆ちょっとの間にすごく強くなったねぇ。そろそろウチの奥さん達でも簡単には勝てないくらいなんじゃないかな?」


「それならば嬉しいがな。アリスやリサが無事に出産を終えた後、落ち着いてから手合わせを願いたいところだ。出来ればその前に、もう一つか二つは壁を越えておきたくもあったのだが」



 だからこそ、シモン達としては格好の獲物を奪われたくなかったのです。

 とはいえ、流石に自分達の修行と世界平和を天秤にかけることもできません。



「ああ、そういうことならまだギリギリ間に合うかも? ちょっと治してみるから、周りに迷惑のかからない場所で戦うといいよ」



 ですが、魔王としてもできれば若者の貴重な学びの場を奪うことはしたくなかったようです。もう消滅間近だった百腕巨神に魔力を送って蘇生と再生を試みました。そして危険域を脱したあたりで腕を片手で掴むと、



「よいしょ、っと」



 そのまま真上に向けてブン投げたのです。

 まだ意識が朦朧としたままの巨神は、まったく抵抗もできずに大気圏外にまで飛ばされました。これはつまり周囲の迷惑を考えずに済む宇宙空間で、思う存分に戦って鍛えればいいという魔王の粋な計らいということでしょう。



「そろそろ意識を取り戻す頃かな? じゃあ、僕はお店に戻るから皆はじっくりと鍛えておいで」


「うむ、かたじけない。今回はすっかり借りを作ってしまったな」


「ははは、そんなの気にしなくてもいいのに。常連さんへのサービスって感じ?」



 飲食店のサービスとしてはあまりにも常軌を逸していますが、そんなものは今更です。いちいち気にしていたらキリがありません。



「では、俺達は修行に行ってくるとしよう。レンリ達はどうする?」


「できれば魔王さんと一緒に人里まで戻りたいかな。悪魔の皆は……とりあえず代表の何人か以外は人目に付かない砂漠とか山奥で待機してもらって、その間に今後の身の振り方を一緒に考えることにしようか」



 シモンやライムや迷宮達は、早速地面を強く蹴って宇宙空間にまで行ってしまいました。早く強くなりたくて先程からウズウズしていたのでしょう。


 特に修行に興味がない、それ以前に自力で宇宙に行ったり生存したりが不可能なレンリ達は、このまま魔王に連れられて迷宮都市へ。鬼や悪魔の代表も何人か一緒に連れて行き、今後の扱いについて相談する流れとなりました。

 いくら大都市とはいえ、迷宮都市に何億人も連れていけるわけがありません。当面の間は、人里離れた場所で隠れ住むことになりそうです。



「ああ、言うまでもないとは思うけどね。無断で逃げ出したり、この世界で悪さをするようなら、相応の末路が待っているものと思ってくれたまえ。じゃ、そういうことで」



 空気が存在しない宇宙空間にいる以上はあり得ないのですが、耳を澄ませば空の彼方から悪魔達の元ボスの悲鳴や肉が潰れる音や骨が砕ける音が聞こえてくるような気さえします。先程の様子からして、シモン達が一対一でも軽々と圧倒できるようになるまで戦いが終わることはないでしょう。虚を突いての逃走も二度目があるとは思えません。


 もしも言いつけを破ったら、どれほど恐ろしい目に遭うことか。

 元『悪神666同盟』の下っ端にして現レンリの忠実なる下僕となった悪鬼一同は、心の奥底から恐怖に震え上がるのでした。


ウルが主人公の番外編『幼い女神の迷宮遊戯』の第二章を始めました。

良かったらそちらもどうぞ。

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まさかのレンリの下僕 レンリが寿命で居なくなるまでこき使われる未来しかない。
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