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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十五章『新世界に至る道』

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最新最悪の百腕巨神


 地面を突き破るようにして現れた巨神。

 上半身の至るところから生える無数の豪腕と、腕の隙間を埋めるように存在する多頭。その多腕多頭の異形姿は、地球のギリシャ神話における百腕巨人(ヘカトンケイル)を彷彿とさせるものがありました。絵に起こそうとしたら作画コストがエラいことになりそうです。



『羽虫ガ、消エロ……!』


「む」



 そんな百腕巨人、いえ、百腕巨神は高尾山の標高(599メートル)ほどもありそうな巨体にも関わらず、小柄なライムにもひけを取らぬ俊敏さを合わせ持っている様子。空中に弾き飛ばされ、おまけに両腕が大きく折れ曲がっているライムに、容赦のない平手打ちを喰らわせたのです。


 音速を遥か凌駕する速度で叩かれたライムは、途中で何度か大きく地面に激突してバウンド。地面に接触したり基地内の建物を突き破るたびに大きく勢いを減じながらも、最終的に約百キロメートルも吹っ飛ばされて、じゃんけん大会の会場近くまで転がってきました。



「ライム、無事か!?」


「うん。全然平気」



 まあ肉体的なダメージからも『自由』である彼女は、駆け寄ったシモンが手を差し伸べた時には、すでに全身複雑骨折と内臓破裂の重傷も完治していたのですが。なんとも心配のし甲斐がありません。彼女は服や髪の土埃をパパっと払いながら立ち上がりました。


 しかし、解せないのは『自由』であるライムに攻撃を通せた点です。

 それ以前に、見るからに図抜けた強さを持つ悪神がまだ残っていたのかという疑問もありました。あれほど強大な神が最初からいたのなら『悪神666同盟』が、ここまで一方的なワンサイドゲームになることはなかったはず。



「共食い」



 皆が抱いていた疑問に対しては、百腕巨神の誕生の瞬間を間近で見ていたライムが答えました。共食い。すなわち、地下にて逃げ惑っていた生き残りの悪神百余柱。単一であれば難なく喰われるだけの存在であったそれらが、せめて一矢報いようとして仲間同士で喰い合い融合した姿が、あの多腕多頭の異形の神ということなのでしょう。


 言わば、667番目にして最新最強最悪の神。

 素体となったのは百と少し程度ですが、その強さ、その威圧感は、元々の666柱を単純に足して束ねた以上のものがありそうです。



「興味深い現象だね。なにしろ元が悪党同士だからね、同属性ゆえの相性の良さというか相乗効果というか、そういう特殊ボーナス的なモノが乗った感じなのかな?」


『あ、そういうのゲームで見たことある気がするの!』


「ふむ、それならウル君達も姉妹で合体すれば、一気に強くなれるんじゃない?」


『うーん、でも合体って要は共食いなのよね? 流石にそれは抵抗あるの。後で元に戻れるかも分かんないし』



 事実、百腕巨神への変化は二度と元へは戻れない不可逆のもの。

 ハイリスクゆえのハイリターン。

 最初から可逆性を織り込んでの合体ならば、これほど強大な力を手にすることはできなかったはず。敵ながら天晴れな覚悟の決めようです。ライムにジワジワと追い詰められて極限の恐慌状態に陥りでもしない限りは、彼らも決してそんな決断はしなかったことでしょう。



「あれは流石に一人では手に余るか」



 シモンの見立ては正確なものでした。

 ロクな連携もなくバラバラに襲ってくる百柱の神を相手取るならいざ知らず、単一の意思によって制御された百腕を相手に同じように戦うのは少々厳しい。単純なパワーもスピードも、手数においては言うまでもなく、あらゆる要素が今のシモンやライムや迷宮達を上回っています。




「む、どうやら俺達がここにいることに気付いたようだぞ。ふむ、足の速さからして……あと、ざっくり十二秒くらいでこっちに来るな」


「へえ、図体が大きい割に大したスピードだね。それじゃあ分かってると思うけど、ここからは」


「うむ、まずは戦えぬ者の避難だな」


「うんうん、放っておいたら秒で死ぬ自信があるからね。しっかり守ってくれたまえ。ついでに周りにいる悪魔達にも恩を売っておくとしようか。ああ、あと八秒くらいでこっち来そうだから話の続きは巻きで頼むよ」


「了解した。で、避難の後はだな」


「戦える皆で袋叩き(フクロ)にするんだね?」


「誰が戦闘()るか、ここは公平にじゃんけんで決めるとするか」


「え」



 ここで残り時間ゼロ秒。

 全力疾走してきた巨神が地面に倒れ込むようにして、元じゃんけん大会の会場だった一帯に全力の百腕パンチを打ち込みました。





 ◆◆◆





 まあ、当然のように無事だったのですが。レンリ達非戦闘員に関しては、こういう時に便利なヒナがまとめて液化させて超高速で安全圏へと移動させていました。


 もっとも、空振りに終わったとはいえ、先の百腕パンチは地球の約十倍に迫る面積を誇る巨大惑星の一部を、星の反対側まで貫通させるほどの威力がありました。この『悪神666同盟』世界のどこにいても本当の意味で安全な場所などなさそうですし、もはや放っておいても風通しが良くなった星は勝手に崩壊してしまうかもしれません。



「やれやれ、あらかじめ価値がありそうな物を一か所に集めておいて良かったよ」



 レンリ達が移動した先は、この世界の宇宙空間ギリギリの高高度。

 無論、本来なら呼吸やその他生命活動に支障があって然るべき場所ですが、ヒナが創って浮かべている巨大水球の内部には平地同様の空気もたっぷりありますし、有害な宇宙線の類も防いでくれるのだとか。

 偶然とはいえ事前に集積していた神器や各種物資の多くも持ち出していますし、ついでに同盟の元下っ端で現在はレンリの忠実なる下僕となった悪魔達も一緒にいます。



「おかげで助かったよ。ヒナ君は良い子だね。よっ、都合の良い女!」


『その言い方はやめて!?』


「ところで話は変わるけど、ヒナ君って将来バンドマン志望のヒモ彼氏とかに引っ掛かりそうだよね。真面目で世話焼きなところとか。変なのに絆されないように気を付けなよ?」


『引っ掛からないわよ! まったく失礼しちゃうわ。皆もそう思うわよね……え、なんで顔を逸らすの?』



 と、都合が良いことに定評のあるヒナのおかげで、非戦闘員の安全確保についてはひとまず安泰。いざとなったら別世界にまで避難することも考えねばなりませんが、まあ今はこのままでも大丈夫でしょう。


 それよりも問題なのは、地上に居残った戦える組です。



「じゃんけん、ぽん!」


『あいこで、しょ!』



 彼らは未だに誰が代表して戦うかを巡って熾烈なじゃんけん大会を続けていました。無論、敵が待ってくれるはずもないので、超音速で飛んでくる無数の拳を避けながらです。



「むぅ。アレ、私の」


「ははは、早い者勝ちなら確かにライムに分があるが、アレが出てくる前にもずいぶんと楽しんでいたのだろう? 俺は途中から肉の処理にかかりきりで、まだ三十ほどしか戦えておらんのだ」



 百腕巨神の出現に立ち会った自分に優先権があるというのがライムの主張でしたが、シモンや迷宮達だって強敵との戦いを楽しみたい気持ちは同じ。多数決だと、どうしてもライム不利になってしまいました。



「じゃんけん、ぽん……よし、勝った!」


『シモンさん、約束通り一分交代なのよ』


「うむ、分かっておるとも。一分以内に倒せるよう全力で行かねばな」



 そして追加で決まったのが一分間の交代制。

 誰かが一分戦ったら再びじゃんけんで勝者を一人決め、一分戦う。

 運が良ければ誰か一人が連続で二度三度と戦うこともあり得ますし、逆に戦う機会が全然巡ってこないこともあり得るという恐るべきルールです。


 敵は最新にして最悪の百腕巨神。


 一対一ではまず勝てないであろう難敵です。

 が、それはあくまで今のままではの話。

 現時点でも皆が力を合わせれば打倒できるかもしれませんが、それでは少々つまらない。もったいないというものです。


 一瞬でも気を抜けば即死もあり得る状況とは、すなわち平時の修行よりも遥かに大きく成長できる好機。ならば、格上相手の実戦という貴重な機会を逃す手はなし。



「相手にとって不足なし。いざ、参る!」



 ただの肉としてだけでなく、その強さを、存在の格を、技術を、思考を、発想を、悪知恵を、戦術を、闘志を、経験を、敵を構成するありとあらゆる全てを貪欲に喰らい尽くして己が糧とすべく、シモンは真正面から正々堂々斬りかかりました。



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― 新着の感想 ―
お、神話の再現回来た! 相手が合体の集合体ならゴゴをベースに迷宮も合体ロボになれるはず。 ライムにダメージ 〉一回は一回だ とか言われそう。
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