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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十五章『新世界に至る道』

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自由少女


 さて、今更といえば今更ですが。

 ライムが開眼した魂に由来する能力は、空気や重力の抵抗を無視して高速移動ができたり、あるいは腹の中の赤ん坊を皮膚や筋肉を無視して取り上げることを可能とする物質透過スキル、ではありません。正確には物理的な各種影響の無効化もその一部ではあるのですが、能力の本質はそこにはありません。その正体は……。



「ん。お邪魔します」


『ぎゃあっ、出たぁ!?』



 ライムが出現したのは『悪神666同盟』の本拠地たる巨大惑星の中の、更に厳重に秘特された秘密部屋。地下十キロメートル地点に存在する出入口の存在しない空間です。広さは東京ドーム換算でざっくり十個分くらいでしょうか。

 同盟幹部たる悪神の中でも、特に戦闘力や狡知に長ける上位の実力者のみが知るその場所は、なにしろ出入口が存在しないので物理的な手法による侵入は不可能。そこにそういう場所があると認識した上で、空間転移系の魔法やそれに類する異能を行使しなければ入ることすら叶いません。



『き、きき、貴様、どうやってこの場所を!?』


「ん……勘?」



 とはいえ、いくら厳重に隠していても野生の勘という理不尽には通用しなかったようです。どんな分野に対しても常に同水準の精度を発揮するとまではいきませんが、こと闘争に関するライムの勘はもはや未来予知にも限りなく近いレベル。「なんとなく」で隠れ場所を特定するくらいは造作もありません。



『いや、いくら手強くとも敵は一人だ!』


『そうだ、一斉にかかればあんな小娘程度!』


『多勢に無勢だ、いっけぇー!』



 が、敵も只者ではありません。

 なにしろ力量にバラつきこそあれど全員が神。

 見た目だけならお世辞にも強そうには思えないライムを実際に見て、なんとか勝てそうな気もしてきたのでしょう。比較的、戦闘に長じた神が音頭を取って一斉攻撃を仕掛けました。


 光速で撃ち出された極太の熱線。

 太陽の中心温度に相当する炎熱。

 絶対零度のブリザード。

 あらゆる生物を蝕む死毒の霧。

 

 そんな具合に色々と。

 なにしろ神である自分達は基本的に不死身なのだから、同士討ちや巻き添えを気にする素振りもありません。いくら東京ドーム十個分相当の広さがあるとはいえ、出鱈目に放たれた破壊の嵐は地下空間を隙間なく蹂躙していきました。

 仮に全ての攻撃に耐えきったとしても、酸素も残らず燃え尽きているので呼吸すらままなりません。どんな生物であっても生き残れるはずがない……なんて甘い見込みが通用する相手なら、そもそも天下の『悪神666同盟』がここまで追い詰められるわけもないのですけれど。



「もう終わり?」


『うわぁ、どう見ても無傷!』



 光速も高熱も冷気も猛毒もその他諸々も、今のライムにとってはあえて受けようと思わない限りは春のそよ風と変わりません。

 呼吸についても風魔法で全身の細胞に直接適量の酸素を供給したり、肺の中に新鮮な空気を召喚したりといった形での対応も出来ますが、そもそも酸素を必須とするという肉体の常識に縛られなければ、その必要すらありません。



「じゃあ、こっちの番」



 ライムは向かってくる攻撃が一通り止まったのを確認すると、手近にいた小柄な悪神の間合いに無造作に踏み込み、そぅっと手を伸ばしました。決して速くはありません。子供や小動物の頭を撫でるかのような優しい手付きです。しかし、その手は体毛や皮膚や頭蓋骨をすり抜けて直接脳に触れ……ぐしゃり、と。



『あ、あが、あぎがが』



 神の不死力であれば脳が破壊されても時間を置けば自然と回復します。

 しかし一時的に思考が止まることは避けられませんし、不思議なことにライムが頭部がら手を引き抜いた後も再生が始まりません。



「頭を冷やしてもらった」



 そう言ってライムが手のひらの上に出現させたのは、小さな氷の塊。

 彼女の魔法の腕前なら造作もなく作り出せるモノですが、それを潰した脳の隙間に置いてきたということなのでしょう。体内に異物がある限りは再生能力が正常に働かない、あるいは大きく阻害される。単純ではありますが、高度な回復力を持つ相手との戦闘では有効な手段です。

 神を食べても消化できないライムには、ウル達と違って完全なトドメを刺すことはできませんが、こうすれば後で迷宮達に引き渡すまで安全に確保しておけるというわけです。



「次は誰?」


『ヤダッ、あの子怖い怖い怖い!』


『助けて、母神ママ~!』



 問題があるとすれば絵面がホラー作品のクリーチャー的な方向で怖すぎるという点ですが、まあ悪党が相手であれば問題はないでしょう。このままでは確実な死。かといって地上や他の世界に逃げようとしてもライムの同類に襲われて死。


 こうして出口のない地下空間で、殺人鬼ならぬ殺神鬼から神々が逃げ惑うタイプの極限状況スリラーが幕を開けました。





 ◆◆◆





 一方その頃。

 ほぼ制圧が完了した地上では、軍門に降った悪魔達にレンリが指示を飛ばして、基地内のあちこちに隠されていた金銀財宝や食料品をはじめとした様々な物資を集めていました。

 そういった通常の物品に加え、様々な未知の異世界の知識が記された書物や、数は少ないながらも神力の込められた神器までも回収できたのは大きな収穫です。一連の事件の迷惑料としては十分でしょう。



「ライムの能力か? 少々ややこしいのだが、そうだな、俺はアレを『自由になる力』だと解釈しているぞ」



 そんな状況で肉の下ごしらえをしていたシモンとレンリとの雑談で出てきたのが、ちょうど大暴れ中のライムの魂スキルについて。シモン曰く、あの能力の正体は『自由になる力』だということですが。



「自由といっても色々な解釈があるだろう? 空気抵抗を無視してたりするし、物質的な影響を任意で受けなくできる力ってことかな?」


「いや、相手は物質だけに限らんらしい。そのあたり俺の技とも似ているが、概念や観念的なアレコレまで含めた色々だな。例えば俺も常に斬っているのだが、自分自身の『成長の壁』とか」


「ああ、なるほどね。キミ達いくらなんでも最近ちょっと強くなりすぎって思ってたけど、そういう人間としての限界とかもう全然存在しない感じなんだ」



 自由とは縛られないこと。

 縛られないとは影響されないこと。

 故に、物理的な攻撃に影響されないこともできますし、成長の勢いが増すことはあれど自らの限界に突き当たって強さが伸び悩むこともありません。むしろ強くなればなるほどに能力の練度も増していき、指数関数的に伸び率が増大していくわけです。



「まあ、うっかり加減を間違えると惑星の自転や公転やらまで無視しかねないせいで、一瞬で宇宙空間まで弾き出されかねないらしいが。というか、実際一度やらかしたらしいが」



 致死的な宇宙線や無酸素に対応できなければ危ないところでしたが、結果的には宇宙空間での戦闘も十全にこなせることが判明したので本人的には万々歳。オマケにライムはその体験をヒントに(まだあらゆる距離と方向に自由自在とはいきませんが)天体運動を利用した天文学的超高速移動術なども模索しているようです。



「じゃあさ、いやコレ本人が聞いたら怒るかもだけど、もっと身長とか色んな部分のボリューム面を伸ばしたらいいんじゃない?」


「ああ、うむ、それも試してはみたようなのだがな。どうもそういう方面は無意識下の苦手意識が邪魔をしているせいか、上手く成功しなかったみたいでなぁ。無論、俺としてはどのような姿であれ好ましいと思うのだが」


「なんでもかんでも無条件に自由に、とはいかないのか。ままならないねぇ」



 果たして、ライムはどこまで自由になれるのか。

 どこまで自由になってしまうのか。

 なんとも末恐ろしいものがありました。



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― 新着の感想 ―
問答無用で全滅されなかっただけまだマシだった 最近ハマってる近畿○○のたまに叙霊するヒグマに見えてくるフィジカルなライム 気が付けば、こ奴らも舎弟になるフラグが見えてる
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