自業自得のバッド・パーティ
異世界で悪事カマすと幼神が来襲る。
早くも風前の灯火となった『悪神666同盟』。
すでに五百以上もの幹部を失い、残った神々は基地内の地下に密かに設けられた地下空間へ。味方の神々の中でも特に強大な一部しか存在を知らない隠し部屋に退避して、反撃の機を窺うべく話し合いを繰り返していました。
『残酷ェ! ちょいと二、三の世界で人類麻薬漬けにして絶滅しただけなのにあんまりだ!』
『ワシの父神も幼神に殺された! 女子供ほんの十億人ぽっち拷問したくらいで血も涙も皆無ェ!』
『ワシら、このまま、死、死んで……ッ!?』
とはいえ、残念ながら建設的な話はあまり出てきません。
これまで強大な神の力を背景に、無数の世界で罪もない人々を面白半分に苦しめてきた悪しき神々が、今回初めて狩られる側に回ったのです。たとえ何千何万年と生きていようが、そういった気質の神々にとっては同格以上の相手と戦うなど生まれて初めてという者も少なくないのです。
問.もし本当に全知全能の神がいたとして、その神にできないことは何か?
答.成長。成長の余地があるということは、現時点での完全性の否定である。
まあ、こんな問題は単なる言葉遊びか揚げ足取りみたいなものですが、なまじ生まれつき大きな力に恵まれたばかりに向上心を喪失してしまう。この場合の『力』の解釈は様々ですが、そういう落とし穴に嵌まる恐れがあるのは人間でも神でも同じなのでしょう。
『大体、なんじゃいアイツらぁ? 幼神どもが強ェのは……まあ、面白かぁねえがまだ分かる。ひよっ子たぁいえ、ワシらと同じ神じゃけえの。じゃがのぉ、あん餓鬼どもと一緒におる人間ども。アイツらぁ、なんで当たり前みてぇに神より強ェんだ?』
『ああ、そういや偵察に出した下っ端連中が言っとったのぉ。幼神と一緒に何人か来とった人間どもがいるとか。ただの金魚のフンじゃあなかったんかい』
『おう、特にそん中の剣振り回しとる男と耳長の女。あいつら、おかしい』
神が神を狩るというのは、認めるに心情的な抵抗はあれどまだ分かる。
しかし神性を持っているわけでもない人間やエルフが神々を、それも圧倒的な力でほぼ一方的に狩るというのはどういうわけか。シモンやライムは、最早その存在そのものが悪神達の理解を越えていました。
『ここはまだ当分見つからねぇだろうがよぅ……このままじゃあ全滅だぜ?』
『どうする、いっそ基地を放棄してどっか遠くの世界に逃げるか?』
『……無理だ。無理だった。あいつらご丁寧に、この基地全体を神力の結界みたいなモンで覆ってやがる。あいつら以上の神力じゃなけりゃ突破できねぇし、逃げようとして空間に穴開けた瞬間に秒で居場所を探知される。さっき逃げ腰で臆病っちまってた三下神を適当に唆してな、ワシが安全に逃げられるか試してみたらそうなった』
流石は悪神と言うべきか。
味方だとしても利用・裏切りは当たり前。
その実験の結果判明したのは、もう生きてこの基地を出ることができそうにないという事実だけでしたが。
『じゃあ、いっそ降参して命だけは助けてくれるよう頼むしか……』
『甘い。それも、もうやった奴がいた。あいつらの中の悪魔みたいな人間の女が幼神どもに命令して、知ってることを全部教えれば云々とか言ってたのに、情報が一通り出たと思った瞬間に……首から上を丸齧りじゃあ!』
『なっ、なんちゅう卑怯な真似を……! 心は、ヒトの心はないんか……っ!』
正確には、これは誤情報。
降参を受け付けないのは『悪神666同盟』の幹部だけ。
神以外の悪魔や鬼や使い魔やその他諸々に関しては、レンリ達も人道に則った寛容な姿勢で積極的な投降や密告や裏切りを推奨しています。
すでに投降した悪魔をあえて敵陣に紛れ込ませ、『悪神666同盟』側が劣勢にあるかのような(実際その通りであるのですが)不穏な噂を流して士気を低下させたり、降参すれば命だけは保証されるらしいとの噂を流布したり。そういった情報工作にも余念がありません。
ここまで来れば単純な力押しでも勝てそうなのに、あえてそういう遠回しな手段を取っているのは、恐らくレンリの個人的な趣味嗜好によるものでしょう。
集めた捕虜の前で元々の上司たる神を喰う様を見せつけながら「そういえば悪魔の肉ってどんな味がするのかな?」など、わざとらしく独り言を呟いていたのも大いに効果的だったようです。現時点でまだ生き残っている悪魔の大半は、もう完全に心を折られて屈服していました。
『人間如きが神なんざ喰ったら、一発で人格ぶっ壊れて肉体乗っ取られるんじゃあないか?』
『いや、それがなんか平気みたいで。そのへん詳しくは分からんが、神を食材として調理するための技術や道具なんかがあるのかもしれんな』
『おいおい、あいつら頭おかしいんか……おかしかったわ』
『まったくだ、神を喰おうなんざ不遜にもほどが……ん? いや、待てよ。これならあいつらにも勝て……』
最後の一柱が何か閃きかけた、その直後。
地下深くの秘密部屋にいるはずのない人物の声が聞こえました。
「ん。見っけ」
『『『キャアァァーッ!?』』』
分厚い岩盤をヌルッと透過して地中を直進してきたのでしょう。ライムの首から上が秘密部屋の天井から生えているのを見た神々は、恐怖のあまり絹を裂くような悲鳴を上げました。
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≪おまけ・ライム(髪下ろし)≫




