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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十五章『新世界に至る道』

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ワームホール・イン・ワン


『ああ、それはきっと世界獣ですね』


 大勢の人間を丸呑みにした巨大生物。

 それが驚くべきことに、世界の中と外とを隔てる壁を破って逃亡。

 追跡に当たっていたヒナとモモからその報せを受けた一同は、賢明にも自分達だけでなんとかしようとせず即座に女神に連絡しました。先の一言は、その女神から出た言葉です。正確にはウルが普段女神の依代としている神子の姿に変身して、その姿で女神の言葉を代弁しているというややこしい状態なのですが、まあ、そのあたりはいいとして。



「セカイジュウ……世界中?」


『いえいえ、レンリさん。世界の獣で世界獣です。まあ、わたくしが昔から勝手にそう呼んでいるだけなので、一般に知られている呼称ではないのですけど』



 不幸中の幸い、あるいは年の功と言うべきでしょうか。

 女神は件の怪生物に心当たりがあるようです。



『とはいえ、わたくしが知っているのとは別個体でしょうけれど。世界獣というのは、世界の壁に穴を穿つ能力を有する生物の総称ですから。これまで見てきた中だと可愛らしい子犬とかカブトムシとか、あとは海にいるタコなんかもいましたね。わたくしが把握してないだけで、他にももっといた可能性はありますが』


「なんというか……壮大な能力の割にはイメージが合わないような気がするね」


『ええ、どんな生き物がそういう力に目覚めるかはランダム性が強いですからね。ほら、皆さんもご存知だと思うので詳細は省きますけど、魂がなんだかこうグワーッとスゴいことになって、なんだかスゴそうな超能力的なアレに目覚める現象あるじゃないですか?』


「やけに説明がふわふわしてるなぁ」


『自我が曖昧な動物や昆虫がそういうアレに目覚める可能性は低いんですけど、それでも皆無というわけじゃないんですよ。その中でも世界の構造に干渉できるような個体が発生するのは激レアなんですけど、まあ、長い歴史の中にはいないこともないみたいな感じで』



 世界獣の正体は、魂の覚醒能力をモノにした野生生物、らしい。

 ようやく僅かながらに手がかりが出てきました。



『そうそう、これは余談なんですけど、そういう意味だとそちらにいらっしゃるシモンさんとか、あとは魔王さん家の皆さんも広義の世界獣ということになりますね。純然たる偶然ではなく指向性を持った修練の結果なので、完全ランダムな野生動物のそれとはちょっと事情が違いますけど』


「こらこら、一応緊急事態なんだから軽率に余談パートを挟まないでくれたまえ」



 今は被害者の救出が最優先。

 のんびり余談パートに尺を割いている余裕はありません。

 一応、レンリにもそのくらいの善性はあるのです。



『お話を聞いた感じだと、今回のお相手は元々その辺りの砂漠に住むサンドワームという魔物がその手の能力に目覚めたものでしょうね。普通は穴を開けられても数センチから大きくても精々二、三メートルくらいなので、世界獣としては恐らく史上最大級かと』


「ふむ。しかし思ったんだけどさ、そういう能力を持った生物なら、他の世界で発生した個体がこの世界にやってきたという可能性は? ほら、前の破壊神だって言ってみれば似たようなものだろう? 世界規模の侵略的外来種って感じの」


『その砂漠地帯にいる魔物に酷似した生物が、偶然その辺りに来たという可能性も当然ゼロというわけではないですけど、確率的にはちょっと考えにくいですね。世界の「外側」を移動して任意の世界に移動するというのは、穴開けとはまた別種のスキルになりますので。神力のゴリ押しでそのあたりの問題をまとめてクリアできる異世界の神性が来ていたら、わたくしが絶対に気付いているはずですから』


「絶対とまで言うからには、そのあたりは自信があるみたいだね」



 肉体を失った不完全状態ということもあるのでしょうが、女神の自己肯定感は神様であるにも関わらず極端な低空飛行が常。信者に対して自身を大きく見せようとする工作の数々も、自信のなさの裏返しなのでしょう。そんな女神が絶対とまで言うからには、その点については信用しても良さそうです。



「恐らくは、例のなんとかデスワームが自由に他の世界に行けるわけではない。ということは、いつになるかはともかく、そのうちまた私達が認識可能なこの世界に出現する……って想定は甘すぎるかな?」


『いえ、そう的を外れてはいないと思いますよ。さっきも少し触れましたけど、世界の外に出られるのと、「外側」を正しく認識したり、そこで自由に行動できるのは根本的に別物ですから』


「ふむ、その心は?」


『例のサンドワームは多分ヒナ達に追われて安全な場所に逃げ込もうとしただけで、その先までは考えていなかった。正確には考えるだけの知性を有していなかったのでしょうね。姿は大きくても所詮は虫というか。神かそれに準ずる存在でもなければ、概念そのものみたいな「外側」では満足に思考すらできません。ロクに身動きもできないまま、時間が経てば自然とこの世界の引力に引かれて元々出てきた穴の付近に再出現する……したら良いなぁ、と思います』


「そこは最後まで自信を持って言い切って欲しかったなぁ」



 ともあれ、良い情報であることに違いはありません。

 元の穴の位置が砂漠地帯の地下空間ゆえに普通なら監視は容易ではありませんが、そこはルカ達が協力して付近一帯を大きく掘り返せば済む話。あとは罠を張られているとも知らずに出てきた世界獣を皆で待ち伏せて、速やかに仕留めればほとんど解決するはずです。



「よし、それじゃあ早速準備に取り掛かろう」



 号令をかけたレンリ本人は特に何もやらず皆に任せきりなのはさておき、方針さえ決まれば準備が整うまであっという間です。ここ最近の地獄工事で培った土木技術を存分に発揮し、更にルカの協力のおかげもあって、夜明けまでには砂漠地帯にタテ・ヨコ・奥行きが各十キロメートルという超巨大落とし穴が完成していました。


 これなら再出現位置が元の穴の座標から多少ズレても十分にカバー可能。

 あとは女神の見立てが間違っていないことを祈るばかりです。



「あとは待つだけか。こういう時に電書が読める端末があると便利だよね。ああ、ちょっとウル君や。私の部屋からソーラー充電器持ってきてくれたまえ。あとゴゴ君は日除けのパラソルと座り心地の良い椅子でも創ってくれない?」


『こ、この女……!?』


『まあまあ、姉さん。それぐらいならお安い御用です。これで良いですか、レンリさん?』


「うん、上等上等。ありがとう、ゴゴ君。いや、ここは敬意を表してゴゴえもんとでも呼ぶべきかな?」


『ふふふ、それは謹んでお断りします』



 あとは各々、暇潰しをしながらも油断なく落とし穴を見張るだけ。

 レンリ達はもう先に帰っても良さそうなものですが、学都に戻ったら戻ったで日本人の案内なり何なりの仕事をしなくてはなりません。ならば人命救助の大義名分の元で、思う存分に読書を満喫したほうがお得……なんて思っていたせいでしょうか。



「飽きた」



 五日後。

 まだ世界獣は出てきません。

 読書狂いのレンリでも流石にうんざりしてきました。他の皆は言わずもがなです。


 世界の『外側』というのは通常の世界と時間の流れが異なるようですから、こちらで五日過ぎても『外』では五秒しか経っていないこともあり得る。なんなら時間が巻き戻って、件のデスワームが幼虫や卵に戻ることさえあるかもしれない。

 そんな補足情報が今日になってから迷宮達越しに女神から届きましたが、そろそろ見張りにも飽きてきた頃合い。『自分』を増やせる迷宮達は幾分マシとはいえ各々仕事もありますし――シモンだけは毎日律儀に出勤すべく、朝夕に走って学都と往復していましたが――いつまでもこうしているわけにはいきません。



「待ち伏せってつまんないよね。もっと能動的に何か……あっ、そうだ!」



 よくよく考えれば最初から手札は揃っていたのです。

 女神曰くの余談パートをうっかり聞き流してしまったのが失敗でした。



「神様なら『外側』でも動けるし周りを認識できるんでしょ? だったらシモン君が出入口を斬り開いて、ウル君達がちょっとそこらを探してくればいいだけの話だったんじゃない?」



 聞くところによると『外側』というのは物質が物質の形で存在せず、時間の流れもあやふやな概念情報だけが漂う空間らしいのですが、それを認識可能な脳機能を持たない人間メンバーはともかく、今や完成形に限りなく近づいた迷宮達なら問題なく活動できるはず。

 その迷宮達はというと、まだ自分達では(正確には神力を代価とした『奇跡』の行使を除き)自力で世界の壁に穴を開けることができないせいか、シモンと協力する手が盲点となっていたようです。



「じゃあ、そういうわけで行ってらっしゃい」


『はいはい、チャチャっと探してくるの』



 すぐさまアイデアを実行に移す流れとなり、ウル達姉妹はシモンが斬り開いた世界の穴から『外側』へと飛び出していきました。



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