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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十五章『新世界に至る道』

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デスワーム・ワームホール


 大陸西の大砂漠。

 位置的には以前に『神の残骸』の発掘をしたり、ゴゴが破壊神を誤食して2Pカラーになるキッカケとなった村から更に千キロほど北西方向に進んだ辺りでしょうか。


 その付近の調査をしていた日本の調査チームが油田を見つけ、現地の案内人や新たに呼び寄せた専門家なども加わって……そして全員仲良く魔物に丸呑み、と。いえ、こうして連絡が来たということは、別に全員が犠牲になったわけではないのでしょうが。


 ともあれ、事は急を要します。

 もう遅い時間ではありますが、夕食や帰宅の予定も一旦置いて、天国会議をしていたメンバーにシモンを加えて現地に急行することになりました。



「あれ、ヒナ君。今のって空間転移かい?」


『ううん、前と同じように皆を液体にして飛んできただけよ。あの時より一万倍くらい速く飛べるようになってるけど』


「一万倍かぁ。今更だけどインフレの勢いがすごいことになってるね」



 これでもまだ全力ではないようですが、推定マッハ百万前後でカッ飛ばしたおかげで数秒もせずに現着。レンリの動体視力や反射神経だと、主観的には瞬間移動したのと違いがまるで分かりません。

 ちなみに光速がマッハ約八十八万なので、単なる移動パートでシレっと超光速の壁をブチ抜いていたことになります。現状、ここまでの加速を可能とするのは迷宮の中でもヒナだけ。一時期、姉妹揃ってパワーアップした時に最速の迷宮というアイデンティティが危ぶまれたタイミングもありましたが、個性が薄くなるのを密かに危惧したヒナが頑張って努力した結果なのかもしれません。

 古いSF作品なんかだと「光より速く移動すると過去にタイムトラベルする」みたいな設定もありますが、少なくともレンリ達が認識する限りではそういった現象は起きていない模様。大気等への影響などと同じく、そのあたりは神様的な都合の良いアレコレで干渉しないようにしているようです。


 まあ、そのあたりはどうでもいいとして。

 気付いた時にはもう砂漠の夜景が広がっていました。

 学都より少しだけ明るいのは時差によるものでしょうか。



「おっと、暗くてよく見えなかったけど、砂漠に大きな穴が開いてるね。これがそのモン……なんとかデスワームの通った跡ってことなのかな」


『そうみたいなの。ごくり……いったい、何ゴリアンデスワームなのかしら?』


「うん、まあ、目撃したのが日本の人みたいだし、状況を考えるとかなり動揺してただろうから、深く考えずになんとなく知ってるUMAの名前を出しただけなんだろうけどさ。いや、流石にモンゴリアンではないでしょ」


『うん、我もそう思ったの。ちゃんとこの辺の地名を調べてから、適切なデスワーム命名をする必要があるのよ。ところで、お姉さん。研究以外には興味ないみたいな感じで実はけっこう乱読派よね』



 モンゴリアンデスワーム。

 モンゴルの存在しないこの世界に同じような未確認生物がいたとして、少なくともモンゴリアンであるはずがないのですが、無線による緊急通報ではそのような怪物が現れたということでした。



「おや、あそこに手を振ってる人達が。私達が来たのに気付いたみたいだ」


「うむ、まずは彼らから事情を聞くべきであろうな。まずは無線で話した俺が前に出よう」



 仮称なんとかデスワームを追跡するにせよ退治するにせよ、まずは辛うじて難を逃れて連絡してきた日本人達から詳しい聞き取りをするのが優先でしょう。見える範囲にいるのは僅か三名。元は数十人規模の特別調査班だったということですから、限りなく全滅に近い状況だったようです。



「夜分に失礼する。念のため確認するが、貴殿らが先程の無線を寄越した日本の者達でよろしいか?」


「えっ、も、もう来たんですか!? あ、いえ、そうですそうです。よく来てくれました! ここには、ええと、テレポートの魔法か何かで?」


「うむ、まあ似たようなものだ。それよりも早速で済まぬが、状況の説明をお願いできるだろうか。どんな些細なことでも構わぬ」



 学都とこの砂漠地帯は、どれだけ短く見積もっても二千キロ以上は離れているはず。救難要請の無線を送った彼らとしても、近場のチームが数日中に駆けつけてくれたら御の字というくらいの想定だったのでしょう。多くの物資を失ったせいもあり、最悪、せっかく怪物の口から逃れたのに砂漠で渇き死にする事態まで想像していたかもしれません。

 連絡からほんの十数分で助けが来たことに大層驚いていましたが、もちろん早いに越したことはなし。すぐに気を取り直して、怪物が現れた時の説明を始めました。



「ああ、それと誰か。俺が話を聞いている間に」


『うん、分かってるわ。我が行くわね』


『それならモモも一緒に付いていくのです』



 聞き取りと同時に、地中に消えた怪物を先行して追うことも忘れてはいません。

 いくら強大な魔物だとしても、いくらなんでも今のヒナとモモを同時に相手して勝てるほどではないでしょう。もしかすると、話が終わるより前に探し出して、運が良ければ吞み込まれた被害者の救助までできるかもしれません。もし死んでいたとしても、死体さえ残っていればネムが蘇生できるはずです。



「ねえねえ、ネム君。まず大丈夫だとは思うけどさ、思ったより時間がかかって完全に消化された場合でも『復元』ってできるのかな?」


『どうでしょうか? 骨だけでも残っていれば大丈夫だと思いますけれど』


「そういえば前にティラノとか生き返らせてたっけ。そういえば、昼に聞いた魂がどうこうの説明だと、あの恐竜達の魂はどういう解釈になるんだろうね。流石に何億年も拡散せずに残ってたってことはないと思うけど、復活した肉体に相応しい魂が新たに発生したとか? それとも単に肉体の反射と本能で動いていただけで魂がない空っぽ状態? ううん、そのうち暇な時に実験して確かめてみたいかも」



 ネムは以前に化石から恐竜を復活させた実績もあります。しかし、件のなんとかデスワームの消化器系が思ったより強靭で、骨まで綺麗さっぱり溶かされてしまった場合はどうなのか。



「最悪、ウ……排泄物になってた場合でも、そこからの復活ってできるのかな?」


『さあ、我もそこまでは試したことがないのでなんとも』


「仮に『復元』できても、生き返った人の精神的ダメージはかなりありそうだよね。いや、それ以前に気配や魔力で追跡できる生き物そのものはともかく、生き物が出したモノをこの砂漠から見つけ出すのが無理か。ましてや食べられた人の成分が、その、出されたアレに含まれてるかどうかの見分けとかさぁ……」



 なんだか汚い話になってしまいましたが、捜索と救出が遅れたらそんな可能性も真剣に検討しなければなりません。今はただ杞憂になってくれることを祈るばかりです。



「彼らに話を聞いてきたぞ。とはいえ、あまり役立ちそうな情報はなかったが」


「まあ、そうだろうとは思ってたけどね。じゃあ、ヒナ君達からの連絡待ちか、それとも追加の応援を何人か送り込むか――――」



 地上や空中ではなく砂中の移動ということで普段とは勝手が違うかもしれませんが、シモンなら移動にさほどの問題はないでしょうし、迷宮達なら窒息する心配すらもありません。いっそ大雑把に当たりをつけて、ルカが付近の砂漠一帯を掘り返すという手もあります。


 いずれにせよ、大して時間もかからず解決するはず。

 この時点でそんな楽観があったのは無理もないことでしょう。



『ちょっと大変、大変よ!?』


『どうどう、ヒナ(ひーちゃん)ちょっと落ち着くのです。まずは何がどう大変なのかを言わないと』



 出発してから数分と経たずにヒナとモモが帰ってきました。

 特に怪我をしている様子などはないのですが、ひどく慌てた様子です。



『穴! 穴が開いてたの!』


「うん、それは知ってるけど。キミ達だって、その怪物が掘り返した穴の跡を追いかけてたんだろう?」


『そうだけど、そうじゃなくて! その怪物っぽいのが目の前で急に消えて、空間に、この世界に穴が開いてたの!』



 ヒナとモモが砂中深くで目撃したのは、恐らくは自らが穿った穴に飛び込んで追跡を振り切った怪物の姿。件のなんとかデスワームが消失したその場には、どこへ続くとも知れぬ、この世界の外側に通じる空隙がぽっかりと口を開けていたのです。



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― 新着の感想 ―
状況によってはトラウマ級救助 まあ、どっかの補完計画みたいに液状のままのほうが幸せかも知れない。 しつもん、液状は元に戻るとき、パーツが他人の物と入れ替わっていたりして? 例えば、あしゅら男爵な状態に…
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