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衝突



 共同住宅アパートメントから文字通りに飛び出したルカとリンと、縛られて抱えられたままのルグ。三人の最初の課題は「どこに逃げるか?」でした。


 走りながらの忙しない話し合いで最初に出た案は、騎士団の本部なり他の詰め所なりに駆け込むことでしたが、それは却下。

 ルカ一人であればともかく、今の縛られたルグや似顔絵付きで手配されているリンは騎士団に連れていけません。ルグはさておき、他二人が列車強盗と監禁の現行犯で逮捕されてしまいます。


 次に出た案は、思い切って学都を出てしまうということ。

 市壁を抜けて街の北にある森に向かい、そこにいるはずのレイルやロノと合流できれば、空を飛んで一気に逃げられます……が、それも却下。

 現状では、追いかけてくる集団の規模やどこに何人いるかまでは不明。それに、いくらなんでも距離がありすぎました。



 結局、採用されたのは三つめの案。

 すなわち、街の中心にある聖杖。その中に広がる迷宮に逃げ込むというアイデアです。

 迷宮に入ってしまえばルール上犯罪行為は禁止されるので、当面の身の安全は保証されますし、途中で道に迷う心配もありません。


 だから、レンリたちと目的地が重なったのは半ば必然だったのでしょう。







 ◆◆◆







 学都の中心に位置する聖杖前広場は上から見ると大きな円形をしており、そこから放射状に大きな道が何本も伸びています。


 ルカ達が広場に辿り着くのを邪魔するかのように、操られた人々がその内一本の道を塞いできましたが、



「ご、ごめん……な、さい……っ」



 まるで暴れ牛の突進のような勢いで走るルカを止めることは叶わず、人垣が弾き飛ばされていました。ぶつかる直前でスピードを緩めたので死んではいないでしょう。


 ともあれ、そうやってこじ開けた隙間を通り抜けました。

 そのままの勢いで聖杖の入口目掛けて階段を駆け上がる途中。



「ま、待った……あれ、レン達じゃないか? ……ぅぷ」



 揺れで酔ったせいでぐったりしていたルグが、別の通りで傀儡に囲まれながら口喧嘩をしているレンリとウルに気付きました。


 偶然でしたが、階段上から広場を俯瞰することができたのが良かったのでしょう。

 虚ろな目をした人々が街の人々ではなく自分達だけ(実際にはルカだけでしたが)を標的としていることは、理由は不明にしてもここまでの道中でルグにも分かっていましたが、それがこの広場に入ってからは二箇所に分散していることに気付けたのです。

 

 自分達を追うのとは別の集団に気付き、視線を向けたら、その中心に見知った顔があったというワケです。これがもし、ルグが自分の足で走っていたらわざわざ下を見下ろすことはなかったでしょうし、友人の危難に気付くことはできなかったでしょう。お姫様だっこをされていたことが幸いした……と、言えなくもないかもしれません。



「お姉ちゃん、は……先に、逃げて……!」


「ちょっ、ルカ!?」



 そして、一拍遅れてレンリたちのピンチに気付いたルカは、なんと一人で階段を駆け下りてしまいました。慌てて振り向いたリンが止める間もありません。






「だから、ここはキミが犠牲になりたまえ! どうせ後で復活できるんだしっ」


『それはそうだけど、怖いものは怖いのよ! そっちこそ、ここは年上らしくしたらどうなのっ』


 相手を犠牲にしてでも、どうにか自分だけは助かろうと醜い争いをするレンリとウル。そして、二人を取り囲み、ジリジリと距離を詰める集団に向け、



「あ、これ……止まれ、ない……?」


「俺、死なないかなぁ……?」



 下り階段で思ったより勢いが付き過ぎたせいかブレーキが間に合わないルカと、半ば諦めの境地に至ったルグが猛烈な速度で突っ込み、まるでボウリングのピンのようにヒトが弾け飛びました。








 ◆◆◆







「ぎゃーっ!? な、何事だい!」


『ギャーッ!? な、なんなの?』


 包囲していた人垣が衝撃を吸収するクッションの役目を果たしたのでしょう。

 今にも襲われそうだったレンリとウルは、突っ込んできた二人に吹っ飛ばされながらも、大きな怪我をすることなく、逆に危機を脱することができました。

 すぐ近くで二人を取り囲んでいた虚ろな目の集団は、気絶しているか、ダメージによって動きが鈍っている様子。ある程度以上離れた距離にいた傀儡は依然距離を詰めようとしてきますが、倒れた人々が障害物となって素早く動けないようです。




 これ幸いと、レンリが逃げるべく立ち上がると、すぐ近くに知った顔が倒れているのに気付きました。


「おや、ルー君じゃないか。風邪は大丈夫……じゃなさそうだね。すごい顔色してるけど生きてるかい?」


「……いや、死にそう」



 人垣に突っ込んだ時に取り落とされたルグが地面に転がっていました。

 実際は風邪ではないのですが、いずれにせよ、逃げる途中で地味に蓄積していた衝撃ダメージと振動による酔いで半死半生の状態です。


 と、ここでレンリがルグの手足の拘束に気付き、そして何か勘違いをしてしまったようです。



「んん、その手足の縄は……? いや……まあ、キミも年頃の男の子だしね。特殊な趣味の一つくらいは……うん。一応、友人として時と場所くらいは選ぶべきだと忠告しておくがね?」


「馬鹿……違うから、これ解いてくれ……」



 手足を縛られて天下の往来に転がっていたのは、決して特殊なプレイによる結果ではありません。ルグは己の尊厳を守るために、残った気力で辛うじて抗議しました。






『オドオドのお姉さん、おかげで助かったの……ありがとうございます』


「あ……どう、いたしまして」


 一方、体重が軽いせいでより遠くまで吹っ飛んだウルは、ルカがきちんと保護していました。

 ウルは元々痛覚を自由に遮断できますし、肉体の破損もかすり傷程度なら一瞬で修復できます。例外的に、肉体の大部分を失うようなダメージを負った場合は迷宮内でないと治せないのですが、今回はそこまでの損傷ではなかったようです。レンリと同じく周囲の人々の身体がクッションになったのでしょう。




「ちょっと、ルカ、大丈夫!?」


「あ、お姉……ちゃん」


『お姉さんのお姉さんなの?』



 そうこうしている間に、暴走したルカを追いかけてリンも追い付いてきました。

 列車の事件の時に相対したレンリに顔を見られるのは非常にマズいのですが、この状況ではそうも言っていられません。

 一時的に包囲を破ったとはいえ、まだまだ追っ手の大半は健在。

 衝撃で動けなかった者も回復しつつあるのか、のろのろと起き上がりだしていました。



「いきなり、先に逃げろとか……ちっ」


『そ、それはズルいと思うの!?』



 そして、更に事態は悪化します。

 足場が悪く近付けずにいた後方の傀儡たちが元々持っていた、あるいは周囲の商店から奪ったナイフや剣や斧や鎌などを持ち、一斉投擲の構えに入ったのです。


 向こうからすれば近くに倒れている仲間ごと攻撃する形になりますが、自我のない人形に躊躇いなどありません。彼らはただ術者の命に従っているだけなのですから。

 もはや、これまで以上に手段を選ばず、本を持っていると思しき相手を殺傷してから確実に奪おうというつもりなのでしょう。


 刃物に耐えられる強度にまで肉体を強化できるルカはともかく、他の者にとっては間違いなく致命的な状況。



「ま」



 誰かが「待て」と叫ぶ間もなく、周囲全方向から刃物の雨が降り注ぎ……そして。








「姉ちゃんたち、だいじょぶー?」


「間に合った! 無事か!」


 そして、それ以上の速度で天から飛来した二つの声の主――――巨大な鷲獅子グリフォンまたがるレイルと、剣を携えたシモン―――――によって、一本残らず防がれました。



次回、反撃開始

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