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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十五章『新世界に至る道』

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魂の行き場について想定される問題と対案についての考察


 新しい地獄への反応は概ね肯定的なものだったと言えましょう。

 よほど自罰的だったり特殊な趣味でもなければ、世の中の大抵の人は望んで地獄に行きたいはずもなし。生前の段階から神様のお墨付きで死後の安全が保障されているなら、必要以上の恐れを抱くことなく生きていけますし、犯罪者の更生や治安の改善も大いに期待できます。


 やむにやまれぬ事情であるとか、衝動的・事故的な犯罪まで100%カバーできるわけではありませんが、それについては神器『獄問鏡』の過去視の機能で正確な事情を把握した上での情状酌量も望めます。

 今回招待したゲストから出た『獄問鏡』を現世での犯罪捜査や裁判に用いるという発案については、迷宮達も前向きに検討しているようです。コストとして消費される神力とリターンとの兼ね合いや、神器に頼り切りになってしまうことによる元々そういう仕事をしていた人間の能力低下や向上心の欠如など、今の段階から予想できる弊害もあるので細かい部分は実際に試してみながらベストの塩梅を探っていくのが良いでしょうか。



「いやはや素晴らしくも恐ろしい。あの過去を視る鏡でしたか、我が国でも導入してくれませんかねぇ。不幸な冤罪事件なんて二度となくなりそうです」


「そのあたりはゴゴ君達と交渉してくれたまえ。まあ私の考えでは日本で、というか地球で異世界の神性を前提とした法的システムの構築というのは難しいとは思うけど」



 現在、レンリや外務官の外村氏がいるのは地獄神殿の一室。

 沢山の椅子や長机が並ぶパーティ会場のような場所です。

 来た時に宴の用意があると言われたのは本当だったようで、宇宙怪獣のステーキや宇宙怪獣の唐揚げ、宇宙怪獣シチューなど、妙にSFめいた地獄の特産品を使った料理が所狭しと並んでいました。



「ふむ、食べてから言うのもなんだけど毒とか大丈夫なのかな? まあ今の仮の身体ならお腹を壊す心配はなさそうだけど。そうだ! 毒キノコなんかも食べれば美味しい種類もあるって言うし、あとフグとか毒のある食べ物を安全に楽しむ用に応用できないかな? あとでウル君に聞いてみようっと」


「ははは、相変わらずレンリさんはユニークな発想をされますね」


「そうかな? 誰だって美味しいものは食べたいだろう?」



 宇宙怪獣を生身の人間が食べても平気なのかは、実際こうして食べてみても毒物の類が効かないボディゆえにさっぱり分かりません。そのうち成分分析か何かしてみて問題ないようならば、新手の食肉として地獄から現世へ輸出して資金源とするのもアリでしょうか。なにしろ宇宙怪獣は無限に湧いて出てくる地獄の毒海を飲んでいれば勝手に巨大化して増えるので、手間いらずで良い収入源になりそうです。



『意見。募集。やあ、レンリさんと日本の人。本日の感想は如何かな? 忌憚のない意見を述べてくれると助かるのだけど』


「やあ、ヨミ君。神様がわざわざ御用聞きかい?」


『肯定。同意。まあ、そんなところだね。もっとも我が話しかけると必要以上に恐縮してしまう人が多くて、あまり順調とは言い難いのだけど。レンリさんには遠慮のなさを期待しているよ』


「うんうん、遠慮がないことにかけては右に出る者はいないと自負しているとも。ヨミ君もなかなか人を見る目があるじゃあないか」



 見たところヨミ以外の皆も(アイだけはルカが面倒を見ていますが)、それぞれ手分けして本日の参加者から意見・感想の聞き取りをしていました。が、残念ながらあまり捗っているとは言い難いようです。それが当然の反応ではあるのでしょうが、やはり大抵の人は神様を相手にすると非常に恐縮したり緊張したりで頭も口も回りが悪くなってしまう様子。

 もちろん以前から関わりのある友人達は例外ですし、ある程度の敬意はあっても実感が乏しい日本人組はそこまで硬くならずに話せているようですが、それはそれで意見に偏りが出てしまいます。


 以下、余談。


 女神曰く、厳密にはヨミ達はまだ完全に神としての成体、完成に至っているわけではなくその一歩手前といったところ。約百万年前に自前の肉体を持っていた全盛期の女神が相討ちになった破壊神と同等のコピーを生み出したり、そのコピーを楽々倒せるあたり、単純な戦闘力においては大幅に創造主のピーク時を超えていそうなものですが、そこは戦う力以外にも色々な条件があるのだそうで。


 以上、余談。


 もっとも完成品だろうが一歩手前だろうが、レンリにとっては何も変わりません。ヨミ達としても、その無遠慮っぷりがかえって心地良いようです。



「横から失礼します。意見というか質問なのですが、もし私のような地球人、あるいは他の異世界から来た人間がレンリさん達の世界で死亡した場合、その魂の行き先はどうなるのでしょうか?」


『回答。難問。うん、良い質問だね。そして悩ましい質問でもある。まず現時点で死亡した場合はどの世界の人間だろうがこの地獄にやってくる。さっきの鏡とは別に、そういう神器があるからね』


「ああ、ウル君が言ってた例の根性ボールだね」


『困惑。根性? ……まあ、名前は別に好きに呼べばいいけれど、我々姉妹の総意としては……もちろん正確には意思の疎通が困難なアイを除いてだけど、その状態を好ましくは思っていないんだ』



 どうにか完成に漕ぎつけた新地獄ですが、まだまだ課題は残っています。

 特に大きな課題のひとつが、この異世界人の魂に関する扱い。

 この機を逃さず質問した外村氏ほか日本の面々としても、なにしろ自分達が問題の当事者になりかねないだけあって、その部分には関心を寄せていたようです。



「自分で言うのもなんですけど、我々日本人は宗教に関しては異様に大雑把な寛容さを発揮するか強烈に拒否反応を示すか両極端なところがありまして。クリスマスの翌週には神社に初詣に行くことにいちいち疑問を持たない人が多数派だったりで、なんと申しますか地球人の基準でも独特な考え方が主流なわけです。危険性や悪質性の高いカルト宗教でもなければ大抵はふんわり受け入れられると思うんですけど、地球の他の国々だとなかなかそうはいかないでしょうね」



 これから先、順当に地球とレンリ達の世界との交流が開始されたら、ビジネスや観光目的で多くの人の行き来があるでしょう。それ自体は基本的に好ましいことですが、不幸にも旅先で病気や事故などで亡くなる人も出てくるかもしれない。いえ、「かもしれない」ではなくまず間違いなく起きるはずです。


 それ自体は仕方のないことですが、問題はその先。亡くなった人物が自分の信じている宗教の天国なり地獄なり(それが実在するかはさておいて)ではなく、まったく縁もゆかりもないこの世界の死後の世界に来てしまったら、これは大変。

 元々の信条として無宗教であるとか、形の上では何らかの宗教に帰依しているものの熱心な信仰を持ってない場合はまだマシですが、真面目な信仰心を持っている人がそうなってしまったら心穏やかではいられないでしょう。下手をすれば死後の魂に対しての拉致監禁疑惑なんて人権問題が両世界間で勃発しかねません。



「それを言ったら、こっちの人が地球や他の世界で死んだ場合も同じだね。あとはまあ単純な心情として、生前の折り合いが悪くなかったのなら自分も先祖や友人がいる所に行きたいと考えるのが普通だろうし」


『対策。必要。もちろん我々もそのあたりの対案はいくつか用意しているんだけどね。異世界から来た、あるいは異世界に行った全員の魂に魔力か神力で何らかのタグ付けをして死後の行き先を自動的に仕分けできないか、とかね。とはいえ十人や百人ならともかく、対象が何万人とかになると必要なコストも馬鹿にならないし、治療や何かで別の魔法を受けた拍子にタグ付けした情報が変質しないとも限らない』


「最悪、死後の魂同士での別人へのなりすましとか取り違えも発生し得るわけか。こっちに来た分に関しては獄問鏡で逐一確認していく手もあるにせよ、他の世界での死者までカバーするのは厳しいようだし。なるほど、これはたしかに難問だ」



 とはいえ、決して解決不可能というわけではないはずです。

 事によったら他の世界の神々と何らかの仕組み作りのために話し合ったり、ヨミが他の世界の死後の世界まで足を延ばして迷子の魂を引き取りに行ったり。そういった神話的解決法もアリでしょう。



『意見。感謝。おかげさまで参考になったよ、レンリさん。日本の人も、どうもありがとう。じゃあ、我はまた他の人の聞き取りに戻るとするよ』


「いえいえ、神様のお役に立てたのならば幸いです」


「うんうん、よく感謝したまえ。いくら神様になったからって、謙虚さを忘れちゃあいけないからね。ああ、そうだヨミ君。さっきから一つ気になってたことがあるんだけど」


『疑問。拝聴。うん、なんだいレンリさん?』



 さて、とりあえず会話も一段落。

 ヨミもレンリ達との話を切り上げて他に移ろうとしたのですが、その前に。



「ここに来てから、いや、来る前からかな。ご自慢の地獄に関しては色々見て聞いてきたわけだけどさ、その対になるアレ。天国についての話は不自然なくらい全然出てこないけど、そっちは一体どうなってるのかなって?」



 レンリはヨミにそんな疑問を投げかけました。



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― 新着の感想 ―
地獄漫遊と怪獣料理(笑) 生身だったら、苗床確定 レンリならあちこち満喫しそう、あと針山地獄をはげ山にして無数の剣を山に突き刺していそう(笑) 〉なかなか、鋭い針じゃないか、いい剣の素材になりそうだよ…
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