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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十五章『新世界に至る道』

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鏡面上のプラスマイナス


 地獄の中心に聳える神殿。

 ここだけは安全地帯として設定されているのでしょうか。

 他の場所では絶え間なく落ちていた雷もこの付近では見かけません。恐ろしい怪物の姿もなく、心なしか空気も清浄なものであるかのように思えます。



『ただいま、お客さんを連れてきたのよ』


『やあ、姉さん。お出迎えご苦労様でした』



 ウルに連れられた一行が神殿に入ると、ゴゴや他の姉妹達の姿がありました。

 女神こそいませんが最新の七柱の神々の勢揃い。信心深い人などは、ありがたそうに両手を合わせて早速祈りを捧げています。



『さて、それでは改めて。本日はお集りいただきありがとうございます』



 ここから先はゴゴが仕切る段取りのようです。

 たしかにウルに任せたままでは、すぐにレンリと一緒にふざけ始めて説明が横道に逸れっぱなしなのが目に見えます。適切な配役でしょう。



『ここまで限定的とはいえ実際に我々の地獄を体験されたことで、疑問も色々とあることかと思いますが、それについては後で質疑応答の時間を設けてありますので。歓迎の宴や料理の準備などもありますが、まずは一旦こちらからの説明をご清聴願えれば……と、レンリさん、ステイステイ。宴と聞いて一人だけ抜け駆けしようとしないでくださいね』



 どうやら、あらかじめ細かく段取りを組んでいた様子。

 ゴゴらしく几帳面かつ隙のなさそうなプレゼンぶりです。

 もしかすると、あらかじめリハーサルなどしていたのかもしれません。



『では、皆さん。まずは正面に見えます大きな扉の奥までどうぞ』



 神殿の正面入り口から入って、そのまま真っすぐ。

 その先に高さ二十メートル以上はありそうな大きな扉がありました。大きさもさることながら白銀に金の紋様が浮かぶそれは、単体でも美術品として高い価値がありそうです。


 とはいえ、あくまで扉は扉。

 本当に重要なのはその奥にあるモノなのでしょう。

 皆を率いたゴゴが扉の前まで来ると、何十トンあるかも分からない分厚い扉がひとりでに開いていきました。



『子機のほうは既にご覧になっているかと思いますが』



 大扉の奥にあったのは鏡が一つだけ置かれた大広間。

 それだけ聞くとがらんとした寂しそうな印象があるかもしれませんが、決してそんなことはありません。なにしろ、その置かれている鏡の大きさが巨大な神殿の天上ギリギリに迫るほどのビッグサイズだったのです。



「ゴゴ君、子機という言い方はさっき私がウル君に突き落とされた、あの鏡のことだね? つまりは、このやたら大きいのがその親機に当たるわけだ」


『ええ、流石はレンリさん。話が早くて助かります。地球の電化製品に馴染みの薄い皆さんは親機と子機という関係性が少々分かりにくいかもしれませんが……まあ、実際に見たほうが理解が早そうですね』



 そう言うとゴゴは大きな鏡の鏡面に向けて手を伸ばし、そのまま鏡面の向こう側へと手を突っ込みました。子機のほうはこの地獄に安全に来るための神器でしたが、すでに地獄にいる状態で果たして何が起きるのやら。



『いえいえ、大したことはありませんよ。ほら、この通り。親機の中で生成中だった新しい子機を取り出したというだけで。少し時間はかかりますが、こうして自己増殖するのなら世界中の国や都市に行き渡るだけ配ることもできるでしょう?』


「なっ、ゴゴ神よ! まさか神器を只人に貸与すると仰るのですか!?」



 ゴゴの言葉に大きく反応したのは、この場に同行してきた学者の一人。特に神学や宗教史に詳しい人物です。そういった既存の常識からすると、機能こそ違えど勇者の聖剣と同格かそれに近しい格を持つ神器を、誰彼構わず貸し出して使わせるというのは大きく常識を外れた行いなのでしょう。



『ええ、近所で使えたほうが何かと便利でしょう?』



 もっともゴゴは涼しい顔をしていましたが。

 既存の権威や前例よりも、今後の合理性を重視するという方針です。

 どのみちいくら既存の常識に反しようが、当の神様がこの調子ではただの人間は素直に従うほかないのですけれども。



『とはいっても問題は、何のために使うのか、ですよね。世界のあちこちに子機を置いて誰でもこの地獄に来られるようにするのは何故か、という。地獄の実在を証明するというだけではちょっと理由として弱そうですし。ああ、ちなみに先程姉さんが案内した時は説明のために出現位置を少しズラしていましたが、本来は直接この神殿まで来られるようにする予定ですので――――さて、そこでこの親機が出てくるわけですが』



 単に子機を生成する機能が増えただけ、ではないのでしょう。

 ゴゴがここまで言うからには相応の理由があるはずです。



『では、皆さん。お一人ずつ順番にこの大鏡の前をゆっくり歩いていただけますか。大丈夫、特に危ないことはありませんから』



 全部を口頭で説明してもいいはずですが、こうして詳細を述べる前に実践させてみようというのは迷宮達なりの遊び心、あるいはサプライズなのでしょうか。


 まあ、鏡の中に入るよりは前を歩くだけのほうが心理的な抵抗は軽かったようです。特に嫌がることもなく、近くに立っていた人から自然と列を作って歩き始めました。



「ふむ、『+7』? ゴゴ君、この鏡像の頭の上に出てる数字はなんだい? エッチなやつ? 特に身に覚えはないんだけど」


『エッチなやつではないです。はい、後ろの人の邪魔にならないように、どんどん進んで下さいね』



 ゴゴに促された人々が鏡の前を歩くと、その鏡像の頭上には何やら意味の分からない数字が浮かび上がって見えました。



「ルカ君は『+48』でルー君は『+105』か。じゃあ、とりあえず身長関係じゃあなさそうだけど」


「おい、こら」



 ルグの不満顔を無視してレンリは推論を進めていきます。



「魔力の量や戦闘力でもなさそうだ。そもそも、そんなの世界中から人を集めてまで測る意味がない。他の人達を観察した限りでは大半がプラスの数字だったけど、ゼロやマイナスの人もいたようだし。全員じゃないけど年齢と数字の大きさが比例する傾向にある? ふむ、この地獄という場所の特異性と創造理由が最大のヒントかな。だとすると……」


『はい、皆さん全員ご自分の数字を確認しましたね。では、そろそろネタバラシといきますが』


「あ、ゴゴ君ちょっと待って! もうちょっとで何か閃きそうだから!」


『これ、別にクイズじゃないんですけど。で、答えですが』



 勝手に解答の残り時間に焦りを感じているレンリは放っておいて、ゴゴは答えを発表しました。



『その数字は、皆さんがこれまでの人生で、どれだけ良いこと悪いことをしてきたかの総計。それを分かりやすく数値化したものですね。いわゆる「徳」とか、電源式ゲームっぽい表現ですけど「カルマ値」みたいなものでしょうか。分かりやすく言うと、亡くなった時点でそれがマイナスだとバッドエンドルート。つまりは地獄ここにご招待ということで』



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― 新着の感想 ―
[良い点] 唐突に始まる、クトゥルフな人狼なデスゲーム 今からでも出来るコンテニューは有りますか? [気になる点] 何人が生還出来るだろか? とりあえず、令呪にて命ずる。レンリはあらゆる不正を行う事と…
[一言] 「ルカ君は『+48』でルー君は『+105』か。じゃあ、とりあえず身長関係じゃあなさそうだけど」 って列車強盗と防いだ事を考えたら分かるけど・・・ レンリの+7って・・・ 強盗犯より低いの(…
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