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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十五章『新世界に至る道』

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地獄ガール


 諸々の仕事が一時的とはいえ落ち着いたことで、案内役の面々にも久しぶりにゆったり過ごす余裕が出てきました。



「お待たせ。飲み物買ってきたぞ。ジュース、ブドウとリンゴどっちがいい?」


「ルグくん、ありがと……じゃあ、リンゴで」



 今日のルグとルカは『日輪遊園』の片隅にあるベンチに腰を下ろして、のんびりお弁当デート。わざわざ遊園地に来ておいてなんですが、アトラクションに乗るつもりはありません。

 一応、何かあった時にすぐ駆け付けられるようこの場所を選びましたが、今日はありがたいことに日本人組の案内をシモンが引き受けてくれたので、恐らく彼らの出番はないはずです。



「あ、この鶏肉のやつ美味いな」


「ふふ、良かった……照り焼きチキンの、サンドイッチ……自信作なんだ」



 レンリほど無節操にあれこれ買い込んだわけではありませんが、ルカも旅行の際に日本で新たなレシピ本を何冊か買っていました。図解だけでは分からない部分については、レンリに翻訳を頼んだり、最近の仕事相手である日本人達から翻訳メガネを借りてみたりと。

 翻訳が進んでも仕事が忙しいせいでなかなか実践の機会がなかったのですが、ようやく努力の成果をお披露目できて、(そしてこれが一番大事なポイントですが)ルグに喜んでもらえてルカもようやく一安心。



「平和だな」


「平和、だねぇ……」



 他に何をするでもなく、ただ食事をしてたまに思いついたことを喋るだけの地味なデートですが、この二人にはそういうマイペースな過ごし方が合っているのでしょう。そんな穏やかな時間は……。



「やあやあ、こんなところにいたのかい二人とも! 私? あっちの区画にある屋台の在庫を全滅させてきたとこだけど。おっと、それもしかして私が訳したレシピ本のやつかい? ルカ君、食べていい? いいよね?」


「うん、どうぞ……んしょ……こっちの、レンリちゃんの分、だから」



 いつものように騒がしいレンリの乱入によって、二人きりの時間は終わりを告げました。まあ、このくらい慣れたものです。ルカも最初から見越して、レンリ用に特大サイズのバスケットを自分達用とは別に用意してきています。



「いただきます。ごちそうさま。ふぅ、ルカ君また腕を上げたね。今度はラーメン作ってよ、ラーメン。あっちで食べ歩きしてからすっかりハマっちゃって。強火対応のコンロというか火が出る魔剣なら作ってあげるから。鍋敷きみたいに寸胴の下に置けば何とかなるでしょ」


「それ、剣である意味なくないか? ……今更か」


「え、えと……そのうちに……お肉屋さん、豚骨あるかな?」



 一人加わったことで一気に騒がしくなりましたが、これはこれで楽しいものです。九割方はレンリが好き放題に喋り散らかしているだけですが。すっかり馴染んだいつもの光景……には、少し頭数が足りないかもしれませんが。



「そういやさ、最近ウル達見ないな?」


「そうかい? ああ、私は毎日部屋で会ってるけど、言われてみればキミ達と顔を合わせるタイミングはなかったか。そこの売店にいる店員も着ぐるみでホラー感薄めたスケルトンがやってたし」



 レンリは毎日部屋でウルと顔を合わせているので実感がなかったようですが、案内役の仕事中、迷宮達の姿を見かけることはありませんでした。



「ウルちゃん達、も……何か、お仕事してるんだよね? アイちゃん、まで」


「そういや俺も詳しくは聞いてなかったっけ。レンはあいつらがどこにいるのか聞いてるか?」


「うん、知ってるよ」



 今の迷宮達ならどこで何をしていようと心配の必要はなさそうですが、毎日のように顔を見ていた彼女達の姿がないことに寂しさを覚えてしまうのも確か。もし会いに行けるような場所にいるのなら、どうにか時間を作って会いに行きたいところです……が、残念ながらそれは少々難しいかもしれません。特にルグやルカにとっては色々な意味で。



「地獄」



 二人の疑問に対し、レンリは簡潔に迷宮達の居場所を答えました。







 ◆◆◆






 見渡す限りの不毛の大地。

 一息吸えばたちまち肺が焼け爛れる酸まじりの暴風。

 赤く煮え滾るマグマの大河に、肉を刺し貫く針の山。

 決して晴れることのない黒雲からは極大の雷と雹が絶え間なく降り注ぎ、死毒で満たされた海から襲い来る津波が頻繁に地表を洗う。そんな恐ろし気な世界を表現しようとするならば、やはりそれは「地獄」という言葉が最も適切でしょう。



『おや、来たみたいなのです』



 そんな大地に両の足で立つのは第四迷宮『洞窟大王』のモモ。彼女の目は天上を覆い尽くす黒雲を、正確にはその向こう側から襲い来る相手を真っすぐに見据えています。

 そして待つこと十秒足らず。

 雷鳴轟く分厚い黒雲を難なく打ち破って、とてつもなく巨大な物体が天高くから地上のモモに向けて一直線に迫ってきました。


 その姿はある種の昆虫に酷似しています。

 しかし、サイズは通常のものと大違い。


 全長およそ二十万キロメートル。

 横幅も厚みも長さ相応の特大サイズ。

 その気になれば惑星にぐるぐると巻き付いて、力任せに絞め潰すことさえ容易でしょう。


 かつて『破壊神』として一度ならず世界を滅ぼしかけた大ムカデ。

 ソレそのものとしか思えぬ破壊の化身が、巨大な牙をガチガチと鳴らしながら「地獄」の地に立つモモへと向けて一直線に迫りました。





◆◆◆◆◆◆


≪おまけ・モモ(最新デザイン)≫


挿絵(By みてみん)




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― 新着の感想 ―
[良い点] ムカデ……酒の材料になりそう。 いや、あれはマムシだった [気になる点] 破壊神のムカデがかてるわきゃ無いだろう! 〉目の前の小娘を食らえばワンちゃんありますか? いや、今からでも入れる…
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