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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十五章『新世界に至る道』

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異世界『チキュウ』の『ニホン』国より


 そんなこんなでレンリ達は学都北東部にあるエスメラルダ伯爵邸を訪れました。

 もちろんアポイントは事前に取っているので、門前払いされる心配は無用です。


 執事に案内されて広い応接室で待つことしばし。



「やあやあ、よくぞ参られました、お客人! 我輩が当代のエスメラルダ伯爵であります! レンリ嬢達もお客人の案内ご苦労なのである!」



 相変わらず声も身体もやたらと大きい伯爵が姿を現しました。

 レンリ達とは何度か顔を合わせたことがありますが、少し会わないうちにまた一段と筋肉量が増えたような気がします。特注サイズの巨大なタキシードが、内側からの筋肉圧に耐えかねて今にも張り裂けてしまいそうです。



「伯爵さん、声抑えて抑えて。この会談、一応極秘ってことになってるらしいから」


「やや、これは我輩うっかり!」



 造りのしっかりした石壁を貫通して屋敷の敷地外にまで聞こえそうな大声も、レンリの忠告によってどうにか邸内で収まる程度に抑えられました。これでようやく極秘の会談を始められそうです。



「まず最初に確認しておこうか。伯爵さん、彼らの素性と訪問理由については、どのくらい把握してますか?」


「うむ、国王陛下よりの密書にて一通りは。とはいえ、素直に飲み込むのには抵抗があるというのが正直なところであるが。そちらの使節殿は本当にかのニホン国から?」


「はい、私は日本国より参りました外村と申します。本日は伯爵閣下の貴重なお時間を賜りまして感謝の至りにございます」



 内容が内容だけに簡単に受け入れられないのは織り込み済み。

 異世界からの訪問客などという話、簡単に信じられてもかえって心配です。面会の要請があっさり通ったのも、事前に仔細が記された王家からの手紙を受け取っていたからこそでしょう。



「うむ、ソトムラ殿。他の方々もよくいらっしゃったのである。して、まずは何から話せばよいものか?」



 本日の日本側およびレンリ達の目的は、まず何よりも訪問客が本当に異世界から来ているのだと伯爵に信じさせること。いずれは資金面や人材面での協力を頼む機会もあるかもしれませんが、この最初の一歩をしくじったらお話にもなりません。


 ちなみに、こうした面会の場を設けているのはエスメラルダ伯爵に限った話ではありません。現在この世界の各国各地において、当該国の国王が信頼できると目した有力貴族の元へと、外村氏達のようなチームが続々と送り込まれています。

 女神から直々に指名を受けたレンリ達とは少し事情が異なるものの、それらの各チームは王達が手配した案内人と共に有力者の下へと赴き説明と説得、様々な情報収集に当たっているのです。


 その全てが上手くいかずとも他である程度のカバーは利くでしょうが、地域の有力者を味方に付けられたかどうかで、その後の動きやすさが大幅に違ってくることは想像に難くありません。なかなかに責任重大な任務です。


 とはいえ、言うは易く行うは難し。

 異世界人同士で果たして何から話せば良いものか。

 異世界人とのファーストコンタクトでどう話題を切り出すべきかについて書かれたビジネスマナー本など、残念ながら日本の書店にも並んでいません。現状全てが手探りと言っても過言ではないでしょう。



「そういえば」



 外村氏は、まずこんなところから切り込みました。



「先程、閣下は『かのニホン国から』と仰いましたが、その言い方から察するに我が国のことを以前からご存知だったのでしょうか?」


「ん? うむ。なにしろ異世界『チキュウ』の『ニホン』国といったら、あの勇者リサ様の国として読み物でも芝居でもたびたび目にする名前であるゆえ」


「ははぁ、本当にあの方の人気ぶりは凄まじいものがありますねぇ」



 異世界『チキュウ』の『ニホン』国。

 伯爵がそうであったように、この世界の人間がこの異世界に存在する国名を見聞きする機会は決して少なくありません。事実をできる限り正確に記録した公式文書から、脚色や誇張表現を加えて娯楽として面白おかしく仕上げた物語まで。

 本筋である勇者リサの活躍シーンからすると、脚本家や観客にもあまり重視されない冒頭の設定解説のような地味な箇所ではありますが、それでも何度も何度も目にすれば自然と頭に入ることでしょう。


 しかし、ほとんどの人にとっては名前は知っていても半ば物語の中の国も同然。日本人の感覚で言ったら、竜宮城や鬼ヶ島が本当に実在していて、そこの住人が会いに来たような状況のはずです。



「本当に、リサさん本人が来れたら色々と話が早かったんだけどね。いっそ、ビデオレターでも撮らせてもらって……でも、そもそも直接の面識のある相手でもないと確証には至らないかな。容姿についても十代当時のままとはいかないし、会っても必ず納得するとは限らないかも。そうだ、目の前で聖剣を見せれば証拠にはなるかな? でも、それだと結局本人に負担をかけることになりそうだし……聖剣ならユーシャ君になりすましを頼んで……いや全然似てないし、それ以前にあの子に演技とか無理そうだ」



 レンリがぶつぶつ呟きながら色々と考えていますが、そんな都合の良い名案があるなら最初から苦労していません。リサ本人をあちこちへ連れ出す案は妊婦の健康面への配慮で却下として、外村氏は話題を先へと進めます。



「でも、少なくとも異世界というモノの存在を最初から認めてくれているだけでも、随分とありがたい話ですよ。我が国でも地球の他国でも、最初の頃はその段階から大モメにモメましたから。魔王陛下が大きなドラゴンで国際会議サミット会場に空から乗りつけたり色々な物証を山ほど積み上げても二、三年くらいはトリックだのCGだのと言う人が後を絶ちませんでしたからね。集団催眠説や某国の生物兵器説、宇宙人説なんてのも出ましたっけ」


「ははは、ありましたねぇ。異世界人を否定するために宇宙人を持ち出したんじゃ何がなにやらって感じでしたな。各国首脳が一斉に異世界だのドラゴンだの本気で言い出したもんだから、口の悪いワイドショーや週刊誌なんかは、サミット会場で首脳陣が仲良く薬物パーティーでもやってたんじゃないかとか言ってましたっけ」


「魔王さん、あの人そんなことやらかしてたのか……」



 日本人組はもう済んだ話として和やかに当時の思い出を語っていますが、件の話題の詳細を知らなかったレンリ達は魔王の大胆すぎる所業に思いっきり引いています。実際には外村氏や軍司氏が語る以上のトラブルも大量にあったのですけれど。

 報道が規制され一般には知られていない部分ですが、地球の各国首脳が集まるサミット会場に乗り込んだ魔王は、会場の警備や近隣の警察から拳銃やマシンガンやライフルで散々に撃たれてみせたり、出動した軍隊の戦車砲や戦闘ヘリの機銃を素手で受け止めてみたり、それはそれは色々やったものです。

 流石に要人の巻き添えを恐れてかミサイルやBC(生物・化学)兵器は使用されませんでしたが、それ以外は大体全部喰らいました。全部効きませんでしたが。地球側を対話のテーブルに着かせるためとはいえ、随分な無茶苦茶をやったものです。


 一歩間違えれば、いえ、間違える余地すらなく世紀の重大テロ事件と断定されても文句は言えません。その後にもたらされたモノの大きさで有耶無耶になったのが奇跡みたいなものです。友好をアピールする上で表に出すべきでないと判断された話はまだまだ山ほどあったりするのですが、まあ知らぬが花というやつでしょう。



「ああ、そうだ。ビデオレターではありませんが、映像で説明をさせていただくのは良いアイデアかもしれませんね。先程から出し時を見計らっていたのですが、伯爵閣下へお会いするに当たって持参してきた手土産がございまして。軍司さん、弓場さん、お預けしていた荷物を」


「ええ、コイツですね」



 まあ済んだ話はさておいて、どうやって信頼を勝ち取るかについては何らかの着想が得られた様子。外村氏の指示で軍司三等陸尉達が抱えていた大きな木箱を開くと、その中から様々な電子機器が出てきました。


 ポータブルタイプのBD/DVDプレーヤーおよびソフトのセット。

 一眼レフのデジタルカメラに交換用レンズ数種とメモリーカード。

 音楽プレーヤーと演歌やロックやクラシックなどのCD。

 有線イヤホンや交換用バッテリーや手回し式の充電器といった付属品各種。


 それだけ見せられても伯爵としては意味不明でしょうが、実際に映像や音声を体感してみたら、その価値に気付くこと間違いなし。それらが少なくともこの世界や魔界の現在の技術レベルでは製造できないシロモノだという点も理解してくれるでしょう。この中でも比較的理解しやすいカメラにしても、一度触れてみればこの世界に存在するモノとの違いは一目瞭然です。



「我輩、ビックリである!」



 目の前の客人達の出身が本当に『チキュウ』の『ニホン』かはともかく、これで少なくともこの世界とは別の世界から来たことまでは信じてくれたのではないでしょうか。


 

「随分とまあ色々持ってきたものだね。他にも万歩計に腕時計……そういえば、こっちの一日って地球の数え方だと何時間なんだろ? それにゲーム機やラジコンなんてモノまで持ってきたのか。おや、これは……眼鏡?」



 驚き半分、呆れ半分。

 あまりにも多様すぎるラインナップを眺めつつ、説明書を読んで伯爵に機器の使い方を教えていたレンリが、木箱の底に一際厳重に梱包された小箱を見つけました。緩衝材を除けて中身を開くと、その中には眼鏡やサングラスや片眼鏡モノクル、ワイヤレス型のイヤホン、イヤリングやネックレスといった品々が。共通点といえば「顔の近くに着ける」くらいでしょうか。その組み合わせにも、それらを贈り物として選択するセンスにも、いささか奇妙なものが感じられますが……。



「しかも、よく見たらソトムラさんの眼鏡と同じデザインだし。こういうの、そっちで流行ってるのかい?」


「いえいえ、そういうわけではないんですけどね。そうだ、そろそろ種明かしといきましょうか。実はですね、我々がこうしてこちらの言葉を流暢に喋っているように見えるのは、全部こうした道具のおかげなのですよ」



 よくよく見れば日本側のメンバーは全員が今挙げたような装身具を身に着けています。

 しかし眼鏡のおかげで言葉が喋れるとは、これ如何に?

 一同は外村氏の実演を交えた説明に耳を傾けました。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ドラコンでサミットに参加 よし、次は魔王軍儀礼隊を連れてパレードすれば良いかも。 ただ、四天王ダブり状態で色々言われそう。 [気になる点] よーし。次の討論番組には魔王時代のアリスのみ参加…
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