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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十四章『神様旅行記』

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二つの世界の新時代


 東京都千代田区霞が関、外務省。

 建物内に一歩入ると、右を見ても左を見てもスーツ姿の職員が忙しく動きまわっています。一体全体どういうわけかコスモスに連れて来られた一行は、お役所特有のお堅い空気の中で明らかに浮いている状態に強烈な居心地の悪さを覚えていました。ハッキリ言ってしまえば場違いでしかありません。



「私もそんなに馴染みがあるわけじゃないけど、こういう場所の空気感っていうのはどこの世界も似てるものだね。正直、あんまり好んで来たくはないかな。それでコスモスさん、食堂は何階にあるんだい?」


「ふふふ、レンリ様ステイステイ。先に用事を済ませたらご案内しますので」



 省内を歩いていても守衛や職員が彼女達を止める様子はありません。

 全体の半分近くが幼女だからとはいえ、いくらなんでも小学校の社会科見学と間違えられているというわけでもないでしょう。明らかに事前に話が通っている反応です。


 皆を引き連れたコスモスは、そんな省内を我が物顔でノシノシ歩き、エレベーターに乗ってやって来たのは五階会議室。省庁としての性質上、この建物内には大小様々な規模の会議室がいくつも存在するのですが、その中でも特に大きな部屋でしょう。



「ん?」


「ああ、これは……いや、まさかな」


「どうかしたのかい、二人とも? そんな無意味に主語や目的語を抜いた無駄に思わせぶりな独り言を呟いちゃって」



 会議室の扉の前で、ライムとシモンが奇妙な反応を示しました。不慣れな場所ということもあってか、別の階にいた時は確信が持てなかったようなのですが……。



「気配」


「うむ、どうも覚えのある気配の持ち主が部屋の中にいるようでな。しかし、このような場所にあの方がいるはずないのだが……」


「だから意味深そうに主語を省かれると、こっちは何も分からないんだけどさ。まあ、気になるなら実際確かめてみればいいんじゃない?」



 レンリには何ひとつ感じ取れませんが、達人二名がそう言っているということは、その感覚通りに誰かしらいるはずのない人物がこの先にいるということなのでしょう。



「入室の許可が下りたようですな。では、答え合わせのお時間です。いったい扉の先にいるのは誰なのか? 正解された方の中から抽選で私特製スーパーコスモスちゃん人形をプレゼントいたします」


「いらんいらん」



 職員らしきスーツの人物と話していたコスモス曰く、どうやら入室できる状態になったようです。そうしていよいよ会議室の中に入った皆の目の前にいたのは――――。





 ◆◆◆





「やあ、皆。旅行は楽しかったかい?」


 まずレンリ達に声をかけてきたのは、入口近くの席に座っていた魔王。

 そのすぐ隣にはアリスやリサも座っています。

 が、彼らについては一旦置いておくとして……。



「やはり……兄上! いえ、陛下。何故、こちらの世界に?」


「思いの外早い再会であったな、シモン。婚約者殿も息災そうで何よりだ」



 シモン達が感じた気配の正体は、ほんの十日かそこら前まで滞在していたG国の国王。それも日本の流儀に合わせてか王冠を外して上等なスーツを着こなしています。


 意外な人物は他にもいました。



『あっ、皇帝のおじいちゃんなの!』


「おう、ウル嬢ちゃん達か! 久しぶりじゃの!」



 ウルが声をかけたのは、以前ちょっとした事件で縁のできたドワーフ地下帝国の皇帝陛下。ドワーフの体格には普通の人間用の椅子は合わないからか、別室から運び込ませたと思しきゆったりとしたソファに腰かけています。



『ところで、なんでお相撲さんの恰好なの?』


「おお、この服か? 他にサイズが合うやつがなかったんでな。なかなか着心地が良くて気に入っておるぞ」



 ドワーフ皇帝は体格に合うサイズのスーツが見つからなかった為、両国の相撲部屋が贔屓にしている呉服屋に外務省の人間が問い合わせ、手足の丈を詰めてどうにか着られるようにした着物姿。そこまで無理をして日本式の恰好にする意味があったのかはやや疑問ですが、少なくとも本人は和服を気に入っているようです。



「使途様方、我々もおりますぞ!」


『あっ、えっと……誰だっけ、なの?』


『姉さん、ほら、東のほうに行った時の神聖国の皆さんですよ』


『あ、あ~……も、もちろん覚えてたのよ? お魚が美味しい国なのよね?』



 それ以外にもレンリ達の世界の各国の王や、それに近しい役職の人間が何人もいました。

 海底に存在する人魚の王国や、種族の代表者と言うべき王を戴かないエルフなど、体質や主義の関係で来ていない国や集団もありますが、これほど多くの国家代表が集まるのは魔界との和平交渉時以来。交渉の舞台が異世界という点を考慮すれば、まさしく前代未聞でしょう。



「あ、うちの国の王様だ。後ろに立ってる人は護衛かな」



 国の代表だけで三十人近く。

 各々が連れている護衛や侍従は部屋の広さを考慮してか、各一人か二人程度に制限されているようですが、それでも室内にいる人数を合わせたら百人近くにもなるでしょう。しかも、これはレンリ達の世界側の人数だけでしかありません。


 場所が場所だけに当然ですが、まず日本の外務省に属する人間。

 総務省や防衛省、法務省など他の省庁から来ている人員。

 アメリカやアジアやヨーロッパ等、地球側の他の国々から来ている代表者もいる様子。それも恐らくは下っ端の役人ではなく相応の地位と権限を持った人間でしょう。



「なるほど、なるほど。なんとなく読めてきたよ。これだけの人間を両世界から集めるとなれば目的は自然と限られてくるからね。つまり……」


『レンリさん、その先はわたくしから』



 レンリの推測を女神が遮りました。

 その姿は、日本で購入した衣服とも旅行の最初に来ていた旅装でもなく、聖職者としての神子の正装たる真っ白な神官服。このフロアに着いた時は普通の恰好をしていたはずですが、わざわざ神力を使って一瞬で衣装替えをしたのでしょうか。



『あ、いえ、皆さんが話してる間にそこのお手洗いで早着替えを……こほんっ』



 女神が会議室内に姿を現すと、各国の王達および護衛達は一斉に椅子から立ち上がり、会議室の床に片膝をついて顔を伏せました。どうやら彼らは女神と神子の諸々について知っているようです。中には崇拝する神を目の前にした事実に感動してか、顔を伏せたまま歓喜の涙を流している者までいました。


 地球側の代表はそこまで大きな反応はしていませんが、恐らく事前に何らかの説明を受けていたのでしょう。本物の神の存在を目の当たりにして緊張ゆえかゴクリと唾を飲んだり、自分達が信仰するのとは別の神性に対して胸中で複雑な思いを抱いたり、いずれにせよ心穏やかではいられない様子。



『――――顔を上げなさい』



 信心深いのは結構ですが、このままでは会議になりません。

 神の尊顔を拝する許しを得た王達は、恐る恐る顔を上げていきました。

 


『まずは異界の友人らの寛容に感謝を。わたくしは其方らの信ずる神とは違う存在ですが、こうして話をする機会を得られたことを嬉しく思います』



 これが女神が信徒の前で見せる姿なのでしょうか。

 ついさっきまでの抜けたところのある言動など微塵も出さず、神らしい威厳に溢れる堂々たる振る舞い。言い方を変えれば猫を被っている状態ということですが、流石に年季が入っています。



『次に、我が世界の子らよ。わたくしの招きに応じ、この異界の地にまで来てくれた皆の勇気と信仰に感謝を。貴方達はわたくしの誇りです』



 この言葉に感激した何人かの王や護衛達が、人目もはばからずに滂沱の涙を流し始めました。女神としてはちょっとしたリップサービスのつもりだったのかもしれませんが、神から信徒へ送る言葉としては少々破壊力がありすぎたようです。



『この二つの良き世界が、良き絆を結べることを願います』



 女神は、そこから間髪入れずに本題に切り込みました。

 二つの世界の絆を結ぶ。その意味するものはつまり、これまでのようにごく限られた一部の人間だけが秘密裏に行き来するのではなく、公に女神の世界と地球との交流を開始する。

 地球にとっては既に他の異世界と経験した何度目かの、レンリ達の世界にとっては魔界に続く史上二度目の。いえ、元は一つであった魔界と人間界の複雑な関係を考えると、今回こそが本当の史上初になるのかもしれません。


 まさしく世界を変革する一大プロジェクト。

 きっと少なくないトラブルに見舞われることでしょうが、それ以上に得られる利は計り知れません。この場に馳せ参じた各国の王達も、信心ばかりではなく現実的な利益を目当てに集まったという側面もあるのでしょう。重要な意思決定の場に欠席して、他国に先んじられてはたまったものではありません。


 そして、ここまでは大方レンリの予想通り。両世界から相応の権限を持ったお偉いさんを集めてすることと言ったら、その可能性は自然と狭まってきます。

 公的な二世界間の交流が始まったら、これまでより気軽に地球と行き来できるでしょうし、わざわざ足を運ぶまでもなく書籍や電子機器などを取り寄せることもできるでしょう。いずれは周囲の目を気にすることなく大っぴらに電線を引いたり、居候先や実家にネット環境を構築できるようになるかもしれません。レンリとしても基本的には歓迎したい流れです。


 とはいえ、ここから先の展開は流石の彼女にも予想外でしたが。



『――――そして、この計画の要となる存在を紹介しましょう』


「……え、私?」



 正確には、レンリを含む数名の民間協力者。

 そして現在では「使途様」として存在を知られつつある次代の神々。


 女神曰く、両世界の友好はどうやら彼女達に懸かっている、らしい。

 各国のお偉いさんの前でこうして指名されてしまっては、まさか嫌とは言えません。こうして二つの世界の未来はレンリ達の手に、当人達の承諾を得ることなく無断で託されることになったのです。











◆◆◆◆◆◆



≪おまけ≫


挿絵(By みてみん)



これにて十四章終わり。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

また迷宮レストランを何話か更新したら次章を始めます。


迷宮アカデミアはあと二章で完結の予定です。

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― 新着の感想 ―
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