表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/1048

一方その頃


 レンリとウルが街中を必死に逃げ回っていた頃よりも少し前。

 凶悪な強盗犯に監禁されていたルグは、



「お前らなぁ、いくら貧乏でもああいうのは良くないと思うぞ」


「兄ちゃんも飽きないなー」


「ご、ごめん……ね」



 縛られたままの身でありながら、“今日も”呑気に犯人たちに更生を促していました。

 まあ、ここまですでに何度も繰り返したやり取りであり、未だに罪悪感で小さくなっているルカはともかく、他二人には軽く聞き流されていましたが。


 囚われの身になってから早二日。

 多少の信用を得た結果……というよりは管理上の利便性を鑑みて、後ろ手にキツく縛っていた手は身体の前側で両手首を縛るだけになり、猿轡も外されています。

 これでもまだ不便ではありますが、手を身体の前に置いたおかげでトイレの際の下着の上げ下げや、食事を自分で口に運ぶことも辛うじて一人で出来るようになりました。


 しかし、こうして多少なりとも不便がなくなると、当然ある種の欲求が出てくるもの。



「……ヒマだな」



 そう、ルグはとても退屈だったのです。

 当面、逃げたり助けを呼ぼうとしない分には危害を加えられる心配はほとんどなし。

 食事や身の回りの諸々に関する労力も大半はルグ自身が負担するわけではなく、一日中狭い部屋の中で世話を受けながら、寝ているか誰かと喋っているかくらいしかやることがありません。


 これが完全に見ず知らずの変質者が相手だったりすれば、彼も危機感の一つくらい覚えたのでしょう。

 ですが、以前から友人として親しくしていたルカとその家族が相手とあって、どうも事態を深刻に受け止める気になれなかったのです。むしろ、友達の家に泊まりにきたぐらいの緩い感覚でした(※この世界にこういう言葉はありませんが、人質が犯人と過ごすうちに好意や同情を抱いてしまう「ストックホルム症候群」という心理状態が近いかもしれません)。

 

 ともあれ、通算十回目になる説得ひまつぶしにも失敗したルグは、今度は手首を縛られたまま器用に身体を動かし、腹筋運動を始めました。本当は走り回りたい気分でしたが、この狭い部屋では大きく動くことはできないので妥協案です。



「もう、ちょっとは大人しくしてなさいよね」


「いや、だって寝てるのも飽きたし、身体が鈍ると困るし」



 床に寝転んだ体勢から上体を持ち上げ、また身体を寝かせ……という運動を延々と続けるルグに洗濯物を畳んでいたリンが抗議しましたが、それほど強い口調ではありません。

 無理におとなしくさせてストレスを溜めさせたら本気で脱走を考えるかもしれませんし、ルカの数少ない友人ということで半ば無意識のうちに甘い対応になっているのでしょう。



 やがて、朝食を終えてしばらく経った頃。



「じゃ、オレはロノの様子見てくるね。昼は森で果物か何か食べてくるから」



 レイルが立ち上がって外出の準備を始めました。

 毛皮の手入れ用のブラシやタオルなどをカバンに詰め込んでいきます。



「ロノって、あの時のグリフォンか?」


「そだよ。アイツ、ちょっと放っとくとすぐ拗ねるんだよね」



 昨日はルカが―――――一応、彼女なりに真剣に考えてのことでしたが―――――朝から夕方まで家を空けていたので、街外れの森に隠している鷲獅子グリフォンのロノの世話をしに行けなかったのです。

 身体は大きくともまだまだ幼いために、しょっちゅう顔を見せないと拗ねて寂しがってしまい、下手をすれば空を飛んでこの部屋まで会いに来かねません。



「ちゃんと暗くならないうちに帰るのよ」


「いって、ら……しゃい……」


「道を渡る時は馬車に気を付けろよ」


「はーい」



 ちなみに馬車が云々と注意をしているのはルグ。

 彼本人含め、誰もそのセリフに違和感を覚えない程度には状況に順応していました。








 それから更に時間が経過し、正午を少し過ぎた頃。



「じゃあ、アタシはご飯の材料買ってくるから。アンタたち何か食べたい物ある?」


「わたし、は……べつに……」


「あ、俺は鶏肉がいい。揚げたやつ」



 昼食の片付けを終えたリンも買い物に出ようと支度を始めました。「アンタたち」と、わざわざルグにまで夕食のリクエストを聞くあたり、色々と諦めたというか慣れてきた感が窺えます。



「はいはい。ルカ、ちゃんとその子見張っといてね。逃がしちゃダメよ」


「う、うん……逃げないで、ね?」


「ああ、逃げない逃げない」



 惰性で二人に注意をしたリンは、愛用の財布と買い物袋、それと念の為のナイフを服の下にしまい、部屋の戸に手をかけました。


 ……事態が急変するのは、この直後。



「ん? なんか外が騒がしくないか?」



 先に気付いたのはルグ。普段から率先して、動物や魔物の気配に注意していた経験が活きたのでしょう。共同住宅アパートメントのすぐ外の道から、何やら聞きなれない物音がするのに気が付きました。


 

「な、なに、アイツら……?」


「お姉ちゃ、ん……? どうした、の…………ひっ!?」



 そして、遅れること数秒。

 買い物に出ようと扉を開きかけて固まったリンと、その様子を不審に思って扉に近付いたルカも異変に気付きました。

 二階にあるこの部屋のすぐ下、普段は人通りの少ない寂れた道に大勢の人間が詰めかけ、人形のように虚ろな瞳でジッと彼女達を見上げていたのです。



朝から夏バテでやたらしんどかったんですが、ポカリ飲んで寝たらかなりマシになりました。読者の皆さんも体調管理にはご注意ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ