異世界人ぶらり旅 ~旅の終わり~
初日から数えて丸五日ほど。
レンリ達はそれはもう地球上の興味のある場所を片っ端から訪れました。
「なあ、レン。たしか地球って魔物とかいないって話じゃなかった?」
「うん、なんだいルー君? ああ、さっき寄った港町の話? たしかにちょっと魚っぽい人が多かった気がしたけど、それだけで魔物呼ばわりとは良くないなぁ。人間、見た目よりハートが肝心ってものだろう?」
「それもそうか……そうか?」
それはもう片っ端から訪れました。
中には本当に地球上なのか怪しい場所だったり、地球人なのかすら不明瞭な名状しがたい系の現地住民の皆さんもいましたが、言葉の通じない外国でも心を開いて接すれば身振り手振りだけで案外通じるもの。いやまあ本当に通じていたのかは怪しい部分も多々あるのですが、少なくとも荒事に発展することは皆無でした。
道具を借りて釣りや素潜り体験をしたところ、何故だか神力をしこたま蓄えた名状しがたい系の海の幸が獲れて、迷宮達が舌鼓を打つ微笑ましい一幕もあったくらいです。何ひとつ危険なことはありません。
「あれだけ色々行ったのに終わるとなると名残惜しいものだね」
「うん……楽しかった、ね」
そして今日はいよいよ旅行最終日。
予定など常にあってなきが如きレンリ達暇人チームはともかくとして、定職のあるシモンやユーシャや女神の依代になっている神子はいつまでも遊んでばかりいられません。現時点でもすでにだいぶギリギリです。
「次はいつ来れることやら。まあ電書と物理書籍でトータル一万冊くらい買ったから、私は当分は読書三昧かな。ルー君とルカ君はいつも通り、私の快適な暮らしを維持するためのお世話係をしっかり頼むよ」
「相変わらず冒険者の仕事じゃないな。今更か」
「えへへ……お姉ちゃん達へ、お土産……いっぱい買っちゃった」
これで帰ったら、また普段通りの暮らしに戻っていくのだろう。
皆、すっかりそう思い込んでいるのでしょう。
「コスモスよ。車を返しに行くなら道が違うのではないか?」
「おや、そうでしたか? これはうっかり」
いえ、皆という言い方には少々語弊がありました。
そうとは思っていない者。以前とそっくり同じ日常に回帰するとは思っていない者が、十五人の中に二人だけいたのです。より正確には、一人と一柱と表現すべきでしょうか。
現在、キャンピングカーは東京都内を走行中。
元々借りたレンタカー店に車を返すため向かっていると、少し前に運転手のコスモスが皆に伝えていたのですが、今走っている道は目的地と逆方向。真っ先にその事実に気付いたシモンがその誤りを指摘しました。
「というか、アレだ。あえて事を荒立てることもあるまいと黙っていたが、もう旅も終わる頃合いだ。そろそろ種明かしをしてもよいのではないか? 具体的には……ほれ、今もこの車を追っている者達がいるだろう。彼らを手引きしていたのはお前だろう?」
「ふふふ、面白い推理ですなシモンさま。しかし私にはその時間のアリバイがあるのですよ? このトリックを崩せない限りは私の犯行が暴かれることは決してありませんとも」
「早い早い! 語るに落ちておるではないか。というか、今回のはトリックだのアリバイだのがどうこう系のやつではないだろう」
「まあ、はい。普通にスマホの位置情報を追えるよう設定して、あとは毎晩こっそりその日にどこで何をしたかを報告していたくらいですが」
「そうか……なあ、なんで一回追い詰められた犯人ムーブを挟んだのだ?」
コスモスとしても本気で隠し通すつもりはなかったのでしょう。
シモンが問い詰めたらさほど引っ張ることもなく、あっさりと白状しました。
自分達の護衛に就いている警察関係者に位置情報と定期的な情報提供をしていた。護衛が護衛として機能していたかはさておき、問題はその理由です。
どこの誰がどういう理由で警察を動かしたのか。
そして、どうしてシモン達がその護衛対象となっていたのか。
「ふむ。話せば長くなりますが、あれは今から一万と三千年前のこと……」
「いや長いにもほどがあるわ。もう少し詰めてくれ」
流石に縄文時代にまでは遡りません。
精々、十数年といったところです。
「十数年? それでも思いの外長いな」
「それを説明するなら場所を変えたほうがよろしいかと……と、噂をすれば。皆様、長らくお待たせいたしました。到着です」
会話をしながらも運転を続けていたコスモスは、東京都内のとある場所でキャンピングカーを停めました。どうやら、彼女は皆をここに連れてきたかったようです。
東京都千代田区霞が関、外務省。
観光ツアーのゴール地点としては些か不似合いな場所ですが。
「ぼちぼち他のゲストの皆様も到着している頃でしょう。さあさあ、旅の締めくくりにもう少しだけお付き合い下さいな」
次回で十四章ラストです。




