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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十四章『神様旅行記』

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異世界人ぶらり旅 ㏌原宿


 無事に日本での移動手段を手に入れた異世界からの団体客御一行様。

 ここから先はコスモスも大雑把な予定しか立てていません。


 良く言えばライブ感、そのまま言えば行き当たりばったり。

 ただ興味の赴くままに手当たり次第に味わい尽くす。

 しいて言うなら、方針らしき方針を立てないことが方針とでもなるのでしょうか。



「さあさあ、皆様。到着しました」


「さっき通り過ぎたのが渋谷駅だっけ? ここまで意外と近いんだね」



 そうして選んだ最初の目的地は、車だと渋谷駅から目と鼻の先。

 徒歩でもさほどかからず辿り着ける都内屈指のオシャレタウン、原宿です。

 スマホの地図アプリのナビに従って、貨物トラックなどの大型車両を停められる駐車場にキャンピングカーを置き、そこから数分ほど歩いて有名な竹下通りまでやって来ました。



「じゃあ、皆。まずはここで服を手に入れるとしようか」


『お~、ここが原宿なのね! 我、一度来てみたかったの!』



 原宿といえばファッション。

 ファッションといえば原宿。

 もちろんレンリ達の目的もファッションです。


 単に地球の服飾に興味があるという理由が半分。

 残りの半分は、日本で市販されている衣服に着替えて無用の悪目立ちを避ける為。

 ほとんどのメンバーは特別に派手な服装をしているわけではありませんが、素材といいデザインといい、彼女達が今着ているような(日本人から見て)異世界の服装では、良くも悪くも必要以上の注目を浴びてしまいやすいのです。変装というほどではありませんが、ここから先の快適な観光のためにも印象を変えておくに越したことはないでしょう。



『あのぅ、レンリさん。わたくしも着替えないとダメでしょうか?』


「むしろ、着替えなきゃいけない筆頭だろう? ていうか、何その恰好?」


『一応、神官の皆さんが巡礼の旅をする時の旅装だそうですけど……』



 今いる面々の中で特に服装で目を引くのは女神でしょうか。

 旅行ということで神官用によく用いられる旅装を用意してきたようなのですが、これが日本の街中だと相当に目立っています。神官が旅をする時の服装には丈夫さや軽さも必要ですが、それより何より旅先の集落で冠婚葬祭の儀式を求められた時の為の威厳も欠かせません。


 女神が、正確には依代の神子が普段着ている全身真っ白の神官服に比べたら遥かに落ち着いているとはいえ、それは比較対象が悪いというもの。日本人の感覚で言ったら、最低でも袈裟姿のお坊さんくらいには注目を集めるでしょう。しかも、それを着ているのが雪のように真っ白な髪に透き通るような肌の佳人なわけですから、嫌でも人目を集めてしまいます。



『こちらの服装の良し悪しもよく分かりませんし、ここは一つこのままの恰好でいるというのは……』


「うるさい、問答無用! そんなの店の人に聞けば何とでもなるものさ。やあやあ、そこの店員の人。この白いのに合う服装を上から下まで一式見立ててやってくれたまえ! ほらほら、試着するから脱いだ脱いだ。それとも脱がせて欲しいのかい?」


『ひゃあっ!? じ、自分で脱ぎますからお手柔らかに』



 女神は渋っていましたが、レンリは強引にその手を取って目についたブティックに飛び込んでしまいました。明らかに日本人離れ、というか人間離れした美貌に店員氏も戸惑っていましたが、そこは向こうもファッションのプロ。すぐに気持ちを接客モードに切り替えて、こうでもないああでもないと知識とセンスを総動員して試行錯誤していました。



『ねえねえ、アレってゴゴに似合うと思うの!』


『うーん、我にはちょっと可愛すぎません? スカートもヒラヒラしすぎというか、ちょっと短くて落ち着かなさそうですし』


『ふっふっふ、ゴゴが信じる我のセンスを信じるのよ! ていうか、もう変えちゃうの』


『あ、ちょっ、勝手に!? い、いつの間にそんな技を?』



 迷宮達も姉妹揃って服装の吟味中。

 普段は忘れられがちですが、彼女達が着ている服は皮膚や髪と同じ身体の一部。

 一度見た服ならば、ちょっと意識するだけで一瞬で着替える……という表現が適切かはさておき、デザインを変更することができるのです。ウィンドウショッピングだけで事足りるとなるとお店は商売上がったりですが、まあ今回は勘弁してもらうとしましょう。



『やっぱりスカート短いですって、うぅ……』


『そんなことないの! ゴゴの新しい魅力が引き出されてるのよ』



 そしてウルはいつの間にそんなテクニックを覚えたのやら、他の姉妹の服装にまで干渉できるようになっていたようで。本人の同意もなしにゴゴにミニ丈のスカートを着せて恥ずかしがらせています。


 他の姉妹も大なり小なり同じようにファッションを楽しんでいました。

 あちこちの店の中や外から気になった服装にパパっと変身。

 緑や金や水色や桃色や白といった、ただでさえ目立つ髪色の女児が何人も集まってそんな風にしているのですから、当然ながら相当に人目を集めることになっています。



「見て見て、あの子達めっちゃ可愛い~」


「うわっ、今一瞬で服変わったよね!? あれも魔法なん?」


「ファッション魔法かぁ、便利そ~」



 厳密には魔法とは違うのですが、まあ素人目には似たようなものでしょう。

 不用意に目立ちたくないという元々の目的からは思いっきり外れていますが、周囲の通行人や店屋の店員からの視線は概ね好意的なものばかり。特に心配はなさそうです。


 それに何より、一番目立っている人物は他にいました。



「うひゃ、なにあの超絶イケメン!?」


「足長っ! 顔良すぎ!」


「眼福眼福。ご利益あるかもしれないから拝んどこう」


「海外セレブ? ハリウッドスター? 見たことあったら絶対忘れるはずないと思うんだけど」



 道行く女性達が人だかりを作っている中心にいたのは、他の皆と同じように服を着替えたシモンでした。ワイルドな印象の黒革のジャケットにジーンズ、シルバーのネックレスと指輪が普段の真面目な彼とは異なるイメージを生み出しています。



「なあ、俺の服ばかりこんなに何着も買っても仕方がないだろう? 何だか知らんが妙に人が集まっているし、店の迷惑になっても悪い。だから、このへんで切り上げてだな……」


「だめ」


『うん、ライムちゃんの言う通り。せっかく素材が良いんだから色々楽しまないと。次は方向性を変えてスーツにネクタイでキメてみましょうか?』



 シモンが買い物の切り上げを提案するも、その意見はライムと彼の首元のネックレス、アクセサリに姿を変えた流星剣ステラの反対によって阻止されました。

 先日のロールケーキ氏の技術協力によって発声機能の追加改造が今回の日本行きにどうにか間に合い、また武術大会の決勝戦で見せた変形の応用によってこうして同行することが可能となったのです。もし剣のままだったら、日本の銃刀法への配慮で迷宮都市に流星剣を置いてこなければならないところでした。



『いいねいいねー、次は少しポーズ変えてみようか? ほら、ネクタイとワイシャツのボタンを緩めて軽く胸元をはだけさせる感じで。店員さん、そこの椅子借りていい? ありがと、それじゃ座って足組んでー、姿勢崩して手すりにもたれてー……うわ、イケメンの色気ヤバ。やらせといて何だけど、これって大丈夫なやつ? 存在が何らかの法に触れない?』


「なあ、もう服選びとも完全に違うやつになってないか!? さっきから写真撮られまくってるし!」


「ううん。シモンの気のせい。周りの人達もそう言ってる」


「「「気のせいでーす」」」


「シャッター音をカシャカシャ鳴らしながら言われても説得力がないと思うのだが!?」



 スマホを構えた女性達に写真を撮られまくり、もう完全に特殊な撮影会と化しています。店の迷惑になるからという口実で逃げようにも、店員まで一緒になって撮っているのだから完全に退路を封じられています。

 結局、シモンはその後も様々な服の試着と撮影を強制され、ようやく解放されて店を出る頃にはすっかり疲労困憊。よろよろと足元も覚束ないほど疲れ切っていました。



「やあ、思ったより遅かったね。何かトラブルでもあった?」


「ううん。すごく良かった」


「良かった?」



 先に用事を済ませて竹下通りの有名なクレープ店で全メニュー制覇にチャレンジしていたレンリと女神、普通にクレープを食べていた他の面々に対し、いつにないホクホク顔のライムは満足気に答えました。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 服選びとりあえず女神はおもちゃにされ弾ける レンリ〉ボーイッシュでもなんでも似合う※スカートなイメージが余りわかない(・・;) コスモス〉たぶんエージェントスミス風? 女神〉絶賛おもちゃか…
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