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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十四章『神様旅行記』

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イカれた新メンバーを紹介するぜ!


 そうして日に数時間の『予習』をしながら迷宮都市で過ごすこと数日。

 いよいよ、異世界『地球』の日本国に向けて旅立つ日がやってきました。


 ここ数日、勉強会の会場となっていた魔王の店の二階リビングでは、集まった面々が荷物を開いて忘れ物のチェックなどをしています。



「カバンよし! ハンカチよし! オヤツなし! しまった、出発前に用意した食べ物を全部食べてしまったよ。これは参ったね、はっはっは!」


「も、もう……? わたしの……分けて、あげる……ね?」


「ルカ、あんまりレンを甘やかすんじゃないぞ」



 旅行の準備自体は、普通の旅とさして変わりません。

 長時間の持ち歩きに不向きな大型のトランクの類は、迷宮都市に取ったままの宿に置いていきますし、持っていくのは小回りの利くハンドバッグや小さめのリュックサック程度。目的地が目的地なだけに、それ以外に必要な物は現地調達で事足りるだろうという判断です。



「あっはっは! まあまあ、細かいことはいいじゃないかお父さん! たまの旅行の時くらい大目に見てあげよう」


「そうだぞ、お父さん。ユーシャ君もこう言っていることだし」


「お願いだから、レンまでお父さん呼びは勘弁してくれ……身に覚えがない子供が増えるのは二人で十分だっての」


「ほほう、つまり身に覚えのある子ならいいと? だってさ、ルカ君!」


「え、えぇぇ……!? ルグくん……その、お手柔らかに……」


「こら、レンこの野郎! ルカを困らせて遊ぶんじゃありません! ルカも無理して話に乗らなくていいからな!」



 まだ出かける前からこの盛り上がりよう。

 遠足は準備している時が一番楽しいなんて言いますが、それと似たようなものでしょう。もっとも、盛り上がる要因は他にもありますが。




「ところで、ユーシャ君。魔王さんに有給貰ったんだって?」


「うん! せっかくだから一緒に行ってきなさいって。おかげでアイともいっぱい一緒に遊べるぞ!」


『あい! ねぇね、いっしょ!』



 今回の旅行には更に臨時の参加者が増えることになっていました。

 まず一人はユーシャ。魔王の店の従業員でもある彼女は、わざわざ有給休暇を取得しての同行です。同じく従業員であるウルやゴゴやヒナと同じく、魔王家の子供達の幼稚園の送り迎えや買い物に同行したりと、実は日本を訪れた経験はレンリ達よりずっと多かったりします。



「でも、いつもはリサ先輩の家の近所だけだからな。旅行っていうのは初めてだから楽しみだ! アイ、お姉ちゃんと一緒に色々行こうな!」


『あい!』



 非常に複雑な家庭事情ではありますが、ルグとルカの身に覚えのない娘同士としてのシンパシーゆえか、ユーシャとアイは出会った瞬間から大の仲良しになっていました。普段はアイを抱っこして両手が塞がっていることが多いルカですが、今はユーシャが率先して面倒を見ていてくれるため両手が空いて身軽になっています。



『あらまぁ、仲がよろしくて大変結構ですね』


「やあ、来たね。ところで、今更だけど神様が旅行で不在って大丈夫なのかい、世界? まあ大丈夫だから来るんだろうけど」



 そして間もなく二人目の臨時メンバーがやって来ました。

 いえ、正確には『人』ではないのですけれど。



「神様はともかく、その身体の持ち主の神子さんは結構なお偉いさんなんだろう? よく何日もスケジュールを空けられたね」


『ふふふ、そこはほら、こうしてお誘いがあるのは予知で分かっていたので、何か月も前から前倒しで準備や調整をですね』


「ううむ、なんたる信仰の無駄遣い……大いに結構だとも! 無駄を楽しむ余裕もない人生ほど空虚なモノもないからね」


『ええ、ええ。レンリさんは大変よく分かってらっしゃいますね。まあ「人生」ではないんですけれど』



 女神の依り代である神子の表向きの立場は、勇者召喚の国として有名なA国から迷宮都市に派遣されている大使館長。見た目は十代の少女ながら普段は書類仕事や各国の要人との面会に忙殺される大変な立場なのですが、今回はどうにかスケジュールを調整して異世界旅行への参加を実現したようです。



『アイもこうして会うのは久しぶりですね。わたくしのこと、分かりますか?』


『あい! まま……つー!』


『母親二号(ツー)!? 一号(ワン)! わたくしが一号(ワン)ですからね、一応!』


『あぃ、わんわん?』


『いえ、犬さんは関係なくてですね……!』



 一時的に神が不在となってしまうこの世界ですが、ほんの数日の留守では大きな影響がないことは相応の神力を費やしての未来予知で確定済み。それがなくとも魔王やアリスがいれば、世界が滅亡しかねないトラブルの十や二十は片手間で片付けてくれるでしょう。



 そして最後の一人となる臨時メンバーについてですが。



「おっと、私が最後のようですな。お待たせいたしました」


「やあ、コスモスさん」



 三人目の追加メンバーはコスモス。

 ある意味、これほど頼もしくも恐ろしい人物もいないでしょう。

 あまりに頼もしすぎてシモンなど早くも表情が固く引き攣っています。日本国内でいくつもの会社を経営している彼女は、並大抵の日本人以上に日本の事情に精通しているのです。



「早速で悪いけど、手紙で頼んでおいたブツは?」


「ふふふ、それはもう抜かりなく。これがレンリ様の分になります。よろしければ皆様の分もありますので、お気軽にどうぞ」



 挨拶もそこそこに、コスモスは持参したバッグから取り出したスマートフォンをレンリに手渡しました。しかも、その一台だけでなく他全員分の用意があるようです(流石にアイには持たせられませんが)。

 


「すでに一通りの初期設定は済んでおります。まあ杞憂でしょうがGPS付きのスマホを持っていれば迷子の心配はないでしょうし」


「ふむふむ……分かってはいたけど、こっちの世界だと当然圏外か。これって向こうに着いたらアプリとか自由に入れちゃっていいのかい?」


「ええ、ご自由に。そうそう、不慣れな方のために電話の出方とかけ方の練習くらいはしておいたほうがいいでしょうか?」



 同じく今初めて触っているはずなのに、何が何やらという風におっかなびっくりスマホに触れているルグやルカと違い、レンリは何年も使い慣れているかのようにオフラインでも使える設定画面をあれこれ弄って自分に使い易いように設定を変更しています。

 知識としてそういうモノがあると知っていた面々も、レンリほどではありませんが、そう時間はかからずに基本的な操作を覚えていました。


 そうしてスマホの一幕を終えたところで。



「で、コスモスさん。例のブツは?」


「ええ、それも勿論抜かりなく。はい、こちらを」


「へえ、実物は思ってたより少し小さいかな?」


「はい、よろしければ皆様の分もありますので、お気軽にどうぞ」



 なにやら、つい数分前と同じようなやり取りが繰り返されました。

 しかし、今回配ったのはスマホではなく黒いカード。さらりとしたマット加工の手触りに、そこはかとない高級感が感じられます。



「こちら、限度額無制限のクレジットカードとなっております。スマホと同じくお気軽にどうぞどうぞ」


「いや、お気軽に使えんが!?」



 これには流石にシモンからの「待った」がかかりました。

 


「クレカの貸し借りって確か駄目なやつだろう? いやまあ、俺も何かの折にリサが買い物に使うのを見た覚えがある程度で別に詳しくはないのだが……」


「シモン様、ご安心ください。貸し借りではありません。ちゃんと皆様ご自身の名義でカード会社から正規に発行されたモノですので」


「ああ、それなら安心……とはならんからな!? むしろ不安が増したのだが!?」



 偽造品なら問題ですが、正規のカードでもそれはそれで大問題。

 どういう審査過程を経て発行されたのか大いに気になるところです。

 そもそも「クレジットカード」が分からないルグやルカなどは、シモンの言葉の意味がほとんど分からずキョトンとした顔で聞いていましたが……。



「なあ、レン。よく分かんないんだけど、このクレ……なんとかって結局何なんだ?」


「ざっくり説明すると、これをお店で出すだけで無限に買い物ができる魔法のカードだよ」


「へえ、向こうにはないって話だったけど、あるにはあるんだな魔法」


「お買い物用の、魔法……なんだか便利そう……だね」



 いくらなんでも、この認識の人間にクレジットカードを持たせるのはあまりにも危険すぎます。結局、シモンからの厳重な抗議によりカードは回収。早速スマホに紐づけて電子マネーを使う気満々だったレンリからのブーイングは出ましたが、黒いクレカの配布は見送りとなりました。

 出所についての謎と不安は大いに残るものの、これでひとまずクレジットカードについての話題も一区切りとなり……そして、いよいよ。



「さて、それじゃあ……コスモスさん、例のブツは?」


「ふふふ、それはもう抜かりなく」


『この流れ、まだやるの?』



 そろそろ飽きてきたウルからの冷静な指摘が出ましたが、有るものは有るのだから仕方がありません。スマホ、クレカに続いてコスモスが取り出したのは、小さな手帳のような物体。



「へえ、駄目元で頼んでみたけどちゃんと用意できたんだ。流石はコスモスさん。あとで入手経路とか教えてくれると嬉しいな」


「はい、というわけで皆様のパスポートと観光用のビザですね。すでに入管の審査印は押されておりますので、向こうでお巡りさんに職質されたらこれを開いて見せるのですよ」


「おいこら」


「シモン様、ご安心ください。もちろん本物で合法なやつですので」


「この場合、本物だからこそより怖いのだがな! いったい何をどうやって手に入れたのだ!?」


「ふむ、語れば長くなりますが……今朝方、まだ夜明け前の東京湾に私が漁に出ていると、なんとびっくり引き上げた網の中にコレらがですな」


「頼むから、せめて騙す気くらいはあってくれ……」



 いったい、何をどうやって手に入れたのやら。

 コスモスが取り出したのは本物の身分証明一式セット。

 これさえあれば街中でお巡りさんにポンと肩を叩かれても安心です。



「まあまあ、気になるならカバンの底にでも眠らせておいて下さいな。大して邪魔になるモノでもありませんし」


「う、うむ……」



 非常に怪しくはあるものの、能動的に使えるクレカと違って持っているだけで危険ということはないはずです。最終的にはシモンも押し負けて受け取っていました。


 これで今度こそ準備完了。

 レンリ、ルグ、ルカ。

 シモン、ライム。

 迷宮が七人にゲストが三人。

 総勢十五名という結構な大所帯になってしまいましたが、人数が多い分だけ賑やかで楽しいという見方もできるはず。



「さあ、それじゃあ出発だ!」



 コスモスがカギ型の怪しげなアイテムで日本への道を開くと、一行はぞろぞろと空間に開いた穴へと飛び込んでいきました。










 そして、日本に到着した直後。



「ああ、すみません。日本語通じるかな? エクスキューズミー?」


「失礼。警察の者ですが、ちょっとお話伺ってもいいですか?」



 一行は日本の地を踏んでから実に一分以内という好タイムで、二人組のお巡りさんにお話を伺われることになったのです。さあ、小粋なトークバトルの始まりだ……!









◆◆◆◆◆◆



≪久々のおまけ≫


挿絵(By みてみん)



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― 新着の感想 ―
[良い点] 身に覚えのない我が子 あ、これ、ルカの目からハイライトが消えるか夜戦<意味深>な案件フラグですね。 いや、待てよ、ドラクエでも気が付いたらいつの間にかプレイヤーでさえ気が付かないうちに子供…
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