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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十四章『神様旅行記』

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お菓子の国の冒険④


 お菓子の城が空を飛んでいました。

 まあ、それくらいなら大したことはありません。

 鳥や虫だって飛んでいるのです。城が飛ぶことくらいあるでしょう。



 しかし、その飛び方が問題でした。

 急降下や急上昇、急旋回に宙返り。巨大な体積と質量を有する物体が、凄まじい勢いで空をビュンビュン飛びまわっているのです。動きの余波で生じた風圧が綿菓子の雲を吹き散らし、地上にまで強い風が吹きつけてくるほどです。


 周りも大変ですが、城の中にいる人々はもっと大変。

 これでは、ほとんど絶叫マシンも同然でしょう。


 そうなってくると気になるのが、こうなった原因についてですが。



「えへへへ……なんだか、とっても、楽しいねぇ」


「ルカ、もしかして酔ったのか!? お菓子に入ってた酒で!?」


「ううん……? ぜんぜん、酔ってない、れしゅよぉ……えへへへ」


「うん、めっちゃ酔ってるな!」



 ダイエットの誓いを破ったルカは、それはもう存分にお菓子の国を満喫していました。お酒入りのシロップがたっぷり染み込んだブリオッシュのクジラに、ウィスキー入りのチョコレートボンボン、薫り高いブランデーケーキ。他にも色々と。


 そして、こうなりました。

 なってしまいました。

 お酒入りのお菓子ばかりが続いたのは、たまたま手近で見かけた物を手に取ったらそうだったというだけの偶然ですが、我慢の反動もあってさぞや美味しく感じたのでしょう。ルグや他の皆がルカの異変に気付いた時には、もう顔を真っ赤にして上機嫌で笑っていました。



『まま、すごい!』


「えへへ、じゃあ、もう一度……たかい、たかーい!」


『きゃっきゃっ』



 ルカが片手を軽く持ち上げると、その動きと連動して彼女達がいる城が一瞬で千メートルほど急上昇しました。ルカの『星を掴む力』は、物体の距離や大きさを無視して対象を掴めるというもの。今回は目に見えない巨大な手で城の土台ごと引っこ抜いたような形です。


 不幸中の幸いと言うべきか、お菓子の城を訪れた際に城内にいたのは仲間だけ。無関係の一般人を巻き込む事態だけは避けられましたが、だからといって解決の見通しは立っていません。ルグやライムや迷宮達も手を出しあぐねていました。



『うーん、酔っ払いをどうにかするのってどうすればいいのです? 肝機能の強化とか、あるいはアルコールそのものの働きを弱めるとかですかね?』


『ルカさんの体内のアルコールだけに干渉して抜き出すとか……でも、急に酔いが覚めて正気に戻ったら驚いてこのお城落っことしたりしそうじゃない?』



 酔い覚ませそうな手段自体はモモやヒナが言うようにいくつか思いついたのですが、下手にシラフに戻すとその弾みで能力の制御が外れてしまうかもしれない。そう思うとなかなか手が出せません。最悪、城が墜落します。

 ライムが絞め技か何かでルカを気絶させたり、ネムの力で酔ってない状態にまで戻すのも、同様の理由で却下されました。



『まったくもうっ、どうすればいいの!?』



 ウルの叫びは誰かの返事を求めてのものではなかったのでしょう。



「はっはっは! やれやれ、まったくしょうがないなぁウル君は!」



 ですが、その声に応える者がありました。





 ◆◆◆






「へぇ、ここがお菓子の城か。ロールケーキ君、なかなか良いところじゃあないかい」


「いやぁ、それほどでもあるでござるよ。で、レンリ殿。シモン殿とゴゴ殿に抱えてここまで連れてきて貰ったは良いものの、ここからどうするかの策はあるのでござろうか?」


「ふっふっふ、私を誰だと思っているんだい? そんな都合の良い作戦なんて、もちろん……あるはずがないだろう。なにしろ下からじゃあ何が起きてるかも分からなかったからね。まあ現場に来れば後はフィーリングで何とかなるかなって」


 援軍の正体は、まあ隠すまでもなくレンリとシモンとゴゴとロールケーキだったのですが。地上数千メートルでランダムに飛行するお菓子の城まで、跳躍と重力操作を併用して強引に上ってきたのでしょう。


 頼もしい援軍……と思いきや、対策を立てようにも前提となる情報が不足していた為、現地に来れば何か思いつくだろうという程度の甘い見通しだったわけですが。お菓子なだけに。



『それで良く我にしょうがないとか言えたのね!?』


「おや、ウル君。そんなに怒ってどうかしたのかい? まあまあ、お菓子でも食べて落ち着きたまえよ」


『こ、この女……!』



 言うが早いか、レンリは城内の床に落ちていたキャンディのシャンデリアをバリバリと嚙み砕いて食べ始めました。そして食べ終わりました。

 モモが皆に対して働く慣性を弱めているおかげで、城が空中を高速で飛び回っているにも関わらずレンリやルグも無事でいられますが、勢いが強すぎるせいか城内すべてをカバーするのはなかなか難しいようで、城の中には壊れたり剥がれたりしたお菓子の建材や調度品が散乱しています。そうして崩れ落ちたクラッカーの大階段をレンリが遠慮なく食べ始めてい……食べ終わりました。



「はっはっは、このままだと解決の方法を思いつくよりも早く、レンリ殿がこの城を食い尽くしてしまうかもしれんでござるなぁ」


「そうしたら城が墜落する心配は要らなくなるね。流石は私! まあ期待に応えられずに残念だけど、解決策はもう思いついちゃったんだよね。三つ、いや四つかな」



 脳に糖分を送り込んだことで回転が良くなっているのでしょうか。



「要はこのお城が墜落して壊れたり、下にいる人達が巻き込まれないようにすればいいだけのことだろう?」



 例えば、地上に降りたウルが巨人のように大きくなって城をそっとキャッチする。ヒナがこの城をドロドロに溶かしてから地上で再構成する。シモンが重力操作で城を持ち上げている間にルカをシラフに戻して、状況を説明して理解させてから下してもらう。城を跡形なく破壊してからネムに元通りに直してもらう、など。


 考えればもっと他の案も出るかもしれません。

 ルカをどうにかする方向でばかり考えていたせいで、皆の思考が固くなっていたのでしょう。落ち着いて考えさえすれば、そう難しい問題ではないのです。


 が、しかし。



「じゃ、そういう訳だからあとは誰か適当に頼むよ。ルカ君、次は窓から見えるあの尖塔を取って貰えるかい」


「えへへ……はい、どうぞぉ」


「ありがとう。これはマジパンかな? これを食べ終わったら次は屋根を攻めていこうか。ルカ君がいるとわざわざ登ったり移動したりの手間がなくていいねぇ」


「どういたしまして……えへへ」


『……これ、もう本当に全部食べちゃうんじゃないの?』



 見る見る間にお菓子の城がどんどんと穴だらけになっていきます。

 最早、何をするまでもなく墜落するモノがなくなってしまいそうです。

 そう思ったら、皆も真面目に考えるのが急に馬鹿らしくなってきました。



「おや、皆も食べることにしたのかい? 頼むから私の分まで取らないでおくれよ」


『レンリさんのそういうところ、モモは嫌いじゃないのですよ。じゃあ、「そういうコト」でいいのですよね? 一応、ここにいる皆の食欲と消化力は限界まで強化しておくのです』


「はっはっは、なくなったら拙者の魔力でまた新しい城を建てるので遠慮は無用でござるよ」



 ここから先は全員で楽しいおやつタイム。

 半壊状態だった城の崩壊速度は更に加速し、空中のお城は見る見る小さくなっていきました。墜落するモノがなくなれば問題も解決。お菓子も楽しめて一石二鳥というわけです。

 最初に屋根が消え、壁や柱も食べ尽くし、最後に残った床も今や皆が座っている一部以外は綺麗さっぱりなくなってしまいました。



「ふー、満足満足! 久しぶりにお腹いっぱい食べた気がするよ。夕食は塩気の効いたステーキでも食べたいね」


「いやぁ、すごいもの見ちゃったでござる。人間の可能性とは凄まじい。今度は食べ切れないくらい大きいのを建てておくから、また遊びにきてほしいでござるよ」



 こうして、お菓子の城はまさかの方法で墜落の危機を回避。

 見事な喰いっぷりに感心したロールケーキはレンリ達のことを大いに気に入り、更にパワーアップしたお菓子の城の再建計画に熱意を燃やすのでした。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ルカ酒に酔う。 とりあえず、ベロベロにして数日後に記憶戻してみたら、廃人になるヤツ [気になる点] お菓子の旦那は副業で駄菓子屋やっていそう お菓子迷宮の新作造る前の反応とか見るために? …
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