お菓子の国の冒険③
一方、その頃。
別行動中のレンリ達は無事に目的の人物を探し出していました。
お菓子の国はほぼ円形の島国、その中央部にお城や街があって、周囲を森や山が囲んでいるという地形なのですが、現在位置は島の北側。最初に他の皆と別れた位置から小高い丘を越えた先あたりになります。
普通に考えたらロールケーキ一本をこの広さの中から探し回るのは相当な労力を要するのでしょうが、幸い今回は探し人の気配をシモンが覚えていたおかげでスムーズに見つけることができました。数キロ先から個人を特定できるあたり、彼もますます人間離れしてきたようです。
「ふむふむ、なるほど。随分と参考になったよ、ロールケーキ君。破壊力が伴わない程度の空気の振動を制御して疑似的に発声する、と。実際に声を出す時の魔力の流れもよく観察させてもらったし、これならステラ君に無理なく組み込むこともできるだろうムシャアァ!」
「………………フン! はっはっは、お安い御用でござるよレンリ殿。それはそうと喋ってる時にいきなり食いつかれるのは正直怖いから、食べる時はあらかじめ食べると言って欲しいでござ……」
「うん、前向きに善処するよムシャァア!」
いきなり頭からガブリと齧りついたレンリによって、ロールケーキの上半分が一瞬で消失しました。しかし、そもそもが食べられることを前提とした生命体。「フン!」と気合を入れると同時に、瞬間的に消えた部分がニョキっと再生していました。スピードだけならネムの『復元』にも見劣りしません。
ちなみに流星剣に念話以外の発声機能を組み込む為の話し合い自体は、実に有意義なものとなりました。一般的なソレとは双方共にかけ離れているとはいえ、ベースとなったのはゴーレムを作成・制御する術式。まるで人間そのものの如き思考力や感情を備えているように見える彼らですが、普通のゴーレムが命令に従って行動する為の疑似思考力を発展させたものには違いありません。
ロールケーキゴーレムがどのように声を出しているかを、見えない力の観測に長けたシモンやゴゴの助けも借りながら何度も観察を繰り返して記録すること数十回。ロールケーキが無意識にやっている術式の解明にほぼほぼ成功していました。
小麦粉や生クリームのカラダと金属のカラダとでは勝手が違う可能性もありますし、剣に新たな機能を追加する際に武器本来の性能や重量バランスを崩さないよう留意する必要はありますが、レンリの見立てでは恐らく問題なく話せるようにできるだろうとのことです。
「お役に立てて何よりでござる。にしても、レンリ殿。食べられてる拙者が言うのも何であるが、そんなに食べてよくお腹いっぱいにならないでござるな?」
「はっはっは、これくらいじゃあ前菜にもならないさ。それよりキミのその再生能力にも興味があるね。どんな小さい欠片からでも一瞬で全身を再生できるとは実に便利だ。その仕組みもいずれ解明して、甘味だけに限らず肉料理や野菜料理を造ってみせようか」
「ううむ、凄まじい食い意地でござる。果たして神子殿とどちらが上なのやら……」
発声能力だけでなく存在そのものが不思議のカタマリのような二足歩行型ロールケーキは、レンリのインスピレーションと食欲を大いに刺激してくれたようです。勢い余って再生能力を発揮する間もなく全身を平らげられてしまうリスクはありますが、新たな友人同士として今後は良い関係を築いていくのではないでしょうか。
「さあ、それじゃあ用事も済んだところだし、そろそろウル君達と合流しようか。適当に歩いてれば見つかるかな? ここ、思ったより広いからねぇ」
『ああ、それなら我が姉さん達に聞いてみますよ』
「うん、ゴゴ君お願い」
用事も済ませたことですし、ここからは純粋に入場客として楽しむ時間です。
レンリに限っては既に数十本相当のロールケーキを完食しているわけですが、本人も言うようにその程度ではオードブルにも不足でしょう。むしろ半端に食べたせいでかえって空腹感が強まったくらいです。別行動を取っているウルやルカ達と合流すべく、ゴゴが念話を飛ばして居場所を確認しようとしたのですけれど……。
『もしもし、姉さん。今どちらに……ええと、お城が、ええと何です? はい、ルカさんが何か? ……うーん、取り込み中なのか念波の通りが悪いのか、どうにも要領を得なくて。多分、お城のあたりにいるみたいなんですけど』
「城というと、ここに来てすぐに見えたアレだな。角度の問題か、山だの森だのに隠れて俺達が今いる場所からは見えぬようだ、が……いや、待て待て!? もしや、アレか!?」
すぐに居所が分かるかと思いきや、ウルは現在落ち着いて会話ができる状況ではない様子。「お城」というキーワードからシモンが城のある方角を見てみるも、遮蔽物に隠れているのか確認できず……かと思われましたが、実際にはもっと大変な事態になっていたのです。
「なんだい、シモン君。そんなに慌てて。うん、空? 空が何か……」
シモンの言う通りに空を見上げてみると、そこには甘い綿菓子の雲がプカプカと宙に浮かんでいました。翼を持つ鳥系の獣人や妖精であれば、あの高さまで飛んでいって味わえるかもしれません。
が、注目すべきは雲よりも更に上。雲に隠れて一見では分かりにくい、あるいは見たところで目の錯覚か正気を疑いたくなるような――――。
「ねえ、ロールケーキ君。一応聞くけど、ここのお城って飛行とか変形合体とかしたりのするかい?」
「おお、男のロマンでござるな! しかし残念ながら、そういった機構はお菓子に組み込むのが難しく……って、あれぇぇ!? めっちゃ飛んでるでござるぅぅ!?」
――――お菓子の城が、空を飛んでいました。
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