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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十四章『神様旅行記』

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お菓子の国の冒険①


 突然ですが、今冬の旅行においてルカは密かに目標を立てていました。



「まだ、大丈夫……だよね? うん、大丈夫……の、はず」



 迷宮都市の宿での就寝前。

寝間着に着替える際、ルカは自分の脇腹や二の腕を触っては、己に言い聞かせるように繰り返し「大丈夫」と呟いていました。


 そう、彼女が気にしているのは自分の体型。

 去年の旅行ではあちこち行くたびに美味しいものを食べ過ぎてしまい、その結果、学都に戻る頃には余計なお肉がたっぷりと付いてしまったものです。


 元々ルグへの恋愛感情を抱くまで自分の体型というものを意識することがなく、また学都に来る前の貧乏暮らしのせいで同世代の平均よりも痩せていたので、太ることに対する危機感というものがあまりに欠如していました。


 時期的にも厚着になりがちな寒い頃合い。

 少々の体型変化はパッと見で分かりにくくなっていたのも良くありませんでした。元々、スタイルが出にくいゆったり目の服を好んでいたこともあり、他の人の目にもほとんど変化が分からなかったのです。



「ダイエットは……嫌……」



 昨年、すっかり丸くふくよかになったルカを待っていたのは、ライム先生の指導による地獄のダイエット教室。効果絶大な代わりに幾度となく「死」を意識させられたものです。

 正直、ルカには今でもアレと拷問との違いが分かりません。強制ではなく自ら望んで受けたとはいえ、今でもたまに夢に見ては夜中うなされるほどの壮絶な経験でした。


 もう二度とあんな辛い目には遭いたくない。


 今回の旅行に際して彼女をそう決意させるには十分すぎる体験でしょう。

 これまでに訪れた各地でも、昨年のような無計画な暴食は避けて腹八分目を常に意識し、本音ではもう少し食べたいと思っていてもおかわりを頼まず、余計な間食もなるべく控えるようにしていました。

 アイの面倒を見るため自分の食事だけに集中するわけにはいかない状況も、そういう意味では幸いだったと言えるでしょう。


 そのおかげか、今のところは旅行前と変わらないスタイルを維持できていました。

 少なくともハッキリと差異を自覚できるほどの変化はまだありません。



「なんとか、このまま……」



 旅行もそろそろ後半戦。

 ルカとしては、なんとしても現状をキープしたいところでした。






 ◆◆◆






 迷宮都市に着いて二日目。

 昨日は早速街から離れてエルフの村にお邪魔したわけですが、本日は迷宮都市で過ごす予定。とある施設でのお菓子食べ放題がお目当てです。


 見渡す限り広がるチョコレートの大地にジュースやハチミツの川が流れ、ゼリーのスライムや綿菓子のウサギが走り回り、クッキーやビスケットで建てられた家々やお城が建ち並ぶ。

 単なるスイーツバイキングなら他の街でも探せば無いことはないかもしれませんが、こんな場所は世界に二つとないでしょう。まあ正確には学都の神造迷宮と同じく通常世界の空間と隣接した異空間にあるわけですが。



「入場料は払ったし、もう好きなだけ食べていいんだよね? よし、それじゃあ早速あそこに見えるお城を落とそうか」


『どうどう、お姉さんステイなの。まず食事の話題で城攻めが選択肢に出てくるのがどうかと思うけど、そもそもその前に用事があるのよね?』


「ああ、そうだった。この光景を見たら一瞬で記憶から飛んでたよ」



 いきなり滅亡の危機に瀕していたお菓子の国ですが、今にも駆け出そうとするレンリをウルが止めました。今回の目的はお菓子の食べ放題には違いないのですが、メンバーの一部にはそれ以外にも目的があったのです。



「それで、アリスさんが紹介してくれたロールケーキ君はどこにいるのかな? シモン君達はここに詳しいんだろう?」


「いや、それほど詳しいわけでもないが……まあ適当に歩いていれば、すぐに見つかるだろう。すまぬが話を聞くまでは道中で軽くつまみ食いをする程度に抑えてくれると助かる」


(いやぁ、ワタシのためになんだか悪いわね。でもまあ、そのゴーレムちゃんを参考にすればワタシも普通にお喋りできるようになるかもだし)



 今朝早く、まだ営業を始める前の魔王の店に寄った一行は、挨拶のついでにシモンの流星剣ステラを話せるようにできないかと魔王やアリスに相談を持ち掛けたのです。

 なにしろ相手は魔法に関して世界屈指のエキスパート。

 レンリも知らないような珍しい魔法に関する知識も多々あります。上手くすれば、そのまま労せず改良までの道筋がハッキリ分かるかもしれないという期待もありました。



(ま、世の中そこまで甘くはなかったけど)



 とはいえ、結果としては当てが外れた形。流石のアリス達といえど、生物のような発声器官のない器物を喋れるようにできる心当たりはありませんでした。


 ついでに言えば、まさにその喋る剣の現物の持ち主であり本日の本命と目されたリサは、日本の幼稚園に子供達を送りがてら実家の店に出勤していてすでに外出中。流石にシモン達の用事を優先して仕事中に呼び出すのも気が引けるので、後で改めて出直してくることになったのです。



「それでも代わりに例のロールケーキ君を紹介してもらえたわけだし、これが空振りでもその時は普通に楽しめばいいだけだからね。ところで今更の疑問なんだけどロールケーキってゴーレムにできるの?」


「俺も作った場に居合わせたわけではないから詳しくは知らんが、聞くところによると『なんか、できちゃった』だそうだ」


「『なんか』ね。やれやれ、これだから感覚派の天才は」


『まあまあ、おかげでこうして助かってもいるわけですし』



 存在自体に幾つも疑問符が付くような胡乱な存在なれど、件のロールケーキの根幹にあるのはゴーレム技術。ステラの思考能力も元はゴーレムを動かすための術式です。本菓ほんにんに詳しく話を聞けば応用が利く可能性は十分にあるでしょう。


 レンリ、シモンと流星剣、そして剣視点からの意見を得るためのアドバイザーとしてゴゴ。三人と一振りは他のメンバーと一旦別れて、お菓子の国の探検に乗り出しました。





 ◆◆◆






 もう一方の面々も目の前のメルヘンチックな光景に興味津々。

 色鮮やかなキャンディの実が生る森の散策だとか、シュワシュワと湧き出すサイダーの泉で水遊び、一口サイズのプチシューが無数に積み上がったクロカンブッシュ山での登山など、選択肢はそれこそ無数にあります。


 十数年前に開業した時点ではもっと小規模だったのですが、年々少しずつ面積を大きくしていったり、常連を飽きさせないための工夫を繰り返しているうちに、いつの間にか小さめの国ほどの規模になっていたのです。とても一日や二日で回り切れるボリュームではありません。



『まま! おかし、いっぱい!』


「そ、そうだね……お菓子、いっぱい……だね……」



 ルカももちろんお菓子は嫌いではありません。

 むしろ好物と言ってよいでしょう。

 本当なら皆と一緒にはしゃいで楽しみたい気持ちでいっぱいです。



「が、我慢……我慢、しなきゃ……」



 しかし、ここで一度でも気を緩めてしまえば、ここまでの節制は台無し。

 お腹周りのお肉がどうなってしまうのか想像に難くありません。


 今日だけだから。

 明日からまた頑張ればいい。

 たまには自分を許してやるのも大事。


 そんな都合の良い言い訳ばかりが無限に湧いてきますが、そこで誘惑に乗ってしまったが最後、明日も明後日もその先も、きっと同じような言い訳を何度も繰り返してしまうに違いない。


 ルカの理性はそのように訴えています。

 恐らくは、きっと間違いなく、その予感は正しいのでしょう。


 右を見ても左を見てもカロリーの山。

 視界の中に脂質と糖質が含まれていない部分のほうが少ないくらい。

 景色を眺めたり呼吸をするだけでも太ってしまいそうに思えるこの場所で、果たしてルカは己の中の欲望に打ち勝つことができるのでしょうか?



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― 新着の感想 ―
[良い点] 悪魔的な誘惑な高カロリー菓子の山 [気になる点] 即食べ2コマ墜ちもいいのよ? [一言] 痩せたくないが食べたい しかし増えるのは嫌 どうせ、我慢しても無駄だよ、どうせ、みんな増えていく…
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