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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十四章『神様旅行記』

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余興:腕相撲世界一決定戦


 出席者の頭にもほどよくアルコールが回ってきたおかげか、パーティーの盛り上がりもいよいよ最高潮。中でも大ホールの一画に特に盛り上がっている場所がありました。



『あっはっは、我に勝てる人はいないのかしら!』


「強ぇー! チビッ子つえー!?」



 食器やら何やらをどかして長テーブルの一つを空け、そこで突発的な腕相撲大会が開かれていたのです。武術大会には年齢制限で参加できなかったウル達も、その鬱憤を晴らすかのような勢いで大柄な騎士や格闘家を倒しまくっていました。


 最初のうちは「大人がわざと小さい子に勝ちを譲ってあげている」かのように見られていましたが、負けた大人達の悔しがりようや、それが一人ならず何人も続くうちに雰囲気が変わってきました。迷宮達の素性を知らないパーティーの参加者もウル達が只者ではないと気付いたのでしょう。



「ん。勝負」


『次はライムお姉さんね! これは面白くなりそうなの!』



 辞退の判断そのものに後悔はないにせよ、武術大会に参加できなかったフラストレーションを抱えているのはライムも同様。それを抜きにしても、強敵と競い合える機会をみすみす見逃す彼女ではありません。

 傍目には小柄な少女ともっと小さな幼女が微笑ましく腕相撲に興じているように見えますが、その実態は大怪獣同士の決戦にも等しいレベルの高さ。武術大会の本番にも見劣りしない大一番です。



「いつでも」


『それじゃあ……せぇ、のっ!』



 瞬間、大木が引き裂けるような異音が響き渡りました。

 「ような」というか、実際に壊れているのですけれど。

 当然といえば当然ですが、二人が肘をついていた長テーブルが負荷に耐え切れずに、一瞬で砕けてしまったようです。お城で使われているだけあって、熟練の職人が厳選された木材を加工した良いテーブルだったのですが、残念ながら大怪獣二頭が暴れるリングとしての使用までは想定していなかったのでしょう。


 まあ壊れてしまった物は仕方がない。

 テーブルは帰る前にネムにでも直してもらうとして、このままでは腕相撲の続きができません。すっかりヤる気になっている二人も、好物のエサを前に「待て」と命じられた犬のような顔をしています。



『あ~……じゃあ、これならどうでしょう?』



 壊れたテーブルの代わりにと、ゴゴが用意してくれた腕相撲の専用台。

 ゴゴが自前の能力で生み出した金属塊の形を整えて、少量ですが神力までも練り込んで、ただただ壊れにくいだけの台を創ってくれました。信仰心の無駄遣いにも程があります。



「ん。丈夫」


『我が思いっきり殴ってもビクともしないの。これなら大丈夫ね!』



 流石に神力が含まれているだけあってか、ライムとウルがゴンゴン叩いても歪み一つありません。これなら勝負にも耐えるでしょう。


 というわけで。



「ん」


『うん。それじゃ……いっせぇの、せっ!』



 今度は台が砕けることもなく勝負が成立しています。

 現在の戦況はほぼ互角。

 両者の組んだ手は時折どちらかに小さく傾くものの、すぐに引き戻されてしまいます。ほぼほぼ互角といったところでしょうか。



「……ん!」


『む、むむむ!』



 魔力による筋骨の強化もどんどんと激しさを増し、二人を中心に大ホール内に魔力行使の余波による暴風が吹き荒れそうになりました。周りの皆が慌てて料理や割れ物を避難させたり、風を操れる魔法使いが気を利かせて影響を抑え込んでくれなかったら、これまた城の一画が吹き飛ぶ事態にまで発展していたかもしれません。



 さて、そんな熱戦を制したのは……。



『む、むむ……やー、なの!』



 数分にも及ぶ激闘に勝利したのはウル。



「むぅ……おめでと」


『ふぅ、危ないとこだったの……勝負の途中で腕の中身を造り変えたおかげね』



 単純なパワーというよりは、アイデアの勝利でしょうか。

 ウルは勝負をしながら自らの腕の中身を、体重比では生物界でも屈指の怪力を誇るアリ科の昆虫を模した組成に造り変えていたのです。そこまでしても圧勝とは言えない、ギリギリの好勝負でした。



『ふっふっふ、さあ我に挑んでくる人はいないかしら? いないなら我がチャンピオンってことね!』


『あ、それならモモがやってみるのです。ちょっと試してみたいことがありまして』


『モモ? うん、お姉ちゃんが胸を貸してあげるの!』



 次に対戦者として手を挙げたのはモモ。現チャンプのウルとしては、ここで二連勝を決めて勢いを付けたいところです……が。



『ぎゃー、なの!?』


『うふふ、これでモモがチャンピオンなのです……チャンピオンって語感がなんだかチャンポンに似てますね?』



 意外にも接戦にすらならずモモの圧勝。

 その秘訣はやはり『強化』と、組んだ右腕に自身の髪の毛を巻き付けた点にあるようです。一本一本を独立して動かせる髪を腕に巻いたことで、いわゆるパワードスーツのように腕力の補助としたのでしょう。片腕だけでなく他の四肢にも巻き付ければ、新たな戦闘法への応用もできるかもしれません。



「へえ、小せぇのにやるもんだ! よう、ピンクのおチビちゃんよ、俺とも一戦付き合ってもらえねぇかい?」


『はい? モモは試したかったことが試せたからもう勝負とかどうでもいいのですけど……まあ、別に断る理由もないですかね』



 そうしてウルを倒して新チャンプとなったモモに、今度はガルドが挑んできました。体格差が大きいので手を組むだけで一苦労ですが、ゴゴが台を変形させて勾配を設けることでどうにか解決。

 武術大会を見物していたモモはもちろんガルドの実力を知っていますが、戦闘ならともかく単純な力比べで負けるとはまるで思っていませんでした。先の一戦でウルに圧勝しているのだから、あながち自惚れとも言えないでしょう。むしろ、どうやって相手に怪我をさせず穏当に終わらせるかにばかり意識が向いていたのですが……。



『ぎゃー、なのです!? 何ですか今の! モモの力が吸われて跳ね返されたのですよ!?』


「ははっ! いやぁ、おチビちゃんが思ったよりやるもんだから、ついつい技を使っちまったぜ」



 なんと勝負はガルドの圧勝。

 単純なパワーではモモが大きく上回っていたのですが、なんと流転法によって力の流れを操り、彼女が力を込めるほどに自らの利となるようにしたのです。先日の決勝戦を経て一段と技のキレが増しているのでしょう。



「おっ、今のチャンピオンはガルドの大将かい?」


「おう、ガルの旦那か! よっしゃ、来い来い!」



 次に新チャンピオンのガルドに挑むのは巨人ガルガリオン。身長それぞれ二メートルと三メートルの二人が並ぶと、周囲へ与える威圧感が凄まじいことになっています。



「せぇの」


「せっ!」



 意外や、今度は両者譲らぬ互角の勝負。

 ガルドの流転法は相手の力をそのまま跳ね返せる恐るべき技法ですが、見た目に寄らず技巧派のガルガリオン相手では、さっきのモモ戦のように一方的に力を操るというわけにはいかないようです。


 技術ではガルドが上ですが、腕力ならガルガリオンが優勢。ガルガルコンビの戦いはどちらも譲らず、実に三分以上にも渡って続きました。



「しゃあっ! 勝った!」



 激闘を制したのはガルガリオン。

 魔王軍四天王の面目躍如といったところでしょうか。


 またもチャンピオンが入れ替わったわけですが、あれほどの戦いを見せられては新たに挑戦してくるチャレンジャーなどそうはいません。このままガルガリオン勝利のままお開きになる……かと思いきや。



『ルカお姉さん、こっちこっち!』


「え、えっ? ウルちゃん……どうした、の?」



 早々に敗退したウルが、ルカの手を引っ張って連れてきたではありませんか。

 腕相撲に興味がなかったルカは、ルグと交代しながらアイの相手をしたり様々な料理を味わったり、のんびりとパーティーを楽しんでいたので、ここまでの流れを把握していないようです。



『さあ、大っきいオジさん! 今度はルカお姉さんが挑戦するのよ!』


「うん、その嬢ちゃんが? いや、まあ、俺は構わねぇけどよ……」


「あの……お手柔らかに……」



 ウルに強引に連れて来られたルカは、一見すると勝負事にはまるで縁がなさそうな弱々しい雰囲気。彼女のことを何も知らないガルガリオンは戸惑っていましたが、チャンピオンならば挑戦を受けないわけにもいきません。

 いっそ、わざと苦戦を演じて花を持たせてやろうか……などと考えていられた時間は、そう長くありませんでした。



「え、えいっ」


「うおぉぉ!?」



 決着は一瞬。ルカが腕を傾けると、怪力自慢の巨人が何の抵抗もできずに押し込まれてしまいました。



「ははっ、優しいじゃねぇか旦那」


「いや、違ぇんだって!? 嬢ちゃん、もう一回! もう一回いいか?」



 あまりに意外だったためか、様々な強者を見てきたガルドですら、ガルガリオンがわざと負けてあげたように見えたようです。しかし実際に手合わせしたガルガリオンとしては男の沽券に関わる大問題。慌ててルカに再戦を申し込みました。



「えいっ」


「ぐぉおおお!?」



 しかし、結果は相変わらず。

 ここでようやく周囲もルカの実力に気付いたようです。



「えいっ」


「うおっ!?」



 続いて挑んだガルドも完敗。

 流転法で対応可能なパワーの上限を大きく超えていたのでしょう。



「えいっ」


「えいっ」


「えいっ」



 ライムやモモや、遅れて合流したシモンも挑んでみましたが、誰も勝負にすらなりません。自らの力を完全に制御できるようになったルカの怪力、正確には『星を掴む』力はその名の通り巨大な恒星ですら軽々と動かせる破格の能力。

 戦闘となるとまた話は変わってくるにしても、単純な力比べで対抗できる可能性があるのは魔王くらいのものでしょう。まさに神話的としか形容できない圧倒的なパワーです。



『ふっふっふ、我の見る目に間違いはなかったのよ! ルカお姉さん、我の代理ご苦労さまなの!』


「えと……ど、どういたしまして?」



 何故か勝ち誇るウルと、未だに状況を把握できずに戸惑うルカ。

 こうしてルカの名はその偉業と共にG国の歴史に永遠に刻まれ……たりは別にしませんが、一部の面々に強烈な敗北感とトラウマを植え付け、それを払拭するための奮起と努力を促す結果となったのでした。めでたし、めでたし。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ルカ〉ようじょ強い〉お前のようなようじょがいるか と突っ込まれる。ような縮図 あとはルカのあがり症を改善しないと。とりあえず地球のコミケに連れて行けば何とかなるかも? シモン行きなれてる …
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