わくわくゴリランド
突如として予選会場に現れたゴリラらしき生物の群れ。
それを目の当たりにした選手達の反応は様々です。
「なんだ、ゴリラか」
「な、めっちゃゴリラだよ」
「うんうん、すごくゴリラだなぁ」
膨れ上がった筋肉で防具の大半は内側から弾け飛んでいるものの、まだ一応は腰回りにぼろ切れと化した布を巻いているのですが、まだまだ実物を見る機会の少ない珍しい動物であるゴリラの実物を見たことのある者はおらず、伝聞で知った知識から近衛騎士団一同を本物のゴリラと認識している様子。
「意外と都会近くの森にも住んでるんだなぁ」
「大丈夫? 噛みついたりしないかなぁ」
「へへっ、こっちから刺激しなきゃ平気だって。前に本で読んだんだけど、ゴリラは近寄ってきた小鳥や小動物を撫でて可愛がるくらい心優しい動物なんだぜ。まあ、力が強すぎて撫でるつもりがうっかり握りつぶして悲しむこともあるらしいけど」
「あはは、後半の情報で安心感が吹き飛んだんだけど。おっと、こっちに気付いたみたいだぞ?」
「よし、刺激せずにゆっくり離れるぞ。大丈夫、さっきも言ったように本来は心優しい動物だから、こっちからちょっかいかけなきゃ平気なはず……」
ゴリラ豆知識を披露していた選手を含む一団に、ゴリラ騎士団の群れがのそのそと近付いていきました。これが本物のゴリラであったなら、たしかに彼らの対応は間違っていなかったかもしれません。
「……ニ、ゲ……ス」
「あれ、鳴き声かな? ゴリラってどんな風に鳴くんだろ?」
「ニンゲン……コロス……」
「ニンゲン、タチサレ……」
「ヒトリモ……ニガスナ……」
「「「うわぁ、めっちゃ狂暴!?」」」
次の瞬間、鍛えられた武術家でも反応できない速度でゴリラの群れが突進してきました。どういう原理なのか魔法の影響で太く長くなった両腕と足での四つ足で、縮地法めいた無駄に高度な技を使用したようです。
結果、圧倒的なゴリラパワーに撥ね飛ばされた選手達は、抵抗すら許されず大きく吹っ飛び意識を失っていきました。野生動物との接触に油断は禁物。こうすれば大丈夫だろうという思い込みが大事故を招くことになるのです。まあ、そもそも野生動物ではないという点は置いておくとして。
「団長、あいつらこっち見てますよ!?」
「今の動きを見た感じ、相当やるな。何か連中の注意を逸らすような……おい、誰かバナナ持ってないか?」
「バナナ、バナナ……はい、パンツの中に自前のが一本あります!」
「よーし、お前ちょっと行って毟り取られてこい!」
ゴリラ達の正体を知らない学都騎士団の面々は、いきなり現れた謎の強敵に思い思いの反応をしています。おふざけが混じっているのも、そうすることで緊張を解そうという気遣いなのでしょう。一応。
相手の正体については、参加選手なのか、それともたまたま乱入してきた魔物や野生動物なのか。それすらも判じかねているようです。
「ううむ」
この場で相手の正体に見当が付いているのはシモン一人。
あとは中継で予選の模様を観ている王宮関係者にも気付いている者はいるでしょうが、魔法で投影しているモニターの解像度はそこまで高いものでもありません。一般の観客に正体がバレる恐れはまずないでしょう。
「さて、どうするか」
まず王太子がゴリラになったことは、なんとしても隠し通す必要があります。次期国王の乱心が疑われたら国家が揺らぐ一大事。彼が率いる近衛騎士団についても同様でしょう。
そうなると、先日のようにこの場で魔法を斬って、その効果を即解除というのはよろしくない。最終的にはそうする必要があるとしても、そうするタイミングは慎重に選ばねばなりません。具体的には、魔法による中継をなんらかのアクシデントで中断せざるを得ないような状況を狙うのが得策です。
ところで、シモンにも分からないのは何故またゴリラが再発してしまったのか。一度は魔法効果を斬って元に戻したのは間違いありません。その後の受け答えも特に後遺症などはなさそうな様子でした。
シモンの思い浮かべた考えは、彼にも感知できない魔法の一部が体内の奥深くに残留していて、それが時限爆弾のように時をおいて発動してしまった可能性。確実に影響を除去しきった手応えはあったつもりでしたが、現にこうして再発してしまっているのですから申し開きのしようもない。せめて事態を穏便に収めた上で、改めて彼らと兄王に丁重に謝ろう……などと、一瞬のうちに考えていました。
実際のところはシモンの懸念はまったくの的外れ。
ゴリラが再発した原因はまったく別のところにあったのですが。
「……と、悠長に考え事をしている場合ではなかったな。総員、縦列陣形! 来るぞ!」
シモンがその答えを知るのはもう少しだけ後。それよりも先に、四つ足での縮地法を駆使するゴリラの群れが、異常な速度で突進してきました。
なろうの新UIはまだ慣れないですね
これでちゃんと最新話として投稿されてるのかどうか




