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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十四章『神様旅行記』

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おいでよ因習の村


 ルグの故郷で様々な伝統料理(諸説あり)によるもてなしを受けた翌日のことです。レンリ達は案内役を買って出た村長氏に連れられて、村のあちこちを散策していました。

 元々はルグが案内する予定だったのですが、昨年までの面影がなさすぎて地元民なのに一緒に案内される立場になっています。


 さて、最初に訪れたのは村外れにある苔むして古びた“ように見える”祠。ちょっとした物置小屋くらいの大きさで、三人も入ればそれで一杯という狭さ。如何にも頑丈そうな鉄扉が付いている割に施錠はされておらず、誰でも簡単に入ることができるようになっています。



「お前ら、あの祠に入ったんか!? え、えらいことじゃ!」


「いやいや、村長さん。自分で入ってみろって言ったんじゃん……で、これ結局何が面白いんだよ?」


「ルー坊や、都会に出とるくせに意外とモノを知らんのぅ。前に王都あたりで怪談話が流行った時に、ここみたいな田舎のこんな感じの祠で若い者が悪さしてエラい目に遭う筋書きが流行ったそうでな。いわゆる『体験型あとらくしょん』ちゅうやつじゃな。意外と好評じゃぞ?」



 ちなみに古びて見えるのは外見だけで、祠は建てられてから半年も経っていませんし、もちろん何かが封印されていたりもしません。苔むしているように見えるのも、近くでよく見れば緑色の塗料でそれっぽく塗っているだけと分かるでしょう。



「さ、お次は勇者記念館じゃ。ウチの村に勇者様がお越しになったことがあるのは真実マジじゃからの。その時の様子を紙芝居にして上演したりもしとるぞ。今から行けばちょうど午前の回が始まる時間に間に合うじゃろ」



 お次に訪れたのは村内でも宿屋と並んで特に大きくて目立つ、その名も勇者記念館。村長氏も念押ししたように、この村はかつて強大な魔物に襲われそうになったところをかの勇者リサに助けられたことがあるのです。


 その感謝を忘れないようにとの名目で記念館を建設し、当時の記録を語り伝えていこうという主旨を聞くと、まさにその時助けられた当人であるルグも否やとは言えません。


 お堅い資料を並べるだけではなく、紙芝居による物語調でかつての出来事を伝えるというのも、親しみやすくて良いアイデアに思えました。


 ◆


“村を襲ったのは百万を超える魔物の軍勢!”


“魔物共の首魁たる多頭竜ヒドラは山をも軽々とまたぐ巨体に五百本の首を持ち、灼熱の火炎を吐きながら空を飛び回る大怪異!”


“……しかし! 最早これまでと諦めかけた村人の前に現れたのが……そう、我らが勇者リサ様!”


“勇者様は背中から純白の翼を生やすと縦横無尽に空を飛び、魔物の軍勢をあっという間に――――”


 ◆



「……いやいやいやいや!」


「なんじゃいルー坊? 今日はお前のお連れさんしかおらんとはいえ、芝居の途中で声を上げるとかマナー違反じゃぞ」


「それは悪かったけどさ……嘘じゃん?」



 かつてリサがこの村を魔物から救ったのは本当のことです。

 しかし、当事者であるルグの記憶とは少々の食い違いがありました。無論、当時からいる村人達もそのあたりの自覚はあるはずですが。



「なんじゃ、そんなことか。紙芝居の最初に“当時の記録を物語として再構成するにあたり、内容に多少の脚色を加えていることをご了承ください”って言ってたじゃろがい」


「言ってたけどさぁ! 『多少』が山くらいデッカいんだけど!?」


「あっはっは、そういう入れ知恵は姉様の仕業だろうね! まあまあ、ルー君や。エンタメと割り切って観るには結構楽しいし、あまり目くじらを立てずとも良いじゃないか」


「うむ、流石は先生の妹さんじゃ。良いことを仰るのぅ。ちなみにさっきの祠には今の話の多頭竜が封印されているという隠し設定がじゃな……!」



 実際、たかが紙芝居と侮るなかれ。

 絵と脚本はレンリの姉が手配したプロの手によるものなので、読み上げるのが村の老人とはいえかなりの緊迫感がありました。普段からリサ本人と交流があるウルやヒナも手に汗を握って紙芝居の中のリサを応援していたくらいです。特に終盤で虹色に輝くファイナルフォームに変身して逆転したあたりでは、思わず歓声まで上げていました。



「“こうして村に平和が戻り、勇者リサ様は再び旅立たれていかれましたとさ。めでたし、めでたし”……はい、おしまい! お嬢ちゃん達、今のお話が気に入ったんならここの売店で手頃な大きさの絵草紙にまとめたやつも売ってるからね。勇者様の絵が入ったペナントやキーホルダーもあるよ」


『うおお、それは絶対見逃せないの! 全部コンプしてやるのよ!』


『ファイナルフォーム、カッコよかった……リサ様に今度見せてもら、いやいや、アレはお話だし! ……でも、リサ様なら本当にできそうな気もするわね?』


『何してるの、早くヒナも一緒に行くのよ!』


『あ、待ってウルお姉ちゃん』



 特に紙芝居にのめり込んでいたウルとヒナは、まんまと販売戦略に乗って売店へ。きっと盛大にお小遣いを吐き出すことになるでしょう。ヒナに関しては後日リサ本人にお話通りの変身ができないか尋ねて困らせたりもしそうです。




 ◆◆◆




 その後は昨日に引き続き考案されて間もない伝統料理に舌鼓を打ったり、今後オープン予定の古民家風カフェ(新築)に一足早くお邪魔してお茶とケーキを楽しんだり。乗馬や牛の乳しぼり体験など始めたら、また一稼ぎできるのではとレンリやゴゴから村側へと提案したり。存分に村での一日を満喫しました。


 そしてもう一泊した翌朝。これからすぐに村を発って、今日中には一旦学都まで戻らねばなりません。



「ふふ、ルー君の故郷はなかなか良い所だったじゃないか。キミも久々に故郷の空気を吸ってリラックスできたんじゃないかい?」


「……ああ、うん、そうだな」


「ルグくん……げ、元気、だして?」



 記憶の中の故郷は今や遠く。

 果たして次に帰る時にはどんな風になっているのやら。今まさに帰郷しているというのに、不思議と望郷の念を強めるルグなのでありました。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ノリノリでリサの逸話を増やしていそうな村 今ごろ本人は花粉症並みにくしゃみしていそう いいぞもっと発展しろ [気になる点] コスモスも何枚か噛ませたら更にリサが赤面しそうな事案になりそう …
[一言] 魔物百万程度は誤差の範囲内な気もする。
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