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学都観光


「ところで、街で遊ぶって言っても色々あるけど、何か希望はあるかい?」


 ウルの希望で学都アカデミア観光に付き合うことになったレンリとルカ。

 特に明確なプランがあるワケではないので、レンリは同行の二人に希望を尋ねました。

 


「わたし、は……べつに……」


『お洋服! 可愛い服を見に行きたいの!』



 ルカは今のところ特に希望はなし。

 ウルは服屋に行きたいということでした。


 

「そりゃ構わないけど、キミ、わざわざ買う必要ないだろう?」



 レンリとしても強く反対する気はありませんが、ウルに服を買う必要があるか疑問があるようです。お金を持っていないウルの買い物費用はレンリが負担することになりますし、本業の魔剣製作で稼いだお金があるといっても、進んで無駄遣いをしたいわけではありません。


 ウルが現在着ているワンピースや昨晩のパジャマも、彼女自身の肉体を変形させて造り上げた物ですし、あえて服屋に行く必要は薄そうに思えましたが、



『ちっちっち。別に買う必要はなくて、見るだけでいいのよ。お店で見てデザインを覚えておけば好きに再現できるでしょ?』



 ウルが服屋に行きたいと言うのは、服そのものが欲しいのではなく、色々なデザインを見て覚えることが目的のようです。この世界では未だそういう用途の書籍は少ないのですが、しいて言えばファッション雑誌を見るようなものでしょうか。


 デザインさえ覚えておけば、後でいくらでも自身の身体や迷宮の一部を変形させて再現できますし、細かなアレンジも自由自在。

 実際に買うわけではないので、金銭面でも安上がりです。

 お店側としてはなんとも困った話でしょうけれど。


 ともあれ、お金もかからなさそうですし、ならば反対する理由もありません。



「じゃ、とりあえず南街のあたりをブラブラ回ってみようか。ここからなら歩きでも行けるし」



 学都の南東方面にあるマールス邸から南街の商業区は目と鼻の先。歩きでも十分そこそこの距離ですし、あえて乗合馬車オムニバスを使うまでもありません。


 三人は手始めに、若い女性や子供向けの衣料品やアクセサリを扱う店が並ぶ商業区の大通りを目指すことにしました。




『ねえ、あのお店はなにかしら?』


「あれは飴売りの屋台だね」


『じゃあ、あっちの人は?』


「あれは新聞の売り子だよ」



 普段は迷宮の中から出てこないウルは――――正確には出る必要性を感じない、遊びのない性格の姿であることが多い――――街の様子が物珍しいようで、気になるモノを見つけては質問しています。

 本体である迷宮から半分独立した化身としてのウルの人格は、その時々の容姿に強く影響を受けます。動物型の時はそこまで個性を発揮しないのですが、現在のような人型、それも子供の姿だと好奇心や無邪気な部分が強調される形になります。


 今も道すがら購入した棒付き飴を舐めながら、あれやこれやと指を差して質問していました。知識としては知っていても、実際に自分で街を歩いた経験が乏しいが為に、こんな風にはしゃいでいるのでしょう。



『ねえねえ、あの大きな建物はなぁに?』



 色々な店屋を眺めながらのんびり歩んでいると、進行方向に一際大きな建物が見えてきました。高さは冒険者ギルドや騎士団本部と同じくらいですが、面積はそれらよりも一回り以上は広く、華やかで楽しげな雰囲気が印象的です。

 三人と同様に興味を持って足を止めている通行人も少なからずいました。



「ああ、あれは最近出来たっていう劇場だね。まだ私も行ったことはないけれど」


「劇場……なにか、やってる……かな?」


「おや、ルカ君は劇場に興味があるのかな?」


「う、うん。劇とか見るの、好き」



 珍しいことに、ルカがはっきり迷わずに自分の意を示しました。

 先代当主である父親が亡くなってからはご無沙汰ですが、ルカはこういう舞台見物を好んでいました。数少ない趣味といってもいいでしょう。

 必然的に他の観客に囲まれるのは落ち着きませんが、舞台が始まってしまえば話しかけられることもありませんし、何より物語に没入する感覚が好きなのです。



「どれどれ、上演のスケジュールが掲示板に書いてあるね……ええと、『首都音楽団オーケストラ公演』に『王立劇団の“市壁の告白”定期公演』、『炎天一座の歌姫、秋頃に来訪決定。チケット予約開始』……だってさ」


「わぁ…………!」


 レンリが上演スケジュールを読み上げると、ルカは一層目を輝かせました。

 まあ、前髪で隠れているので目は見えませんが、強く興味を持っている様子なのは傍から見ても明らか。もう知り合って三ヶ月くらいになりますが、これだけテンションを上げているルカを見るのはレンリにとっても初めてのことでした。


 そんな様子が珍しいやら微笑ましいやらで。



「よかったら、今度一緒に行くかい?」


「う、うん……行く……!」


『仕方ないの。その時は我も付き合ってあげるの。あ、でも今日はダメなのよ』


「うん……ウルちゃんも、今度一緒に、行こう……ね」



 そんな約束をして、今日のところはそのまま劇場前を離れました。







 ◆◆◆







『可愛いお洋服がいっぱいあって楽しかったの!』


 午前中は予定通りに南街の衣料品店ブティックをいくつも巡り、ウルはすっかりご満悦。

 何百着ものデザインを覚えたので、今度からは自由に再現できます。



「よくそんなに覚えてられるね。私も記憶力はいいほうだけど、とてもそんなには覚えきれないよ」


『うん! えっとね、くらうど化……? とかいうので覚えてるの』



 なんでも、独立して活動する各化身が得た情報はリンクしている本体の迷宮ウルに蓄積・統合され、必要に応じて自由にデータを引き出せるのだとか。




「ふぅ、結構買っちゃったね」


「わたしの、も……よかった……の?」


「なに、荷物持ちをして貰ってるしお互い様さ」



 レンリは気に入った服を購入し、ルカにも半ば強引に見繕った服をオゴっていました。

 ルカは高価なオゴりに恐縮していますが、対価として二人分の荷物持ちをしているので、きちんとギブアンドテイクが成立しています。



「さて、それじゃ少し早いけどお昼を食べに行こうか。ちょっと離れてるけど、叔父さまオススメのパン屋が西の職人街にあってね。そこのハムサンドイッチが絶品らしいのだよ」


『……じゅるり』


「……ごくり」



 どうやら昼食の決定に異論はなさそうです。

 多少距離があるので今度は乗合馬車を使い、三人は学都西側の職人街へと向かいました。



◆今回の小ネタ

劇場の公演スケジュールの後ろ二つ

①前作の本編最終章における、某王子様の黒歴史を元にした舞台演劇。肖像権などない。

なお、暴力要素はないので小さいお子様でも安心。モデルの意に反して繰り返し上演される人気作になっている模様。

②空飛ぶ自家用劇場艇で人間界を飛び回っているうちに、なんか人気が出て忙しくなってしまった某四天王。時折、気が合った仲間を加えながら各地で公演を繰り返している模様。


そのうち本編で回収するかもしれませんし、しないかもしれません。

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