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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十三・五章『迷宮武者修行 ~Extra Round~』

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Round6 ~芸能界ダークネス~


 日本国、都内某所の撮影スタジオにて。

 本日はここでジュニア向けファッション誌の撮影が行われていました。



「ふふふ、グッドですヨミ様。実にお可愛らしい」


『称賛。歓迎。おや、それは何よりだね。たまには着慣れない服に挑戦してみるのも悪くない』



 その撮影モデルとなっているのは、なんとヨミ。

 普段は黒メインのゴスロリ服を好んでいる彼女ですが、今日は明るい色のワンピースやブラウスにスカートなど、珍しい格好をあれこれと披露しています。



「いやはや助かりました。私の会社が元々お願いしていたジュニアモデルのお子様が急に熱を出してしまいまして」


『安価。御用。お安い御用だよ、コスモスさん。でも、なんで我だけなのかな? アイはともかく写真を撮るなら我の姉さん達でも良さそうなものだけど』


「ああ、簡単な理由です。この撮影は日本の雑誌に載せて日本人の読者に見せることを主に想定しているわけですな。皆様の写真を見せたところ、他の姉妹様方では少しばかり髪色がカラフルすぎると編集部から注文がありまして」


『得心。納得。なるほどね』



 コスモスが何故当然のようにファッション雑誌の会社を経営しているのかについては、今更深く気にすることでもないでしょう。いつもの趣味の一環です。彼女が国内外で、否、いくつの世界でどれくらいの組織を運営しているのかは最早本人にしか分かりません。


 そしてヨミを臨時モデルに選んだ理由は、その髪色。

 単純な容姿ついては迷宮の姉妹達は皆整った顔形をしていますが、緑や水色やピンクなど日本人向けの雑誌にモデルとして掲載するには少しばかり髪の色が派手すぎます。もちろん日本人にも派手な色に染めた人がいないわけではないですが、ジュニア向け雑誌の読者層を想定するとそう多くはないはずです。


 その点、元より綺麗な黒髪を持つヨミならば、日本人読者が同じようなファッションを身に纏った場合のイメージと近いものとなるでしょう。ちょっと表情が硬くなりがちなのは難点ですが、そこはヨミも空気を読んで現場のプロの指示に極力従うよう善処していました。



「いいね、ヨミちゃん。もうちょっと目線を左に寄せられる?」


『指示。了解。これでいいかい?』


「オーケー、このまま何枚か撮ってこうか」



 コスモス以外の現場スタッフは、ヨミがまさか異世界の亜神だとは夢にも思っていません。ただビジュアル的には文句の付けようもない上に、初めての現場だというのにプレッシャーでガチガチに緊張する様子も皆無。

 ワガママを言って周囲を困らせることもなく、専門家の指示に素直に従ってくれる。これまで数々のモデルを相手に仕事をしてきた歴戦のスタッフ達からも、短い時間ですっかり気に入られていました。



「ヨミ様、いっそ臨時のピンチヒッターではなく本格的にやりませんか? スタッフの皆様もそうだそうだと言っておりますが」


『光栄。困惑。正直悪い気はしないけど、流石にすぐ返答はしかねるかな。スケジュール……は、問題ないけど』



 迷宮達は亜神となった際に、それまでのように化身を出せる数の限界に縛られなくなっています。元から数が多かったウルほどはまだ無理ですが、ヨミも現状で百人くらいにはなれるようになっていますし、その数的限界も神力の増加とそれを扱う技術の向上によって日々どんどん増えていっています。そのうちの一人をこうした仕事に就かせるだけなら、スケジュール面での制約など存在しないも同然です。


 

『返答。保留。ええと、ひとまず持ち帰って検討するという方向でもいいかな?』


「ええ、もちろん。良いお返事をお待ちしております」






 ◆◆◆





 そして数週間後。

 先日の写真が掲載された雑誌が発売されました。

 コスモスや撮影スタッフの見込んだ通りにモデルとしてのヨミの評判は上々で、SNSの編集部アカウントには好意的な感想が多数寄せられていました。本物の神ゆえのカリスマ性(厳密には「神懸かり的」ではなくそのものなわけですが)が誌面越しに伝わっていたのかもしれません。


 が、本題はここからです。

 雑誌の発売日以降、ヨミの神力ははっきりそうと分かるほど増大していました。他の姉妹と協力して同時並行的にいくつもの世界を救ってその土地での知名度を得たり、コスモスが取引をまとめた神々から支払われている神力も入ってきていますが、それらに勝るとも劣りません。



『流入。疑問。銀行口座に身に覚えのない大金が振り込まれてたみたいな感じ? 嬉しいよりも怖いんだけど』


「いえいえ、何も不思議なことなどないでしょう?」



 いくら強くなったとはいえ原因不明では困惑が勝ります。

 しかし、コスモスにはヨミの神力が増大した原因が分かるようで。



「まず、あの雑誌ですが元の発行部数が二十万部ほど。今号は売れ行き好調だったのを加味して例外的に追加で五万部ほど増刷しております」



 当然刷った雑誌が一冊残らず売れるわけはない、また買った全員がヨミの載ったページに目を通したとも限りませんが、ここは単純に日本全国で二十五万人分の知名度をヨミが得たと仮定します。



「そこに実際に本を買ってはいないですが、友達や家族が買ったモノを読んだとか、誌面の一部を撮ってSNSに載せたのを見た人数も加えます。まあ、お行儀的なことは置いておくとして」



 このあたりの人数を正確に把握するのは困難ですが、何らかの形でヨミの姿を目にした人間の数を、少なめに見積もって発行部数の倍の五十万人としておきましょう。実際にはもっと多いかもしれません。

 これが普通の人間のモデルであれば、目にしたところで大して気にも留めない人が大半でしょう。ですが、なにしろ今のヨミは本物の神なのです。直接対面した時ほどの影響はなくとも、その姿が何故か気にかかる、くらいの反応をした者はかなりの割合いたのではないでしょうか。



「そうした一人一人の思い入れは宗教に熱心な方々の信仰に比べると弱いものでしょうが、なにしろ人数が人数ですので。積もり積もってかなりのパワーになったのではないかと」


『納得。困惑。なるほど……』



 ちなみにヨミ達の世界(じもと)の総人口は、現在二億人を突破した程度。これはヒト種だけでなくエルフやドワーフ、多種多様な妖精種など含めての総数です。

 文明レベルを考えると同等の文明だった頃の地球よりだいぶ控えめな数字ですが、これは恐らく魔物の存在によって人類の生存圏が制限されざるを得ないためでしょう。


 その二億人のうちヨミや姉妹達の知名度がどの程度かというと、単に知っているというだけなら一千万に届くかどうか。明確に信仰心を抱いているとなると百万を割るはずです。

 活動期間の短さを考えると驚異的な伸び率ですが、やはり通信や交通面での制約が大きいせいで広まりが緩やかにならざるを得ないのです。また既存の女神信仰との兼ね合いを呑み込めていない人も相当数いるものと思われます。



「そちらについては時間が解決するのでしょうが。やはり高度な情報インフラの活用こそが信仰を伸ばすカギと見ました。ヨミ様、やり方はお教えしますのでSNSとかやってみませんか? 動画配信にご興味は? 先日のようなモデルも良いですが、いっそ美しすぎる幼女としてアイドルデビューして芸能界に殴り込むのはどうでしょう? 神様が偶像(アイドル)をやるというのも一興では。さあさあさあ如何ですか?」



 知名度を伸ばすには既存の情報インフラ、それも高度に発達したものを活用するのが近道。コスモスの言うことは決して間違ってはいないのでしょう。地元で人口が増えるのを地道に待つよりも、すでにいる地球人口七十億人超を活用する方向でいくのが効率的なのも間違いありません。


 が、今回はコスモスにしては珍しく失敗してしまったようです。

 具体的には、いくらなんでも「圧」が強すぎました。



「ふふふ、よいではないかよいではないか! ほら、何も怖くありませんからこの書類にサインしましょうね?」


『う……やだ、何か怖い……ぐす』



 モデルだけならヨミとしても迷いつつも悪い気はしなかったのですが、一度にあれもこれもと押し付けられそうになって混乱。久しぶりに泣き虫の気が騒ぎ出してしまったようです。



「誠に申し訳ありませんでした」


『忘却。希望。 ……くすん』



 最終的にコスモスの本気土下座で収まったものの、ヨミが日本の芸能界で華々しくデビューする可能性は残念ながら露と消えてしまったのでした。



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― 新着の感想 ―
[一言] ちょい、今回はコスモスが悪い(;'∀') 後でヨミの好物を当分奢るのが良いですね。
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