Round4 ~わくわくウォーゲーム~
とある世界。
広大な平原を無数の兵が埋め尽くし、無数の矢が空を埋め尽くすような戦場。重厚な鎧兜に身を包んだ戦士達の只中にて……。
『うおお、全員モモがぶっ飛ばしてやるのです!』
モモが元気よく大暴れしていました。
桃色の髪を長く伸ばしてバッサバッサと首を刈り、手近な敵から奪った剣や槍をブンブンと振り回し、時に小さな手足で殴る蹴るといった暴れぶり。その奮戦ぶりに敵味方を問わず喝采が上がります。
もちろん敵も全て神々およびその眷属とあってはモモも無傷とはいきません。突き刺さった矢で背中がハリネズミのようになっていますし、手足や首を落とされたのも一度や二度ではありません。
しかしダメージを負うたびに即座に修復、修復が不可能なほど破損していたら新しい肉体を用意してすぐ復帰。朝から晩までたっぷりと戦闘を楽しんでいました。
『ふはははは! なかなかスジが良いな、娘。ウチの若い神々よりよほど動けるようだ。だが、まだまだ甘い!』
『ふぎゃっ!?』
しかし、今回は少しばかり相手が悪かった。
今のモモよりも遥かに強い闘神に大木のような槍で叩かれると、そのまま地平線の彼方まで吹っ飛ばされて鉄のように硬い岩山に深々とめり込んでしまいました。とっさに衝撃力を『弱化』したものの、相手が速すぎて反応が遅れてしまったようです。
とはいえ、それでも十分に手加減はされていたのですが。
もし闘神が本気ならば今頃は宇宙空間にまで飛び出していたことでしょう。
モモは潰れた肉体を瞬時に回復させると、臆することなく戦場に復帰。早速、今しがたの御礼参りをしようかと張り切っていたのです……が、残念ながら本日はここでタイムアップ。戦場の怒号をもかき消す鐘の音が辺り一面の大気を震わせました。
『おお、もう日暮れの鐘か? では、双方ここまで! 今日も良き戦であった! 差し支えなくば客人も宴に顔を出していくといい』
本日の戦争はこれにて終了。
闘神の号令に従って敵も味方も一斉に武器を収め、彼方に見える大きな館へと足早に向かっていました。斬られようが焼かれようが戦いが終われば恨みっこなしのノーサイド。実にさっぱりしたものです。
ここは日の出から日の入りまで戦いを楽しみ、夜になれば宴で酒と食事を楽しみ、ぐっすり寝て起きたらまた戦いを楽しむ。その繰り返しを無限に繰り返しているバトルマニア垂涎の世界。
一応、神殺しが可能な技や武器の使用は禁止というルールはありますが、それ以外なら全て自由。参加している者が者なだけに大怪我をしたりさせたりする心配も無用。
敵味方という区分も飽きないための工夫のようなもので、戦意や親しみはあれど憎悪や怨恨などはまるでありません。そもそも気分次第で誰がどっちの陣営に就いてもまるで問題などないのです。
『いやぁ、流石ベテランの神様が多いだけあって勉強になるのです』
そんな世界でモモが何をしていたのかというと、しいて言うなら「留学」でしょうか。他のモモも元の学都のある世界や他の異世界にいるので、肉体のうちいくつかを送り込んでいるという形ですが。
今日はいませんが、モモ以外の姉妹達もちょくちょく同じように顔を出しては戦いにきていたりします。
なにしろ相手は何百年も何千年も飽きずに戦い続けている猛者ばかり。特に古参の闘神や戦神、武神などは、純粋な神力だけでなく神力を扱う技術面でも今のモモ達の遥か上をいきます。その戦いぶりを見るだけでも参考にできる点は無数にあるというわけです。
『あの銀髪の姉ちゃんが訪ねて来た時は何事かと思ったけどな。たまにはむさ苦しい野郎共だけじゃあなく、ちっこい嬢ちゃんを鍛えてやるのも面白いもんだ。ほれ、モモ嬢ちゃん。もっと肉喰え、肉。喰わねぇと大きくなれねぇぞ』
『ふはははは、まるで孫に甘い爺のようだぞ戦神よ! うむ、だがまあ確かに悪くない。礼金代わりにと寄越してきた異界の酒も美味であるしな。たしかショウチュウとか言ったか?』
『いやぁ、お世話になっておいて何ですけど、別の世界の神様相手にあっさり交渉をまとめるコスモスさんって何なのです?』
何故だかどこの世界の神様も大抵はお酒好きであるようで、大型トラックで何台分ものお酒を対価にモモ達の留学はあっさり認められました。丁寧に何かを教わるのではなく、実際に殴られたり斬られたりしながら身体で覚える荒っぽい方法ではありますが、実戦的かつ実践的であるだけに覚えも早いようで。
同じ力でもより効率的に使うことで何倍もの効果を得られるのは、筋力でも魔力でも神力でも同じこと。力の総量を増やすのも重要ですが、そればかりではいけません。
小さな力でより大きな成果を。
不足なく、無駄なロスもなく、必要なところに必要なだけの力を。そうした判断を思考を経ず反射的かつ正確にできるようになるのが理想でしょうか。
事実、ここに来てたったの数日で、モモの強さは実質的に倍以上になったと見て間違いないでしょう。もちろん今日はいない他の姉妹達も同様です。他の世界で同時進行中の活動の成果と合わせれば、当初の十倍二十倍くらいには強くなっているかもしれません。
『うーん、モモはこんな勤勉なキャラじゃなかった気がするのですよ? まあ、戦うの楽しいから別にいいのですけど』
勉強もスポーツも楽しんでやるのが上達の早道とはよく言ったもの。モモ達はかつてないほど急速に、本人達にあまり自覚がないままその実力を伸ばしつつありました。




