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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十三・五章『迷宮武者修行 ~Extra Round~』

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Round2 ~営業部コスモス~


 ウル達の世界とは別のとある世界。

 豊富な水と緑に覆われた平和な世界がありました。


 残念ながら過去形ですが。


 今やその世界の多くは毒々しく汚染され、生き残った人々は病魔に苦しむ悲惨な有り様。まさに世界そのものが風前の灯火といった状態です。



『ああ、なんということ。唯一無事だった南大陸にまで、ついに冥腐王ド・グサーレの魔の手が……』



 そんな詰み寸前の世界の上空から、厳密には通常の空間から隔絶された専用の異空間からこの世界を治める女神が悲惨な有り様を眺めていました。いつもの女神と混同しそうでややこしいので仮に女神Bとでも呼称します。もし次に似たようなのが出てくればC、D……と安直に続いていくかもしれません。


 このB、神としては善良な部類ではあるのですが、残念ながら荒事には向かないタイプ。自身の世界に世界征服を企む系の輩が発生しても、直接的に排除することは能力的にできそうもありませんでした。


 ならば、と見込みのある人間の戦士に啓示を与えて戦いに向かわせるも、あえなく敗死。その戦士は今ではゾンビと化して先程Bが言っていた冥腐王何某なにがしの軍団の中で元気にウーウー唸っています。



『このままでは……』



 このままでは遠からずこの世界の人類は滅び、活力源となる信仰を失ったBもほどなくして消滅。神を失い腐り果てた世界は、そのまま冥腐王の天下となることでしょう。



「そんな貴女に朗報です」


『きゃあ、誰っ!? どうやって入ったんです!? 神界ですよ、ここ?』


「ははは、まあまあ細かいことは良いではありませんか」


『細かいですかねぇ!?』



 が、そんな絶体絶命の女神Bの前にどこからともなくコスモスが現れました。この異空間はBしか入れない、認識すらできない専用空間であるはずなのですが、まあコスモスなので問題なく入れるし認識できたようです。



「おっと、申し遅れました。こちらの世界の文字で名刺を作ってきましたので。私、こういう者です」


『あ、これはどうもご丁寧に』



 ちなみに本日のコスモスは珍しく上下黒のビジネススーツ。

 懐から名刺入れを取り出す動作もやけに堂に入っています。



「本日はですね、営業に参りました」


『営業』



 先程渡した名刺にもちゃんと「営業部」と所属が記載してあります。

 営業というからには何かを売り込みに来たということですが、コスモスがどんな商品を売り込んで何を得ようとしているのかと言いますと……。



「まずはご覧になって頂くのが良いでしょう。あちらをご覧下さい」



 コスモスはパチンと指を鳴らすと、遠隔地の様子を視認できるようにする魔法を使用。映し出された光景を目にしたBは声を上げて驚きました。





 ◆◆◆





『なんだかコスモスさんに上手く使われた気がしますけど』


「はっはっは、それでもいいじゃないか! それ、もう一回行くぞゴゴ!」


『ええ、タイミングはそちらに合わせますユーシャ』


 コスモス達がいる神界から遥か下方で、聖剣形態のゴゴを手にしたユーシャが勇者らしく冥腐王の軍勢を蹴散らしていました。

 敵はどうやら病気や怪我で死んだ人間をゾンビ化して自身の味方として使役する厄介な能力を使うようですが、そういった性質持ちの敵は二人にとって手頃なカモでしかありません。

 勇者と聖剣をセット運用するとコンボ効果で強力な浄化の力が働いて、並のアンデッドなど近付いただけで消滅。並ではない強めの個体も触れたら消滅。ついでに毒々しく汚染された大地まで浄化完了……と、こういった状況には最適な人選と言えましょう。



「ゴゴ、次はアレやってみたいぞ! 漫画で見た糸のやつ!」


『普通に剣で斬ったほうが強そうな気はしますけどねぇ。まあ、遊び心は大事ですからね』



 今度は金色の糸となったゴゴが僅か数秒で半径数キロにもなる戦場全域に張り巡らされ、そしてユーシャが指を少し動かすだけで無数のゾンビ兵がバラバラに崩れ落ちてしまいました。


 まさに圧倒的。

 全滅必至の劣勢に立たされていた人間達の軍勢も、突如現れた謎の勇者の戦いぶりを見て戦意を取り戻しつつあるようです。



「おお、奥にいるアイツはちょっと強そうだな?」


『ここの指揮官ですかね? ゾンビと違って活きが良さそうですし』



 そして敵側の軍勢後方に控えていた敵将らしき人物を見つけると、意気揚々とそちらのほうへ駆けて……いく前に。



『ああ、ちょっとストップ。ユーシャ、止まってください、ステイステイ。コスモスさんから連絡がありました。ここから先は営業の結果次第ということになるとかどうとか』



 


 ◆◆◆






 そして再び神界。



『あの圧倒的な力、貴女の世界の勇者ですか? それにこの気配……あの武器は神そのもの? す、凄い! これなら必ずや冥腐王を打ち倒し、この世界を平和に導くこともできるでしょう!』



 ユーシャとゴゴの活躍ぶりに女神Bは大興奮。

 コスモスがそういう世界を選んできたからでもありますが、冥腐王の軍勢との戦力差は明らかです。オマケに倒れた敵がいた大地が浄化され、見るからに毒々しい紫色から正常な地面らしい茶色へと。更には目にも鮮やかな緑色の草原までが蘇りつつあるようです。


 が、しかし。



『……あのぅ、異世界の方?』


「はい、なんでしょうか? 営業のコスモスです」


『コスモスさん、どうしてお二人をお止めに? もうすぐ厄介な敵将スボウュチを討ち取れるところだったと思うのですが。あ、何か大技のために力を溜めてらっしゃるとか? それとも、罠を警戒しているとかですか?』


「いえいえ、ユーシャ様とゴゴ様であれば時間をかけずとも即終わらせることができるでしょうね」



 勝利目前というところでコスモスは二人に「待った」をかけてしまいました。このままでは敵将に逃げられてしまい、軍勢の再編成を許してしまいかねません。なにしろ敵は死体さえあれば無限に軍団を増やせるのです。時間さえあれば人間だけでなく野生の動物や植物にまで対象を広げ、今回以上の大軍団を幾度でも送り出してくるでしょう。



「では、そろそろビジネスのお話と参りましょう。あちらのお二人、更には同等の戦力を有した我が社のスタッフを派遣するために、御社はどれだけの対価をお支払いいただけるのでしょうか?」


『御社じゃないですが……って、あのお金でも払えと?』


「いえいえ、この世界のお金を頂いても意味がありませんし、ここはズバリ神力を。そうですね、今後この世界の時間で百年間、貴女様が獲得する総神力のうち20%を譲渡いただけるという契約で如何でしょう?」


『20!? そんなに……も、もう少し負かりませんか?』


「ははは、二割は吹っ掛けすぎましたか。冥腐王とやらが消えてもその後の後始末もあるでしょうし。では、現状の敵勢力の駆逐とその後の大地や水の浄化もこちらで請け負いましょう。あとはそうですね、契約期間内であれば敵の残党や新たな厄介者が現れてもお値段変わらずで何度でも対応可能。そういったアフターケアまでコミコミで15%では?」


『15ですか……も、もう一声?』


「ふむ、それでは初回のお客様ということで出血大サービス。12%で如何です? それからこちらは契約の対象外ですが只今キャンペーン期間中でして、新規ご成約の特典として私共の世界で作られた銘酒セットもお付けしています」


『違う世界のお酒……ごくり。で、では契約をお願いします』



 どうせ、ここで契約しなければ遠からず世界は滅びてしまうのです。

 ならば少々割高でも契約しない手はないでしょう。あくまで神としての責務からくる決断であり、決してこの世界では手に入らないレアなお酒に釣られたわけではありません。



「――――はい、はい、そうです。無事ご成約ということで。では、ゴゴ様残りもチャチャッとお願いします。他の姉妹様方も私がすぐお連れしますので」



 コスモスが商談の成立を伝えたことで、ゴゴとユーシャも戦闘を再開したようです。これから他の土地にも姉妹達を投入していけば、数日もしないうちにこの世界に平和が戻ってくることでしょう。



「さて、正式な契約書と特典は後日改めてお届けに参りますので。では、今後ともどうぞご贔屓に」



 こうして商談は無事成立。

 かくしてこの世界に平和が戻ったのでありました。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 変態企業コスモスコーポレーションの活動により 異世界がまた一つコスモスの傘下になりました。 異世界魔王氏〉たった数秒で我が国が壊滅あの幼女達は化け物か!? まあ、アナ○○やロゴ○よりは…
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