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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十三・五章『迷宮武者修行 ~Extra Round~』

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Round1 ~光と闇のタコ焼き~


(※この作品は『迷宮アカデミア』です)


 時は皇国歴1999年……!

 千年に渡り平穏が保たれていたデラヒロイ大陸は戦火に包まれた。大陸東部を治めるカイラーイ帝国が突如として世界制覇に乗り出し、周辺諸国への一方的侵略を開始したのである。


 だが、カイラーイ帝国を真に動かしていたのは皇帝に非ず。

 世界を破滅に導く邪神を奉ずるメチャヤヴァイ邪教団。人を思うがままに操る恐るべき邪法を用いる邪教団によって帝国首脳部は傀儡とされていたのである。


 自らも邪法の餌食となる寸前で逃げ伸びた帝国の第三皇子シュジ=ンコウ=ポイは、反逆者としての濡れ衣を着せられながらも各地を転々とする中で真に信頼できる仲間と出会い、邪教団に支配された国々を解放。

 具体的には、もしこれが少年漫画なら大体コミックス五十巻相当にはなりそうなシリアスめの大冒険を繰り広げ、そしてとうとう仲間の犠牲と引き換えに位置を突き止めた邪教団の本拠へと乗り込んだのであった……!



「とうとう追い詰めたぞ、邪教祖クロマーク! 今日ここで貴様との因縁を精算し大陸に平和をもたらしてみせる!」


「ふっ、よくぞ来たシュジよ。だが、最早遅い。感じるだろう、この凄まじい暗黒の力を……! ついに我らの神が目覚めたのだ!」



 壁紙も黒、足下の絨毯も黒。その色合いに紛れて若干見えにくかったが、シュジがよくよく見てみると確かに足下から黒っぽいオーラ的なガス的な何かが湧き上がってくるのが確認できた。クロマークが言う通り、世界を滅ぼす力を持った邪神がすでに目覚めているようだ。



「くくく、我が神が封じられし魔封門……貴様もよく知る通り本来であれば各国の王家に伝わる封鍵が全て揃わねば決して開かぬはず。貴様も最後の一本を己で持っているからこそ、我が神が復活する前に我々を始末できると踏んでいたのだろう? だが、まだ鍵が揃ってないのに……なんか、解けた」


「なんか」


「うむ。今朝の朝食を摂っている時に部下から報告を受けて確認してみたら本当に解けていたので驚いた……くくく、恐らくは永き時の流れで封印そのものが劣化していたか、あるいは我が神の御力が想像以上のものだったということだろう」



 邪教祖は親切にも細々とした設定を説明しつつ、己の憶測を語った。邪神が目覚めた以上、シュジとの戦いの結果に関わらず世界の破滅から逃れる道はない。そういった心の余裕が彼を普段より饒舌にしていたのだろう。



「そして、最期にもう一つ教えてやろう。我は、いや俺はシュジ、貴様の兄だ! 皇帝の子として生まれるも不吉とされる痣があったばかりに物心つくより前に追放され泥水を啜りながら生きてきた。これでとうとう我が復讐も成るというものよ」


「なにっ、貴様が兄さん!?」


「くくく、本当だ。この通り、皇帝の命で改竄される前の戸籍謄本と当時の使用人を訪ね歩いて得た証言書もある。何の役にも立たなかった紙くずだがな」


「ほ、本当だ……!」



 口の滑りがよくなった勢いで、何やら自分語りを始めた邪教祖。

 足下から湧き出る黒いオーラはますますその勢いを増し、地震のような振動と、怪鳥のような鳴き声……恐らく邪神のモノであろうソレが彼の自信と余裕に繋がっているのだろう。



「くくく、最早貴様との戦いなど茶番でしかないが、最期に弟である貴様を俺の手で殺してやるも一興! さあ、シュジよ。かかってくるがいい!」


「うおおお! 俺は兄さんを倒し、邪神も打ち倒して世界を救ってみせる!」



 まさに世界の存亡を懸けた最終決戦。

 二人の皇子はそれぞれ光と闇のオーラを身に纏い、全霊を込めた激突を……。





 ◆◆◆





『いやぁ、結構強かったの。寝起きで本調子じゃなくて助かったのよ。でも味は見た目通りタコみたいで美味しかったの!』


「ええ、こんなこともあろうかとタコ焼き機を持ってきておいて正解でしたな。皆様へのお土産分も確保しましたし」


 皇子と邪教祖がぶつかる直前。

 地下へと続く階段から見知らぬ二人が上がってきました。

 完全に虚を突かれた格好になったシュジとクロマークは咄嗟に飛び退いて距離を取ります。



「おや、ここの住人の方でしょうか?」


『どうも、お邪魔してるの』



 部外者二名、コスモスとウルは空気を読まずに挨拶などしています。

 ちなみにウルの手にはお土産用に確保しておいた巨大なタコ足が。



『……ねぇねぇ、コスモスさん。なんだか真剣そうな雰囲気なのよ? 我たち、ちょっと場違いなんじゃないかしら?』


「ははは、いやいやまさか、ははは」



 このあたりでようやく光と闇の最終決戦を中断していた二人も、思考が状況に追いついてきたようです。「もしや邪教団に攫われた民間人では? もしそうならば保護せねば」などと考えたらしいシュジはクロマークに鋭い視線を向けますが、まったく心当たりのない邪教祖はブンブンと首を横に振っています。



「だ、誰だ貴様らは? 魔封門へと通じる階段から上がってきたようだが……」


『魔封門?』


「ああ、アレではないですか? ウル様がちょっと力を込めたら、金具がぱきっと壊れて開きっぱなしになってしまった」


『しーっ! しーっ、なの! だって、あんなに立派な門だからちょっとくらい強めに押しても大丈夫だと思ってたのよ。きっと元から壊れかけてたに違いないの!』



 どうやら必要なアイテムが揃っていないのに邪神の封印が解けてしまったのは、ウルが力業で門を開こうとして壊してしまったからだったようです。



「そうだ……じゃ、邪神は!? 事情はよく分からないが貴女たちが無事ということは、まだ封印が解けきったわけではないのか?」


「そ、そうだ! 女よ、我が神の寝所に立ち入って無事とはこれ如何に? 常人では暗黒の力に晒されて数秒と持たずに息絶えるはず!」



 光と闇の兄弟からしてみれば、当然気になるのはその点でしょう。

 まあ答えは最初から目の前にあったのですが。

 ちなみに邪教団が信仰する邪神は、この部屋の壁にもデカデカと描かれているように無数の触手が生えた巨大なタコのような姿をしています。



『邪神って、これなのよね? ちゃんと神力の味がして美味しかったし』


「ええ、事前に近場の国でリサーチした限りでも間違いはないかと。まあ、ずっと封印されていたわけですし? 起きてもこの世界の方々を害するだけの神なら、別にウル様のオヤツにしてしまっても問題はないでしょう」



 邪神も、まあ弱くはないのです。

 本調子であれば今のウルが一対一で勝つのは厳しい程度の実力はあったのです。が、今回は寝起きを不意討ち気味に襲われて本調子ではなかったのと、狭い地下空間で戦ったせいで、自らの巨体が邪魔になって思うように動けなかったのが敗因となりました。戦闘中に神力を含んだタコ足を食べられて、いくら再生してもその度に食べられ続け、それを繰り返すほどにウルがどんどん強くなっていったせいもあります。



「やはり地道に信仰を得るよりも、他の神様から直接神力を貰うほうが短期的な効率は良さそうですな。ちゃんと神様らしく自らの世界を治めている神様をアレするのは流石にアレですが、別に倒してしまっても問題なさそうな不良神だけならいなくなっても特に苦情は来ないでしょうし」



 そう、これこそがコスモスのアイデア……の一部でした。

 過去の事例からも神やその遺骸を捕食することで、手っ取り早く大量の神力を得られることは分かっています。ウルよりも遥かに力の強い神が相手だと逆に乗っ取られる危険性もありますが、そこは事前のリサーチで同格以下の神格だけを相手にすればリスクはほとんどありません。ついでに美味しいグルメや手応えのある戦闘も楽しめて一石三鳥の名案というわけです。



「え、我が神を? 食べ……え、嘘じゃない? き、貴様ら――っ!?」


『あ、お兄さん達もタコ焼き食べたいんじゃないかしら?』


「おっと、これは気が付きませんで申し訳ない。まだ小麦粉と紅ショウガはありますし、ちゃちゃっと焼くとしましょうか」



 ウル達がここに上がってくる直前から、地面の振動と邪悪なオーラがピタリと止まっていることに気付いたのでしょう。ようやく状況を呑み込めた邪教祖が激昂してウルに殴りかかりましたが……。



『めっ、なの! もう、いくらお腹が空いてるからって火を使ってる場所で走り回っちゃダメなのよ?』


「ぐっふぉう!?」



 渾身の暗黒パワーを込めた一撃はウルに指一本で止められ、逆にオシオキとして放たれたデコピン一発で吹っ飛び、そのままゴロゴロと部屋の反対側まで床を転がっていきました。手加減されていたので死にはしませんが、心を折るには十分すぎる一撃でしょう。

 邪教祖クロマークも裸一貫から腕っぷしを頼りにこの世界を裏から支配しかけた組織を立ち上げただけあって決して弱くはないのですが、そんな彼が頼みにしていた邪神をウルはペロリと平らげて力を丸々取り込んでいるのです。流石に太刀打ちできるわけがありません。



「はい、焼けました。青のりとマヨネーズはどうしますか?」


『はいっ、我はどっちもアリアリでお願いするの! お兄さん達は?』


「え、あ、それじゃあ同じので」



 自分と同等の力量を持つであろう邪教祖が一撃で倒されたのを見て、皇子シュジも逆らうだけ無駄だと悟ったのでしょう。理由はどうあれ世界は破滅の運命から救われたようですし、こちらは感謝こそすれウル達と敵対する理由もありません。



「ほら、無事か……ええと、兄さん。意外とイケるぞ、邪神」


「うぅぅ……我が神おいしい……俺の人生っていったい……」


『泣くほど美味しかったのかしら?』


「熱さで口の中を火傷してしまったのかもしれませんね。もっとフゥフゥと冷ましてから召し上がるのがよろしいかと」



 こうして一つの世界が救われ、ウルは神として一歩成長したのでありました。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 唐突に始まらなかった異世界頂上決戦 美味しい所はウルが持っていしました [気になる点] 邪神を食べた守護者を見る二人 多分ヤバい奴に出会ったと思ったはず(笑) [一言] 更新お疲れ様です …
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