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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十三章『迷宮武者修行』

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『中』の世界


 まず共有しておくべき情報は、自分達が今どこにいるのか。

 ルカは最初、てっきり迷宮達の濁流に呑まれて流され、見知らぬ土地に流れ着いたとばかり思っていましたが、もっと落ち着いて周囲を観察してみれば不自然な点が多々あるのに気付いたはずです。



『ほら、土石流みたいなアレに流されてきたのなら、辺りの木や草が無事なのはおかしいでしょう? 折れはしないまでも土汚れが付いたり、地面だってもっと荒れてるはずだもの』


「なるほど……言われて、みれば?」



 ルカ達がいる場所はあまりに綺麗すぎる。

 大きくなったアイが指摘したように、土石流のような災害があったならもっと荒れていて然るべき。そもそも濁流の中に飛び込んだにしては、ルカ自身の肌や服がまるで汚れていないのがおかしいのです。



『あまり引っ張るのも何だから答えを言っちゃうと、ここはお姉ちゃん達の本体の中なのよ。ママ……じゃなくて、ルカさん一人なら弾かれて、それこそ普通の土石流に巻き込まれたみたいになっちゃったかもだけど、落ちた時に我と一緒だったでしょ? ほら、まだ立ち入りの許可が出てない迷宮にも他の姉妹が一緒なら入れるっていうアレ。あのルールが今回も適用されて、こうして一緒に中に入れたみたい』


「な、なるほど……?」


『でも、見ての通り普通の状態じゃないみたい。この辺りはまだ穏やかだけど、ちょっと先まで行ったら大荒れよ。我の第七迷宮の観測記録ログを参照した限りだと、お姉ちゃん達の迷宮がそれぞれバラバラのぐちゃぐちゃに混ざり合ってるみたいなの』



 アイも事態の全貌を全て把握しているわけではありません。しかし同じ迷宮同士ということで、普通の人間には分からないようなことまで理解が及んだのは幸いでした。



『ヨミお姉ちゃんの奈落が混ざってるせいだと思うけど、この空間と外の普通の空間とでは時間の流れも違うみたい。ここに飛び込んだ瞬間に測定した速度差のまま常に一定だとは限らないけど、多分、外では我たちが飛び込んでからまだ何秒も経ってないんじゃないかしら?』


「そんなこと、分かるの……? アイちゃんは、すごいねぇ」


『そ、そうかな? えへへ……』



 ルカに褒められたアイは、照れ臭そうにしつつも悪い気分ではなさそうです。外見は赤ん坊になるより前の元々の姿に戻っていますが、精神面には少なからず影響が残っているのでしょう。



『そうだ。ついでに説明しておくと、我がこの姿になったのはこの空間に充満してる凄い濃度の神気の影響みたい。人間のヒトには知覚できないと思うけど、この空間の中って神様の力がめちゃくちゃに渦巻いてて嵐みたいになってるんだもの。この辺りは台風の目みたいなもので比較的“薄い”みたいだけど、下手したら我まで巻き込まれて暴走の仲間入りしちゃうかも?』


「暴走……つまり、それが?」


『うん、力が一気に強まり過ぎて制御できてない状態。それがお姉ちゃん達に起こってるってわけ。聞いたのが赤ちゃんだった時だから記憶が正確じゃないかもだけど、お姉ちゃん達の何人かが一箇所に集まると近くの生き物の生命力が強くなるとか話してたじゃない? 皆は共鳴とか呼んでたっけ?』


「あ……つまり、そういう?」



 ここまでヒントが出揃えばルカにも分かりました。

 一定以上に神力を蓄えた状態で七人の迷宮が一箇所に集まる。それにより発生した共鳴現象によって迷宮達の力は爆発的に強くなり、制御が追いつかないほどまでに強化されてしまった。

 というか、周りの生物を強化するのは本来オマケで、元々は迷宮達自身を強めるのが主目的だったのかもしれません。創造主である女神の言を信じるなら、想定していたよりも随分強化幅が大きかったようですが。



 爆発的に増加した力に制御能力が追いついていない。

 何時間か、何日か、あるいは何か月か時間を費やせば、迷宮達が自力で制御を覚えるかもしれませんが、流石にそんな悠長なことは言っていられません。


 なにしろ迷宮達の本体はとてつもなく大きい。

 ウルの『樹界庭園』だけでもこの大陸一つと同等のサイズがあるのです。他の姉妹まで全員合わせたら、大陸どころか惑星の過半を覆い尽くしてしまいかねません。



『流石にそうなる前に女神様あるじさまが手を打つか、魔王様あたりが何かするとは思うけど。退治まではされないにしても、完全に無傷で済むかというと……惑星外に追放の上でほとぼりが冷めるまで封印とか……ていうか、その場合この中にいる我とルカさんも巻き添えになっちゃうんだけど』


「そ、それは……困る、ね」



 現実の時間で考えるなら、恐らく猶予は一日もないでしょう。どこかの人里に迷宮の濁流が届いた時点で、女神や魔王も強硬策に出ざるを得なくなってしまいます。

 そんな最悪の事態が起きる前に解決できるのは二人だけ。

 現実の時間と異なる時間の流れにいる利点を活かし、アイとルカが混ざり合って暴走する迷宮達を内側から止める以外にありません。



『体感で何か月か、下手したら年単位でかかるかもだけど……』


「そ、そんなに……?」


『うん、そんなに』



 なにしろ六迷宮の本体全部を合わせた上に、構造も元から大きく変化しているわけです。面積についても単純な足し算ではないかもしれません。全く新しい未知の迷宮、未知の世界を踏破するに等しい難業となるのは間違いありませんが、大変だからといってやらなければ世界と自分達がもっと大変なことになってしまいます。


 世界と、迷宮達と、そして自分達を守るため。

 他の誰も知らない世界での、二人だけの冒険が密かに幕を開けました。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] ちょぉぉぉ! つまり、時間軸が定まっていない(;^_^A 下手したら、地球文字で<オカエリナサイ>が出てくる可能性もΣ(゜Д゜;≡;゜д゜) [一言] 更新お疲れ様です 気長に修行し…
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