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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十三章『迷宮武者修行』

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領域間移動


「さて、それじゃあ基本的なところから詰めていこうか?」


 アイの行方不明、およびルグの前に出現してからの再・行方不明。

 今すぐ駆け出して探したいのは山々ですが、闇雲に探し回るのはいくらなんでも無謀というものでしょう。仮に見つけ出したところで、またすぐ消えてしまう恐れもあります。


 ひとまずは分かっていることをまとめて、捜索の大まかな方針だけでも決めるのが先決だろう、と。この場にいるメンバーの中でも比較的頭の冷えているレンリは皆にそのように説きました。



「やあ、ルカ君。そろそろ落ち着いたかい?」


「うん……ご、ごめんね」



 消えた瞬間に居合わせたことで一際強く責任を感じているのか。

 ルカはいつになく取り乱していて、探す当てもないまま駆け出そうとするのをウルとモモとシモンの三人がかりで組み付いて辛うじて引き留めたくらいです。おかげで三人の押し合いへし合いの余波だけで玄関付近の床が滅茶苦茶に砕けて穴が開いてしまいました。



「床はまあ今度ネム君に頼めばいいとして、責任というならシモン君だって一緒にいたわけだろう? ほらほら、その点についてはどう思う?」


「うむ、まったく言い訳のしようもない。だが、その上であえて言うとすれば、先程アイが消えた時には常のような『夢現』の発動はなかった、と思う」


「ふむ、単に油断したキミが見過ごしたとかでなく?」


「俺もここ最近でアイの力についてはそれなりに慣れてきたつもりだからな。タイミングを誤って斬り損なうことはあれど、目の前にいて力の発動そのものに気付かぬというのは多分ない、はず。いや、客観的な証明などはできんのだが」



 さて、目下解決すべきは消えたアイがどこにいるのかという問題です。アイの身に何らかの危険が及ぶ前に一刻も早く身柄を確保せねばなりません。

 つい先程ルグの前に現れたことはもう共有済みですが、その後の足取りはまだ不明。鳥に変身したウルが数の利を生かして学都の街中を捜索してはいるものの、まったくの当てずっぽうではいくらなんでも心許ないというものでしょう。


 これといった手がかりがない現状、やや迂遠にはなりますが、ここは考えるべき問題を変えてみるべきかもしれません。すなわち「どこに」消えたのかではなく、「何故」消えたのかという理由についての考察です。



「この『何故』についてもいくつかの解釈があるけれど、ここでは動機ではなく方法について考えようか。実は内心で自分に対する育児方針への不満を募らせていたアイ君がグレて家出したとか言われてもどうしようもないしさ」


「でも、方法って……アイちゃんの、能力……だよね?」


「うん、能力には違いない。でも、ここでさっきのシモン君の証言が気になってくるんだけど、恐らくアイ君の消失に関して『夢現』は関係ないんじゃないかなって」



 アイに限ったことではありません。

 迷宮達の能力は『強弱』や『復元』のような各人の固有のスキルだけでなく、化身の生成や本体内部での地形や物品の管理など、いわば汎用スキルとでも呼ぶべき共通の能力がいくつも存在します。


 その汎用スキルにも相性や練度によって得手不得手の差はありますが、根本的には迷宮なら誰でも使える共通の能力。ということは、当然アイにも備わっているはずです。



『ははあ、言いたいことが見えてきたのです。レンリさんが言ってるのは、迷宮の外部展開のことなのです?』


「モモ君、話が早いね。キミ達、どこかに展開しておいた迷宮間は一瞬で行き来できるだろう? 仮に領域間移動とでも呼ぼうか。アレならばアイ君が消えたように見える現象にも説明が付くんじゃないかな」


『ふむふむ、アイが意識的にか無意識的にかはさておき、その領域間移動の能力を発動させてしまったと。たしかに理屈は通るのです』



 シモンが『夢現』に反応できなかったのは、そもそも『夢現』が使われていなかったから。そんな逆転の発想からの推測ですが、これならアイが突然いなくなった理由付けにはなるでしょう。



「とはいえ、だ。これだけでは行き先を絞る手がかりにはならないからね。もう少し領域間移動の仕様について細かく詰めていくとしようか。まず基本的なことからのおさらいだけど、まだ迷宮として覚醒してないアイ君が覚醒済みのモモ君や皆と同じように自己の領域をどこかに置いたり移動したりできるのかな?」


『今まで検証するタイミングがありませんでしたけど、できちゃうんだと思うのです。ああ、アイがモモ達も知らぬ間に覚醒してたって線はナシで。もしそうなら神の気配的なやつで分かるので』



 外部展開そのものは、他の迷宮達も未覚醒の段階から使えました。

 当時は範囲や強度などに厳しい制限があり実用性はほぼ皆無。本人達からすら小洒落たインテリアを作るだけの謎能力としか思われていませんでしたけれど。

 試す発想すらありませんでしたが、もしかすると未覚醒当時でも、生み出した小迷宮を踏み潰して入り込めば領域間移動が使えたのかもしれません。



「ちなみにモモ君。アイ君が消えた場所には彼女の迷宮が残っていたりするのかい? 見た目では特に変化がないように見えるのだけど」


『そういえば残ってないのです。遠隔で剥がした……は、可能といえば可能ですけどあえてそうするかというと微妙ですし』



 アイにとってはハイハイを覚えたのも領域間移動を覚えたのも大した違いはないのかもしれません。ハイハイですら、うっかり目を離すと屋敷の中で大冒険をしていたのです。本質的にはその範囲が広がっただけ、なのかもしれません。


 しかし、そこで領域間移動の仕様が厄介な壁となってきます。

 なにしろこの能力、他の姉妹の誰かが敷いた領域であれば本人が行ったことがなくとも移動できてしまうのです。本来であれば便利な仕組みと思うところですが、相手が物心つかない赤ん坊となるとその便利さこそが困り物。



『なにしろ便利なものなので……モモも、この街の中だけでもあちこちのお店の前とか大きな通りの角ごとに展開しっぱなしにしてるのです。騎士団の訓練場もそうですし』



 領域間移動では魔力や神力を消耗することもありません。

 あらかじめ姉妹の誰かが迷宮を展開した場所という縛りこそあるものの、使い勝手においては魔法による空間転移を上回るのではないでしょうか。自身の領域を敷くのだって、ある程度慣れてからは通りがかったついでに一瞬で済ませられる程度の手間でしかありません。



『でも、この街の中ならまだいいのです。問題は、アイが世界に飛び出していた場合なのですよ……』


「だよねぇ……」



 先日までの諸国巡りの間にも、迷宮達は行く先々で自身の領域を敷いていました。今だってモモがその気になれば、一瞬で南の果ての島国や北方の山脈地下に移動できます。

 他にも遊園地の一件で各国の主要都市近辺には一通り置いていますし、その過程で移動した通り道にも同じく。ほとんど生き物がいない極寒の大陸北方を除けば、この大陸のほとんどはカバーしているのではないでしょうか。

 


『大きなお船の甲板に敷いておいたやつなんかは常時移動してますし。ああ、ヒナひーちゃんなんかは海の中にも展開してたはずなのです』


「海水の流れとか自転の影響ってどうなってるんだろうね? まあ、でも、これでアイ君の行き先についてはある程度絞り込めたんじゃないかな」



 移動先の候補となるのは、これまで姉妹の誰かが一度でも行ったことのある場所全て。誰がどこに敷いてきたのか、後で詳しい聞き取りは必要でしょうが。



「アイ君の行き先はこの大陸の中央山脈以南の陸上か海中か地底のどこか。さあ、その全部を虱潰しに探すとしようじゃあないか?」


『うーん、全然絞れた気がしないのです』


「だよね!」



 まあ流石に虱潰しは無理がありすぎますし、これまで上の姉妹六人が何百何千と展開してきた領域を片っ端からベリベリ剥がしてアイの行き先候補を制限する方向で話はまとまりました。



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― 新着の感想 ―
[良い点] アイは探知不能 なら、アイの好物で誘き寄せ作戦とかお腹が空いたら帰るのを待つ作戦も使えない。 [気になる点] まさかただのかくれんぼだったりして ちょうど遊びたい盛りだろうし [一言] 更…
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