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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十三章『迷宮武者修行』

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激闘! お菓子の巨人兵団


 推定十数トンはあるであろうお菓子の巨兵が、今いるだけでも五、六十体。しかも、その全てがマッハの速度で動き回り、高度な戦闘技術まで備えているのです。


 今のシモンやライムでも苦戦は免れません。

 そのままであれば、の話ですが。



「皆が巻き込まれぬよう場所を移さねば。アレをやるか。ライム、頼む」


「ん。了解」



 シモンが横向きに構えた剣の腹に向けて、ライムが渾身の正拳突きを放ちました。更に続けて前蹴り、肘打ち、頭突き、と流れるような連続攻撃。一撃で鉄塊をも粉砕する打撃の連続をざっと千発ほど受けて、剣には大きなヒビ割れが走り……、



「うむ、これくらいあれば問題なかろう。半分くらいでも良かったかもな」



 そしてシモンが剣に魔力を込めると瞬間的に砕けかけた刀身が再生し、つい先程までより遥かに強力な魔剣として蘇ったのです。その強化は使い手であるシモンにも及び、今回の場合であれば彼本来の身体強化に掛け合わせることで実に通常の戦闘時の百倍以上もの超強化を成し得るに至っていました。


 彼の全身から立ち昇る力は、ハッキリ視覚として捉えられるほど高密度の魔力の奔流。いつぞや迷宮達が見物した霊脈をも超える高密度のエネルギーの塊です。

 自然とシモンの服は激しくはためき、髪の毛も強風に煽られたように逆立ち、魔力密度が上がり過ぎたせいか身体の周囲で電気のような金色のスパークまで発生していました。



「巻き添えの恐れがない状況であれば俺自身の力のみで競い合いたかったが、俺達の我が儘のために皆を危険に晒すわけにもいかんのでな、許せ。お前達が言葉を解するのかは分からんが」



 迷宮最速、一人であればマッハ100に達するヒナより、更に何倍も速いかもしれません。シモンは自身にかかる『空気抵抗』や『摩擦』や『重力』など、己の枷となり得るあらゆる働きを排して物理法則の限界をも超越した加速を実現。


 本来であれば人間大の物体が大気中でそれほどの速度を出したら、凶悪な破壊力を伴ったソニックブームが荒れ狂い、周囲の何もかもを薙ぎ払ってしまうはずですが、そもそも空気が揺れていないのだから動きの余波による無差別の破壊も発生しません。


 結果、小島の内外にいたお菓子の巨兵達は、全員合わせて一秒足らずで頭から爪先までを粉微塵に切り刻まれた後、次の一秒で一片すら残さずに島外の遥か遠くまで吹き飛ばされてしまいました。



「あれ、あのデッカいのどこ行ったの? え、シモン君が全員倒した?」



 覚醒済みの迷宮ならともかく、常人並みの動体視力でしかないレンリにそんな動きが見えるはずがありません。体感的には、ほんの一瞬まばたきをしたら全部消えていたようなもの。最初から幻覚だったと言われたほうが、まだしも納得しやすいかもしれません。



「俺の実力と言いたいところだが今の動きはレンリの剣あってこそだからな。いや、これは実に良い剣だ」


「ふっふっふ、つまり私のおかげということだね? 強い衝撃を受けるほど強化されていく成長する剣……なんだけど? いや、なんだか想定していた仕様よりもだいぶ強すぎるような? 渡した時より変換効率がかなり上がってる気がするけど」


「そうなのか? まあ強くなる分には構わぬが」



 以下、余談。レンリ作のシモンの魔剣には修復過程で重心のズレなどの不具合が発生した時に自動的に修復するため、ゴーレム技術の応用でごく簡易的な思考能力が備わっています。

 元々は剣のセルフチェックをするための限定的な機能でしかありませんでしたが、その頭脳部分が想定を遥かに超える大量の魔力を度々注ぎ込まれたせいで、また剣に付与された各種概念の影響も手伝ってか、より高度な思考と自我を獲得しつつあったりします。“まだ”発話能力までは備わっていないので、シモン達がそれに気付くのはもう少し先のことになりますが。以上、余談。



「シモン。剣の話はあと」


「そうだったな、俺のことよりアイはどうした? っと、ぬお!?」



 兎にも角にも、今はアイを先にどうにかなりません。

 焼き栗が弾ける音に驚いて大泣きし、大量のお菓子兵を湖から呼び出したと思われる彼女ですが、今度はシモンの身体から立ち昇る魔力に興味を示しているようです。

 ひとまず戦闘が終わったのと充填した魔力を一瞬でほとんど使い切ってしまったため、今は白い煙のようにモヤモヤした残滓が残るくらいですが、それがかえってお気に召した様子。



『あい? ばぁ?』


「ううむ、俺が言うのもなんだが吸い込んで大丈夫なのかコレ?」



 動くに動けないシモンの周りを這い回りながら、触っても掴めない魔力煙を不思議そうに眺めたり、顔を近付けて吸い込んだりしています。幼児がアイスの保冷剤として付いてきたドライアイスに水をかけて遊ぶようなものでしょうか。



「いつの間にか湖も透明に戻ってるね。ところで、ゴゴ君。シモン君がアイ君のオモチャになってる間にさっきの話の続きを確認しておきたいんだけど。ほら、アイ君が元々はキミ達くらいの大きさで話もできたっていう」


『ええ、本来我々に赤ん坊の時期というのはないんですよ。創造された時点でもう既に今の姿として生まれました。アイも例外ではありません』



 少々のトラブルはありましたが、これでようやく本題に戻れそうです。

 先程ゴゴが言いかけた言葉、アイも元々は他の姉妹と同じような姿だった。彼女についてどう対応するにせよ、これは知っておかねばならない情報でしょう。


 なんとも奇妙な、普通とあべこべの言い方になってしまいますが。

 昔の、まだ赤ん坊になる前の大きなアイについて。



『生まれつき迷宮の運営に必要な知識や言語能力も備わっていましたから、姉妹間の意志疎通に不自由することもありませんでした。その頃のアイは、そうですね、姉妹の中でも特に大人しくて優しい子だったと思いますよ。あくまで我の印象ですが、なんだかルカさんに似てた気がします』


「わ、わたし……?」


 

 他の姉妹達の反応は『言われてみれば』と『言うほどかな?』が半々くらい。あくまでゴゴの印象なので、そこの類似性はさして重要なポイントでもありませんが。



『ただ、アイはちょっと優しすぎたのかもしれません。罪悪感のあまり元々の自分の知性も人格も何もかも捨て去ってしまいたいと夢に、悪夢に見るほどに。それがまさか赤ん坊の姿になるなんて形で叶うとは、あの子自身も思ってなかったでしょうけど』



 自身の能力で己を赤ん坊にしてしまうほどの出来事とは?

 ゴゴは少しだけ悲しそうな顔で、アイの過去についての話を続けました。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 剣が拳でバラバラからの大技 剣の製作者がレンリじゃあなければ泣いてましたね。 [気になる点] また女神様の頬をもち並に伸ばすお仕置き案件? 流石に今回は回りから見れば 幼い迷宮を迷宮に放置…
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