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バレた?


 ラックが『黄金の杯』で眼帯の男に声をかけられた時、その場には一家の長女であるリンも一緒にいましたが、彼女はそこで誘いに乗らずに帰った……フリをしていました。

 賭場に向かう男二人の後を付け、場所を確認。

 現場の倉庫を近くの物陰からしばらく監視していたのです。


 眼帯の男が堅気ではないのは明らかでしたし、展開次第では……具体的にはラックが異常な大勝か大敗をして相手の怒りを買ったような場合には、暴力沙汰になる可能性もそれなりにあります。


 そういった非常事態に備えて、相手の保有戦力を確認したり逃走経路を検討していました。


 ラックがトイレの窓から逃げ出した際に、眼帯の男の手先よりも早く巡回の衛兵に確保されたのも彼女の働きによるもの。兵隊の興味を引くように足下に小石を投げて倉庫周辺に意識が向くように仕向けたのです。

 違法賭博を開くような後ろ暗い者たちであれば、逃げ出した客を追うよりも自分達の保身を優先して動くのは計算できましたし、狙い通りに兄の身柄を騎士団に保護させることにも成功しました。



「ふぅ……まあ、兄さんなら大丈夫でしょ」



 ラックが騎士団に捕まったのは、いくつか想定していた事態の中ではかなりマシな状況でした。少なくとも最悪ではありません。


 この場合の最悪というのは、逃げ出す間もなくラックが殺されたり、兄妹全員が一度に捕まってしまうことですが、それは回避することができました。ならば大袈裟に慌てることはありません。


 無論、このままだと罪に問われ、数年間は娑婆に出て来れなくなります、普通なら。


 現状、ラック以下アルバトロス一家の罪状は列車強盗の際の窃盗、器物損壊、傷害未遂。細々とした罪を加えるともう少し増えますが、主立った罪はそんなところです。


 微罪とは言えずとも、即座に極刑になるほどの重罪ではありません。

 人死にの出ていない事件の犯人としては異例とも言える高額賞金がかけられていますが、それは鉄道会社の面子を潰したからという意味合いが大きいのです。


 この国の法律では、逮捕された犯人は現地の騎士団でしばらく拘留され取調べを受けた後、裁判所のある大きな街へと移送され、そこで刑が確定します。学都アカデミアからの距離を考慮するに、列車と馬車を乗り継いでこの国の首都へ送られる可能性が高いでしょう。


 アルバトロス一家の場合だと、過去の判例から判断して、恐らくは三年から六年程度の労働刑。国営農場や鉱山での労役と監視を課される可能性が高い、と彼ら自身は判断していました。模範囚として振舞ったり、逆に服役中に問題を起こした場合は必ずしもその限りではありませんが、読みとしてはそれほど外してはいないでしょう。

 なお、未成年のレイルだけは責任能力無しと判断され、労働刑ではなく孤児院送りになるでしょうが、この場合は大した違いでもありません。


 なにしろ、その類の犯罪者を集めて働かせるような場所は、周囲を高い塀で囲まれていたり、海に囲まれた孤島だったりするのですが、グリフォンという空中の機動力を有する彼らであれば脱走は容易いことなのですから。

 脱走ならば、もっと前の学都から他の街に移送する段階で馬車を襲ってもいいですし、ルカがいれば夜中にでも牢の壁を破ることも可能。たとえ一時的に見失っても、グリフォンロノの嗅覚があれば追跡も難しくありません。


 以上のような理由で、役目を果たしたリンはさほど慌ててはいませんでした。

 やるべきことを済ませ、少しばかり気が緩んでいたとも言えます。



「ただいま~……ん、鍵閉まってる? 二人とも、もう帰って……」



 夕食でも食べながらルカレイルと今後の方針を話し合おうなどと考えながら、部屋の合鍵を取り出して現在の住処である共同住宅アパートメントの扉を開け、



「え?」


「あれ?」



 気絶したルカを送りに来たルグと、バッタリ正面から出くわしました。







 ◆◆◆







 時刻的にはリンが部屋に戻る少し前。



「えっと……この部屋か」



 レンリたちを分かれた後、冒険者ギルドでルカの住所を確認したルグは、貧血で気絶した(と思い込んでいました)ルカを送り届けにきていました。

 途中でルカが目を覚ませば後の修羅場は回避できたのでしょうが、元よりあまり精神的に強くない彼女は共同住宅の部屋に到着するまで一切目を覚ましませんでした。


 ちなみに揉んではいません。

 揉んではいません。

 背負った状態でずっと歩いていると、背中に何やら柔らかい感触を感じていたりもしましたが、それに関しては不可抗力。ルグも健康な十五歳の少年として全く思うところがなかったわけではありませんが、たぶん無罪です。



「鍵は……かかってないな」



 鍵がかかっていたらルカの荷物や服をまさぐって探さないといけないところでしたが、運良く部屋の鍵は開きっぱなしになっていたのでそのままお邪魔しました。

 


「ふぅ、重かった」



 部屋のベッドにルカを寝かせたルグの口からはそんな呟きが。

 彼女の意識があったら余計な精神ダメージを負っていたかもしれません。


 まあ、別にルカが太っているわけではなく、単純に男であるルグのほうが人一倍小柄な上、二人分の装備や荷物を持っているので重く感じただけです。他意はありません。



 ともあれ、ようやく肩の荷を下ろしたルグは床に腰を下ろし、そのままルカが目覚めるのを待つことにしました。鍵さえどうにかなれば別に帰ってしまってもよかったのですが、流石に開きっぱなしの部屋に意識のない女子を放置するわけにはいかないと良識的に判断したのです。


 ……それが後の苦境を招くきっかけになるとは露知らず。




「……意外と散らかってるんだな」



 手持ち無沙汰になったルグは室内に視線を彷徨わせましたが、部屋の中はルカの性格からは意外なほどに雑然としていました。


 なにしろ、一人用の物件に本当は四人で暮らしているのです。

 いくら綺麗に使おうとしても限度というものがあります。

 備え付けのタンスに入りきらない衣服や下着、脱いだ後の洗濯物などもそのあたりに放置されていました。


 冷静に観察すれば、衣服の中に明らかに別人のモノが混ざっていることに気付けたかもしれませんが、ルグは女物の下着を視界の端に捉えた時点で、それ以上余計なものを見ないで済むよう目を閉じてしまいました。そのせいで違和感に気付くことが出来なかったのです。


 そうして目を瞑っていると、次第に心地良い眠気が襲い掛かってきました。

 昼過ぎ頃に迷宮の試練で限界まで身体を動かし、菓子を食べて多少は回復したとはいえ、その後はヒト一人と二人分の大荷物を背負って決して短くない距離を歩いてきたのです。眠気を覚えても仕方がありません。

 

 そのまましばらく、うつらうつらと舟を漕ぎながらルカの目覚めを待っていると、突然ガチャリと部屋の鍵が開く音と若い女の声が聞こえました。



「ただいま~……ん、鍵閉まってる? 二人とも、もう帰って……」



 半分眠りに落ちていたルグと、アジトに帰り着いて気が抜けていたリン。

 鉢合わせた二人は、現在の状況に即座に反応することができず、

 


「え?」


「あれ?」



 顔を見合わせて、ポカンと間抜けな声を出しました。



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