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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十三章『迷宮武者修行』

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たのしい潮干狩り


 病院を後にした迷宮達は、港町のあちこちをウロウロと歩き回りました。しかし、つい昨日命を助けられたということもあってか、なかなか望む反応をしてくれる相手に巡り合えません。

 先程の病院での一件も早くも広がりつつあり、『使徒様』の噂が一人歩きしつつあるようです。それも肯定的な文脈で。


 ですが、ようやく。



「ふん、神の遣いだと? 馬鹿馬鹿しい! いくら魔物退治の恩があるからって、こんなガキ共の言うことを真に受けるなんざ、どうかしてるとしか思えんな」



 夕方近くになって、港の端の桟橋で作業をしていた漁師の老人から、まさに迷宮達が望んでいたような反応を引き出すことができました。こうでなくては張り合いがないというものです。



『うんうん、こういうので良いのよ、こういうので!』


『そうそう。まったく、もしモモ達が詐欺師か何かだったらこの町の人はあっという間に素寒貧なのですよ? もうちょっと警戒心を持って生きたほうがいいのです』



 ……とはヒナとモモの言。

 他の姉妹も概ね同じような反応をしています。

 邪険にあしらったはずが喜ばれてしまい、老漁師は戸惑っていましたが。



「あ~……その、なんだ、ガキ共。そういう風に言うってことは、その気もないのに性質の悪い連中に担ぎ上げられて困ってるとかか? そんなら俺が簀巻きにして海に放り込んでや……」


『あ、いえいえ。そういうのでは全然ないのです。神の遣いというのは真実マジのやつなので』


「お、おう……」



 本当は神の遣いなどではないのに勝手に祭り上げられてしまい訂正するにできなくされて困っている……とかであれば、かなり苦しいものの理屈が通らなくもなかったのですが、その肝心の部分については肯定しているのです。相手からしたらワケの分からない状態でしょう。



『ねえ、おじいさん。何か困ってることとかないかしら?』


『できれば難しめのやつがいいのです。それを片付けたら、現状否定派のおじいさんもコロっと意見を変えて、モモ達を本物だと認めざるを得なくなるような』


「は、はあ、困りごとだ?」



 本当は無視してさっさとこの場を立ち去りたい老漁師だったのですが、迷宮達にとってもやっと出会えた手応えのありそうな相手なわけで。

 下手をすれば家まで押しかけてくるかもしれない、と。

 そんな風に思ったのでしょうか(それは恐らく正解です)、無視ではなく望み通り無理難題を吹っ掛けることで追い払うことにしたようです。



「ああ、その、あれだ。昨日の騒ぎの時に、女房カカアの形見の指輪を海に落しちまってな。お守り代わりに革紐を通して首に提げとったんだが。潜って探そうにもこの辺りの海底は沈んだ古い船やら海藻やらで視界が利かねぇ。探せるもんなら探してみやがれってんだ!」


『あら、それだけでいいの?』



 ヒナが視線を海に向けると、その付近の海がパカッと二つに割れました。

 海底まで完全に露出している状態です。



『おじいさん、指輪を落としたのはどの辺なのです?』


「お、おう……この桟橋の縁から五百メートルくらい先だが……」


『ふむふむ、潮の流れる向きと速さを計算すると、もうちょい沖のほうまで流されてそうなのです。ヒナひーちゃん


『はいはい、分かってるわよ。それじゃあ、もうちょっと先まで海を開くわね』



 一度に何百億トンもの水を操れるヒナにしてみれば、港町から見える範囲の海を丸裸にするくらいは大した手間でもありません。

 幸い、もう夜近いこともあり周辺で漁をしている船もいないようです。これ幸いと船ごと持ち上げ、海底の土に染み込んでいた水分まで取り除いて人が歩けるようにしてしまいました。これなら、ぬかるみに足を取られる心配も無用です。



『どうかしら? これなら探しやすいんじゃない?』


『ついでに皆の視力とか注意力も、モモがつよつよにしてあげるのです』



 あとは地道な人海戦術です。

 迷宮一同に、監視役として付いてきた城の人々、老漁師とその知り合いの漁師達まで集まって、世にも珍しいカラカラに渇いた海底探索です。



『発見。確認。指輪を見つけたよ。おじいさん、これで合っているかな?』


「いやいやいや!? こんなでっかいダイヤの付いた指輪なんざ見たこともないわ!」


「ははぁ、もしかすると大昔の沈没船の積み荷かもですねぇ」



 探していると、出るわ出るわ。指輪だけでなくネックレスや腕輪などの宝飾品。金貨がぎっしり詰まった宝箱なんてモノまでありました。

 博識な侍女によると、どうやらこの近海では商船が沈没する事故が、分かっているだけでも過去何百年かの間に幾度かあったようで。

 その積み荷のうち破損が少ないモノは、このあたりの海底に残留しているようです。海水による腐食や経年劣化でダメになってしまったモノが大半ですが、そうした影響を受けにくい金製品だけでも相当の量がある様子。



「これって拾った人のモノになるんでしょうか?」



 それは誰の呟きだったのやら。

 しかし考えてみれば、これらの品々の権利を主張する人間が今更現れるとは到底思えません。つまり老漁師の指輪を除いた他の品々に関しては、見つけた人の物になる早い者勝ちというわけで。



「お宝の掴み取りだぁーっ」


「俺、一番デカいカバン持ってくる!」


「なになに、何の話!?」



 当初捜索に加わっていた面々以外にも、噂を聞き付けた町の衆が雪崩となって押し寄せてきました。もう暗くなり始めていましたが、モモの能力で一人残らず暗視能力も強化されているので作業に支障はありません。



「あ、あれは噂の『使徒様』じゃあないか?」


『くすくす。皆様、元気がよろしいですねぇ』


「見ろ、あの慈愛に満ちた微笑みを!」


「なるほど、このお宝掴み取り大会はあの方達の粋な計らいだったというワケか! なんと話の分かる方々なんだ!」



 もちろんネムはいつも通り何も考えていないのですが、なんだかそういうことになってしまいました。まあ元々は海底のゴミだったわけで、誰が損をするというわけでもありません。むしろ宝探しの過程で海が綺麗になるので得しかないくらいのものですが。



「おお、あったぞ! ガキ……いや、お嬢ちゃん達。ありがとうな。おかげで女房の形見が見つかったよ。あんたら、本当に神様の遣いだったんだなぁ……ん?」


『やった、地面の下から大っきい金貨が出てきたの! うへへへ、これは我のモノなのよ!』


『はいはい、シャベル使う人はこちらで配ってますよ。あ、おじいさん。お目当ての品が見つかったんですか。良かったですね』


「う、うむ……」



 本来の目的は果たしたのですが、ここで止めるとも言い難い雰囲気です。下手をすれば暴動に発展しかねません。



「陛下、変装しているとはいえ下々に紛れて穴掘りとは如何なものかと。せめて兵に任せてですな……」


「後生だ、止めてくれるな将軍! 国の財政状況はともかく、余の個人的な小遣いに関しては未だ火の車なのだ。この機を逃してなるものか!」



 よくよく見れば、昨夜の宴にいたお偉いさんの姿もチラホラと見られます。なにしろ見るからに高価そうな古い金貨が、ちょっと掘っただけで出てくるのです。ちょっとくらい羽目を外すのも無理のないことかもしれません。



『ねえ、我はいつまで支えてればいいのよー?』



 ヒナが愚痴をこぼすも誰の耳にも届いていないようです。

 今更止めるに止められなくなってしまい、結局、この豪華極まる潮干狩りは翌朝の日が昇るまで続きました。



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