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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十三章『迷宮武者修行』

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神の遣いと認めさせ隊


 迷宮達が本当に「神の使徒」であるのか確認する。

 何をするにもまずはそこを確かめないことには、どうにもならない。なので何日かかけてそのあたりをじっくり見極めよう。できれば本物であってくれたら嬉しいナ!


 神聖国のお偉いさん達は、ひとまずそんな方針を立てました。

 もちろん真偽を確かめるための観察は極秘裏に行われます。

 そんな思惑があると知られたら『使徒様』らしい演技をされて惑わされる恐れもありますが、最悪のケースは他に考えられます。もしも彼女達が本物だった場合、人の身で神の遣いに対してそうした試しを行なったのを不遜と見做され神罰を喰らってしまうかもしれません。


 なので、全ては秘密裏に。

 昨日の宴に出席していた面々や、会議の内容を聞いてしまった一部の侍従や兵士、実際の監視任務を命じられた少数の人員以外は誰もそのことを知りません。

 観光案内の体裁で間近で接しながら迷宮達の観察を命じられた城勤めの侍女達も、たとえ相手が家族や親友や恋人だろうと他言禁止を厳命されていました。最重要の極秘事項のはずだったのですが。



『お姉さん達が案内してくれるのね? 我も本物の女神様あるじさまの遣いだって信じてもらえるように頑張るの!』


「ちょ、ちょっと、いいいいったい何のことですか!?」



 ウル達には当然そんな思惑など全部バレていたわけですが。

 なにしろ昨夜の宴を中断する流れは、いくらなんでも不自然に過ぎました。あれでは、これから何かしら聞かれたくない話をするのだと白状していたも同然です。


 そして迷宮達には、遠く離れた客間にいながら宴会場の話を聞く手段などいくらでもあります。ウルが自身の一部を小さな虫にでも変化させて盗聴器代わりにするとか、ゴゴが細い金属線をピンと張って糸電話の要領で壁の振動から室内の音を聞くとか、もっと単純にモモが全員の聴覚を『強化』してもいいでしょう。


 他にも液体に化けて飲み物や花瓶の水に混ざる、適当な幽霊に頼んで聞いてきてもらうなど、他にも細かく考えていくともっと手段はありそうですが、今の彼女達に可能な方法だけでも両手の指で数えて余るくらいにはあるのではないでしょうか。



『ああ、案内の方。これくらいなら腕の良い音魔法使いが一人いれば、同じようなことはできなくもないでしょう? 我々を判定する基準としては不足でしょうし、あまり深く考えなくてよろしいかと』


「そ、そうは仰られましても……」



 余裕たっぷり、にこやかに微笑むゴゴですが、対する侍女達は早くも逃げ出したくなるような気分でした。相手が神の遣いを騙る詐欺師だったとしても、本物の神の遣いだったとしても、いつでも簡単にこの国を滅ぼせるような力を持っていることに違いはないわけですし、まあプレッシャーを感じるのは無理もないことでしょう。



『えっと、別にちょっと疑われたくらいでこの国の人達をどうにかしようなんて思わないから大丈夫よ。だからお姉さん達も気楽に、ね?』


「ひっ!」


『ちょっ、なんで逆に怖がるのよ!』


「も、申し訳ございません! 何卒、家族の命だけは……」


『だから何もしないわよ……やりにくいわ、これ』



 敬虔な信仰心ゆえでしょうか。

 もし目の前の幼女達が本物の神の遣いであったなら、万が一にも粗相があってはいけないと思い、ガチガチに硬くなってしまっているようです。ヒナが声をかけて緊張を和らげようとするも、かえって萎縮させる結果になってしまいました。



『まあまあ、ヒナひーちゃん。とりあえずモモがお姉さん達の緊張を弱めておくのですよ。ついでに、百メートルくらい後ろの壁の裏にいるお兄さん達も。あ、そこの屋台にいる商人のヒトも兵士さんが変装してるみたいなのです』


「「「な、なな、何故!?」」」



 ちなみに観察要員は侍女達だけではなく、読唇術や尾行術や変装術を高度なレベルで習得している軍の諜報部隊も参加しています。


 そもそも認識できる可視光線の種類が人間とは比べ物にならない迷宮達にとって、普通の石壁など遮蔽物としての意味すらありませんし、自身の観察力を『強化』したモモから見れば市井の商人にしては不自然に剣ダコや筋肉が発達している者、つまり変装した兵士など一目瞭然。



『くすくす。皆様、お仕事ご苦労さまです』


『勤労。感心。遠くでこそこそするよりは近くで堂々と見たほうが分かりやすいだろうし、諸君らも我々と一緒に観光といかないかね? 太っ腹なことに、今日の飲み食いは全部王室の払いになっているらしいしね。熱心に仕事をしているヒトに、そのくらいの役得はあってもいいんじゃないかな』



 しまいには、もっと近くで堂々と見ろと言われる始末。

 いくら小国の弱小軍隊とはいえ、それでも諜報部のメンバーはその中におけるある種のエリート。厳しい訓練を潜り抜けた存在であるというプライドを持っていたのですが、そんなものは何の意味もないのだと、よりにもよって当の監視対象に突き付けられてしまった格好です。

 ヨミとしては別に彼らの心を折るつもりまではなかったのですが、結果としては同じこと。下手に慰めてもかえって惨めになるだけでしょう。



「いや……この子達が『使徒様』なのであれば、むしろ当然か」


「そうだな。我が国を救った方々を疑うなど最初から間違っていたのだ。どうか私達の愚かな行いをお許し下さい」



 そんな風に心折れてしまったせいでしょうか。

 まだ城を出て何歩も歩いていないというのに、早くも本物説が彼らの中で限りなく確かなものとなりつつありました。自ら変装を解き、隠れ場所から出てきて、迷宮達の前に跪いて頭を垂れたのです……が。



『ちょっとちょっと、認めるのが早過ぎるの! それにほら、これくらいなら神様の遣いじゃないシモンさん達だって楽勝でできると思うのよ?』


『あ~、あの人達なら確かに余裕でしょうね』


「ええと、その方がどなたかは存じませんが……その、つまり?」



 つまり、このくらいなら人間でもできるヒトはできる。

 この程度で神の遣いだと認められては手応えがなさすぎて面白くない、というようなことをウル達としては主張したいわけです。


 相手が『使徒様』であるなら仕方がないという理屈で、どうにか自分達のプライドを守っていた諜報部員としては、『使徒様』がやったのと同等の芸当を軽くやってのけるただの人間が存在するというのは傷付く事実ですが、まさか異を唱えるわけにもいきません。彼女達がこれでは証明として不足であると言うのなら、それに従うしかないのです。


 それに単に面白い・つまらないだけの話でもありません。

 「自分達は本物の神の遣いである」と、学都のような前情報のない、不特定多数の客観的立場の人々に認めさせる。それは迷宮達にとって、いつか必ず乗り越えなくてはならない試練なわけで。


 この国での一連の出来事は、今後訪れることになる国々におけるリハーサルという意味合いもあるのです。多少強引にではあれど、その貴重な機会を失うのは困ります。



『この国の皆に認めてもらうために、いっぱいアイデアを考えておいたから楽しみにしててほしいの!』



 いったい何をどうすれば、ヒトは彼女達を神に属する存在であると認めるのか。あるいは認めざるを得なくなるのか。個々人の信心深さや性格によっても傾向の違いはあるかもしれません。後学のためには、そういった反応の収集も必要でしょう。


 ウル達のターゲットはH国のお偉いさんや監視任務に就いている面々だけではありません。ひとまずの目標は、城周辺や港町にいる住民全員。状況次第では国民全員や外国からの訪問客にまで手を広げてもいいかもしれません。今回の迷宮達は被観察者であると同時に、この国の人々を観察する側でもあるのです。


 肯定、否定、無反応。

 どういう人物には、どういう攻め方が有効なのか。

 話題の切り出し方次第でどういう反応が返ってくるのか。


 何を置いてもまずはデータ収集から。

 このあたりの考え方はきっとレンリの影響でしょう。


 そんな空前の宗教実験がこの東の果ての国で始まりました。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ウルたちに変装を見破れないのはコスモスのみ 詰んでる(笑) [気になる点] 小細工無しで正攻法しろよ王様(笑) この手の相手には高僧か賢者か聖女か政治家の問答一つで決まる。 下手な変装とか…
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