『使徒』の解釈
巨大化したウルが大きな剣で魔物を一刀両断。
当然、その様子は神聖国の人々も目にしていました。
『やった! 騎士団で教わった通りにやったらちゃんと斬れたの。これからは美少女剣士路線で売っていくのもアリかしら?』
ここにいるウルとは別個体ですが、学都にいるウルは今も毎日騎士団の訓練に参加しているのです。そうして覚えた技術は他のウル達もそのままの精度で使用できます。
大抵の武器よりも自分の肉体を使ったほうが強いため、せっかく教わった武器術が日の目を見ることはこれまでなかったのですが、今回ようやく剣術を使う機会に恵まれました。
「う、海が水平線の果てまで斬れた……?」
「なんと凄まじい……」
「使徒様、アリガトォォ!」
足下から聞こえてくる驚愕と称賛の声は耳に心地良く、ウルもすっかり上機嫌。同じく巨大化中のゴゴを高々と掲げてポーズを取り、自らの勝利を派手にアピールしています。
「使徒様」という呼称が含まれているのは、恐らく先日の祭りの際に学都にいた誰かがちょうどここにも居合わせたものと思われます。かなりの距離があるとはいえ、鉄道に乗れば学都と神聖国は片道二日で行き来できる距離。商売か観光かは分かりませんが、そういうこともあるでしょう。
「魔物が大きくなったと思ったら、あの子供も大きくなって瞬く間に退治してしまうとは……将軍、あれはいったい?」
「魔族の中には魔力を賦活させることで自らの大きさを変えられる種族がいるとか。恐らく、その巨人族の者なのではないでしょうか? いや、だとしても聞いていた話より遥かに大きく強すぎるように思うが……」
諸々のスケール感が大きかったこともあり、戦闘が決着する場面は現場から距離のある王城からもはっきり見えていました。あまりに非現実的な光景に呆然としていた者達も次第に我を取り戻し、英雄を称える声が城の内外を問わず上がり始めます。
「そうだ、こうしてはおれぬ! あの小さな戦士達に相応しき礼をせねば我が国の恥。国を挙げて歓待せねば!」
「おお、それは良いお考えかと。今夜は宴ですな! 早速、港に人をやって英雄達を招くと致しましょう」
国王や将軍も、この時点では素直に国が救われたことを喜んでいたのです。偉大な英雄を城に招待し、豪勢な食事や勲章の授与にて恩義に報いる。相手に不都合がないのなら、爵位を与えてこの国の貴族としてしまうのも良いかもしれない。
なにしろ、あれほどの戦力を見せつけられたばかりです。味方に付けることができればこの上なく頼もしい。わざわざ他国にちょっかいをかけて平穏を乱そうなどとは彼らも思いませんが、あれだけ強大な戦力がただこの国にいるというだけで外交面でのメリットは計り知れません。少なくとも、今後この国が魔物に脅かされることはなくなるはず……などと、欲を掻いたのが良くなかったのでしょうか。
この数時間後から数日に渡り、この神聖国の首脳陣は大いに頭を悩ませることとなったのです。なってしまったのです。
◆◆◆
宴の途中までは悪くない流れだったのです。
それとなく打診した爵位の授与については、付随する面倒を察したゴゴやモモがそれとなくはぐらかして断ったものの、まあその程度は国王側も織り込み済み。
新鮮な魚をふんだんに使った伝統料理は、先日迷宮達が訪れた南国風の刺激的でスパイシーな味付けとは違い、丁寧に素材の味を引き出した上等なモノばかり。魔界から入ってきた新しい料理を参考に、自国の伝統料理を上手く昇華している工夫が感じられます。
「そういえば」
風向きが変わってきたのは、料理を粗方食べ終えた頃でしょうか。国王がこんな疑問を口にしてしまったのが、彼らの受難の始まりでした。
「キミ達を『使徒』と呼ぶ市井の者がいたようだが、お嬢さん方のような年頃の子をそんな風に呼ぶのは不思議に思えてね。アレは、何か理由でもあるのだろうか?」
『使徒』という言葉には「神の遣い」以外にも、「使節」や「偉大な存在から遣わされた者」のような意味もあります。常識的に考えれば「神の遣い」を僭称する者などいるはずがない(この場合は自称ではなく他者から呼ばれた形ですが)ので、国王としてはどこかの国の少年少女使節団が休暇なり留学の下見なりで非公式に来訪していたような意味合いで想像していたようです。
先程の宴の最中、迷宮達が大陸西部の大国であるG国の学都から来たことは明かしていました。王族の一人とプライベートな付き合いはあるものの、当然G国そのものが公式に彼女達の後ろ盾となっているような事実はないのですが、話を聞く側としてはそう考えたほうがまだしも受け入れやすかったのでしょう。
もちろん冷静になれば無理があるのは彼らも分かっています。
仮に想像通りだとしても、軍隊でもない一使節団があれほどの戦力を有していていいわけがない……ないはずなのだけれども、大国ともなればそういう秘密の特殊部隊でもあるのかも? 大きい国ってすごいなぁ、と半ば無理矢理に自分達を納得させようとしていたのです。
ちょっと前までの迷宮達なら、その勘違いをありがたく利用して、『使徒様』の件を適当に誤魔化していたかもしれません。
けれど、今はもう事情が違います。
先日の学都の祭りを契機とし、迷宮イコール神の遣いであると認める方向に舵を切ったばかり。なにしろ実際それで正しいのだから、事実を事実として広め、支持を集める方向で進めているのが現在の方針なわけで。
当の迷宮達も多額の売上金を目にするたびにうっかり忘れそうになりますが、そもそも自分達の絵や像などを販売しているのも、そうして知名度のアップと印象の改善を狙ってのこと。決して自由に使えるお小遣いをジャンジャン稼いで世界各地で豪遊旅行をするためではないのです。
『ううん、そうじゃないの。我たちは女神様に創られた迷宮で、だから意味的には神様の遣い的なほうの使徒で合ってるのよ?』
なので、そのまま正直に答えました。
幸せな勘違いを、悪気なく、容赦なく正してしまいました。
国力こそ秀でたところはないものの、国王が神殿長を兼ねるほど宗教色の強い国で。もし「神の遣い」を騙る罰当たりな者などいたら、然るべき裁きを与えて神殿の威信を示さねば王家の権威が崩壊して、下手をすれば国が立ち行かなくなってしまうような国で。よりにもよって国家の重鎮があらかた勢揃いしている王城で。




