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ウルのお泊り


「……なるほど、穀物倉庫か」


「うん、ただ使える場所は他にもいっぱいあるみたいなことを言ってたから、多分もう誰も残ってないんじゃないかなぁ?」


 騎士団本部の地下独房。

 そこで証言を賭けてサイコロ遊びをしていた面々でしたが、ラックが負けるまで延々と勝負を繰り返し、ようやく一勝を掴むことができました。


 時刻はすでに日暮れ過ぎ。

 開始時点から三時間以上が経過していました。


 三つのサイコロを振って出た目の合計が大きいほうが勝ちという単純なゲームゆえに、一巡にかかる時間は精々二、三分。ですが、シモンたちは三人がかりという条件で、ようやく一つの証言を引き出すまでに七十回以上も連敗を続けたのです。

 ひねりサイ(スピントス)以外にも十種以上に及ぶテクニックを駆使する相手に、運だけで対抗できるはずがありません。今どうにか勝てたのも、対戦相手の状態を鑑みたラックがわざと手を抜いたフシがあります。



「おっと、百連勝には届かなかったか。やっぱり勘が鈍ってるなぁ」



 負けたラックは大して残念そうでもなく飄々としていましたが、



「やっと勝てた……つかれた」


『うぅ……もうサイコロは見たくないの……』



 サイコロを投げるだけなのでさほど体力は消耗していないはずですが、これだけ一方的に負けを重ねるというのは精神的に大きな負担になるようで、シモンはともかくレンリは途中から無言になり、最初ははしゃいでいたウルは半泣きになっていました。



「意外だな。素直に話すとは」


「ははっ、見直したかい? 僕は嘘吐きだけど、ギャンブルでの約束は守るのさ」



 その上でまたしても答えをはぐらかされる恐れもありましたが、ギャンブラーの誇りを賭けるという言葉に偽りはなかったようで、今回の賭け草である『ラックの知る闇カジノの場所』に関しては正直に答えていました。



「それで、お前はそこの客だったというわけか」


「そうそう、『黄金の杯』って店で遊んでたら眼帯のオジさんに誘われてねぇ。ま、色々とキナ臭い感じがしたんで、途中でトイレに行くっていって窓から逃げてきたんだけど。追いつかれる前に巡回の兵隊さんに捕まれたのはラッキーだったね」


「で、当座の身の安全のために俺達をボディガード代わりに使っているというわけだ。まあ、それについてはこの際構わぬ。眼帯の……その男について出来るだけ詳しく話せ」


「へえ、その様子だとやっぱり結構な大物だったんだ、あのヒト。そうそう、たしか、この街で何かを探してるとか言ってた、けど……」



 『眼帯の男』というキーワードに反応したシモンを見て、ラックは自身の推測が正しかったことを確信しました。ですが、そこで素直に話すほど甘い性格ではありません。



「でも、それに関してはさっきの賭け草の『カジノの場所について』の範疇には含まれないよねぇ。聞き出したかったらもう一勝負、どうだい?」



 ……などと言われましたが、今すぐ勝負に応じる気はありません。

 少なくともレンリとウルは、もう今日は使い物にならないでしょう。

 それに、恐らく無駄足になるとはしても、捜査の人員を賭場が開かれていた倉庫や『黄金の杯』に向かわせたり、その物件を所有している商会の素性を洗ったりとやる事は色々あります。



「あらら、もう帰っちゃうの? ま、気が向いたらいつでも遊びにおいで」



 別れ際、ラックは飄々とそんなことを言っていましたが、再挑戦の機会があるかは怪しいものです。

 ゲームというのは勝敗を競う要素があるからこそ楽しいもの。

 負けた際のリスクがないとはいえ、延々サンドバッグにされても面白くもなんともありません。

 本来の賭場では、客を適度に勝たせて気持ちよくさせるからこそ、たとえトータルでは負けることが薄々分かっていてもハマってしまうのです。



「もう遅いし部下に送らせよう。その、なんだ……協力感謝する」



 すっかり疲れ切ってヘトヘトになった少女二人は、シモンの呼んだ馬車に乗って帰路へと着きました。







 ◆◆◆







「ねえ、ウル君や?」


『なぁに、お姉さん?』


 居候先のマールス邸へと帰りついたレンリは、荷物を置き、浴室で汗を流し、残り物を貰って夕食代わりにしてから、やっと疑問を口にしました。



「なんでキミが私の部屋にいるのだね?」


『うみゅ?』



 迷宮の化身であるウルの家はしいて言えば迷宮そのものなのでしょうが、彼女は何故だかレンリと共に馬車を降り、ここまで付いて来たのです。食事中や入浴中も当然のような顔をして一緒に行動していました。

 ちなみに、現在のウルの身体は迷宮の植物や泥を素材としているのですが、お湯に浸かっても溶けたりはしませんでした。


 今は部屋の主であるレンリを差し置いて、ベッドの上をゴロゴロ転がって寛いでいます。

 この家には子供服などありませんが、先程までの服、厳密には身体の一部をパジャマっぽいデザインに再構成しており、完全にこのまま泊まっていくつもりのようです。



『だってだって、迷宮われに帰ってもつまんないもの』


「それでいいのかい?」


『なんだかんだで今日は結構楽しかったし、もうしばらく街で遊んでから帰るの!』



 他の、迷宮そのものである本体や動物型の化身と違い、ヒトの子供に近い精神性を持つこのウルは、迷いなく言い切りました。

 詐欺まがいの手段で泣かされたり、イカサマ上等のゲームで泣かされたり、ロクな目に遭っていない気もしますが、随分と前向きなお子様です。



『本当はシモンさんのお家がいいんだけど、お仕事の邪魔しちゃいけないし、はしたない女だと思われたくないからお姉さんのお家で妥協しといてあげるのよ』


「そうかい、そりゃどうも」



 レンリの部屋に決めたのは、どうやら妥協の産物だったようです。



「まあ、今夜はもう遅いから仕方ないとして、明日になったらしばらく泊めていいか叔父さまに聞いてあげるよ」


『わぁい! ありがとう、なの!』


 

 一晩泊まらせるくらいならともかく、居候が勝手に他の居候を住まわせるわけにもいきません。とりあえず、今日のところはそういう形で落ち着きました。


 客間のベッドは大きいので、子供サイズのウルが一緒でも特に問題ありません。

 昼過ぎから色々あって疲れていたレンリは部屋の魔力灯を消して横になり、



(あ、そういえばルカ君たち大丈夫だったかな?)



 騎士団本部に行く前に分かれた友人たちのことが一瞬頭をよぎりましたが、思考を黒く塗りつぶす睡魔には抗えず、そのまま眠りに落ちていきました。



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