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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十三章『迷宮武者修行』

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帝国再生カウントアップ


 何もかもがドロドロに融けて崩れていく。

 壁も天井も、足元の地面さえも。

 栄華を誇った地下帝国も、今日この時で全ておしまい。

 元凶である魔物を倒したところで、もはや崩壊は止まない……。

 


『くすくすくす』



 誰もがそう思っていました。彼女以外は。 

 ありとあらゆる全部が燃えて融け落ちる灼熱地獄において、もちろんネム自身も立つべき足場を失って落下しながらも、それでも慌てず騒がず落ち着いて。


 ピタリ、と。

 崩壊しつつある地下空洞が停止しました。

 まるで時間そのものが止まったかのようです。


 いえ、止まっているのは地下だけではありません。

 支えを失い、今にも崩れ落ちようとしていた山脈そのものが、その動きを止めていたのです。人々や動物は動くこともできたのですが、あまりに異様な状況に戸惑って、結局どうすればいいか分からず動きを止めてしまったのも無理のないことでしょう。



『それでは、何とかしましょう』



 止まった時間が動き出しました。

 ただし、逆向きに。

 融け落ちつつあった壁や天井はドロドロのまま上へと流れ、国土全域に発生していた大地震で落下した家具や食器、避難中に怪我をした人の血液までもが、凄まじい勢いで先程までと反対側に動き出したのです。


 粉々に割れた食器は元通りの姿で食器棚に収まりました。怪我をした人は傷口に血が宙を漂って戻り、痛みどころか痕も見当たりません。そして、崩壊の中心であった地下空洞も同様です。


 高熱で融かされたはずの石柱は元の黒々とした色を取り戻し、壁や床もまた同様。全部が元通りに直るまで精々が二、三分の出来事でした。まるで最初から戦いなどなかったかのようにも思えます。



『我が妹ながらとんでもないの……あれ、でもマグマがなくなってて岩が剥き出しになってるの?』


『あら? 申し訳ありません。ウルお姉様とヨミがお飲みになった分はそのままになってしまったみたいですわ。こうなったら、さっきの魔物さんを元気にしてもう一度元に戻してもらうしか』


『このままでいいの!? これが気に入ったのよ!』


『あら、それでよろしいのですか?』


『同意。訂正。溶鉱炉を動かすための霊脈は無事みたいだし、ドワーフの人達も涼しくなったほうが嬉しいんじゃないかな。あと我のは飲んだんじゃなくて穴に捨てただけだからね』



 元々マグマが流れていた地下空洞の下部は、現在剥き出しの地面になっています。巨大化したウルが消化してしまった分と、ヨミの奈落に落とした分は、ネムの能力の対象外ということなのかもしれません。


 『山脈の血潮』は周辺一帯を流れるマグマの大半を取り込んで、とてつもなく巨大化していました。その少なくない割合が消えてしまったわけですから、地熱そのものに影響が出るのも当然でしょう。


 ネムとしては不完全な仕事に珍しく不満があるようでしたが、そのために魔物を復活させられては堪ったものではありません。皆で必死に「これがベスト」「これじゃないとイヤ」とネムに訴えて、どうにか不満を取り下げて貰いました。ある意味、ここが今回の事件で一番の修羅場だったかもしれません。



『にしても本当に涼しくなったわね、ここ。あの霊脈も余計な光源マグマがなくなった分だけハッキリ見えるようになってるし。案外、霊脈を見物する観光ツアーなんてやったら人気出るかもしれないわね』



 ヒナのこの発言は冗談のつもりだったのですが、世界でも珍しい霊脈を見物できるとあって、このしばらく後に本当に地下帝国の新たな観光資源となったりします。

 元々、平時から70℃に迫る熱気に満ちていた地下は、現在では30℃がいいところ。これなら普通のヒト種やエルフでも安全に過ごせます。オーロラを細長く束ねたような見た目は神秘的で綺麗ですし、研究者が調べるのにも、珍しい物好きが自慢の種にするのにも打ってつけ。


 階段で上層と行き来するのが大変だという意見に応え、地下に通じる新たな大型トンネルを掘って線路を敷き、魔力を動力とする従来の鉄道の小型版を拵えて、上下階層の行き来を容易にしたりして、この世界発の地下鉄が誕生したりもするのですが……まあ、そのあたりは余談です。

 


『今回は我も疲れました……さっきのネムを見ていて新しい力の使い方を思いついたりもしましたけど、試すのは明日以降にしましょうか。今日はもう何も考えずにぐっすり眠りたい気分です』


『おや、ゴゴお姉ちゃんもなのです? モモはまずお風呂ですね。温泉に浸かって、それからお腹いっぱいご飯を食べて、それからフカフカのベッドに飛び込むコースを希望するのです!』



 肉体的な疲労は感じない迷宮達も、精神的な疲弊でフラフラです。

 モモの提案に全員が諸手を挙げて賛成しました。



「おっしゃ! そんじゃあ国を救った救世主を囲んで宴会だ! 普通の観光客じゃあ食えねぇ宮廷料理なんかも山ほど用意してやらぁ!」


「ほう、国を挙げての大宴会か。たまには気が合うようじゃの!」



 それから先は混沌の坩堝。

 たらふく食べて飲んで、温泉に入って、ぐっすり眠って、起きたらまた飲み食いして……の繰り返し。全国民に加えて観光客まで巻き込んで、昼夜の区別もなくぶっ通しで歌って踊っての大宴会。

 誇張でもなんでもなくドワーフ達が国中のお酒を飲み干して、全員シラフに戻るまで宴が続きました。種族的にお酒に強いドワーフの国でなければ、急性アルコール中毒で魔物以上の死者が出ていたかもしれません。


 お酒を飲めない、正確にはまだ飲まないようにしている迷宮達は、途中から若干引いていたものの主役が抜けるわけにもいかないので最後まで根気強く付き合い、そして……。




 ◆◆◆




 現在。

 学都のレンリの部屋。 



『で、ついさっき……もう昨日の夜だけど、ようやくお開きになったところってワケなのよ』


「いや、回想長いよ!? 結局、徹夜しちゃったじゃないか」


 

 空が明るくなるまで一晩じっくりかけて語った回想が終わりました。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 回想だけで夜明け よし回分けしてレンリ監修でウルちゃん冒険録を作成すればよい。 もちろんレンリが8でウルが2の取り分 [気になる点] 徹夜明けまで話を聞くレンリの忍耐 夜食とトイレはすませ…
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