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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十三章『迷宮武者修行』

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帝国崩壊カウントダウン


 ず、ず、ずず、ずずずずず。

 これまでの水蒸気爆発とも地下の崩落とも異なる、新たな異音が響き渡ります。数百体もの巨大なウルが地下空間を埋め尽くし、そして一斉に頭を下げてマグマの海を啜りはじめたのです。



『ぷっはぁ! 後で口直しを所望するの!』



 味覚や触覚を一時的に鈍化させ、高熱に対しては自身も炎と化すことで無効化。そのまま凄まじい勢いで吸い続けています。カラダそのものであるマグマを呑み込まれ、そのまま跡形なく消化されたら、無敵と思われた『山脈の血潮』も着実に体積と攻撃力を奪われてしまいます。

 大きな口でゴクゴクとマグマを呑み込んでいく作戦は、極めて奇妙ながらも意外な有効性を発揮していました。どこかにあるはずの敵の核を破壊しないことには決定打に至りませんが、これだけの広範囲かつ大量に啜っていたらまぐれ当たりもあり得ます。



『あっ、頭を撃ち抜かれましたね。姉さん、大丈夫ですか?』


『平気平気、これくらい何ともないの』



 無論、敵も大人しく呑まれてはくれません。

 先程まで石柱や壁を破壊するのに使っていた高圧マグマの砲撃を、何十何百発とウル達に向けて発射。その威力は大したもので、ウルの頭や手足や胴体を穴だらけにするだけの威力がありました……が、その程度で止まるウルではありません。



『そうだ、口で飲むよりこっちのほうが良さそうなの!』



 より効率的に敵のカラダを奪うべく、今度は巨人態から巨大な樹木へと一斉に変異。数百の大樹が四方八方に無数の根を伸ばし、そこから急激にマグマを吸い上げていきます。

 更には『山脈の血潮』のエサ場である霊脈にも根を伸ばし、地面を貫いてエネルギー源である魔力までも横取りしていました。青白く輝く炎の樹木はいよいよその活力と温度を増し、いよいよ炎の魔物を焼き殺す域にまで加熱し……。



『ウルお姉ちゃん、ストップなのです! 周り全部が蒸発し始めて崩落が加速してるのですよ!?』



 しかし、ここでモモから『待った』がかかりました。

 敵を倒すのはいいとして、二重の意味で熱くなりすぎたウルの存在は、崩落間近の地下空洞に更に致命的なダメージを与えてしまったのです。


 見ればマグマの水位はいつの間にか随分と下がっています。

 地面がどんどんと融解・蒸発し、底が抜けかけているのでしょう。

 ウルも慌てて変身を解除しましたが、それで壊れかけた地下空洞が直るわけでもありません。



『ちょ、ちょっと……さっきから揺れてたけど、この地震どんどん強くなってないかしら? て、天井! 皆、天井見て!?』


『落下。確認。ああ、いよいよ重さを支えきれなくなったようだね。つまり、この上にある地下帝国がこれから全部落ちてきます。あと何秒持つかな?』



 ウルの活躍で魔物を弱らせることには成功しましたが、それと引き換えに地下の崩落を早めてしまった格好です。爆発音のような地響きは強くなる一方。飴細工のようにグニャリと融けた柱や壁の支えを失い、天井の一部が落ちてきつつあるのが見えました。

 単に地下が埋まるだけならともかく、より上層で暮らす国民や観光客まで崩落に巻き込まれたら、国家としてはおしまいです。しかも、多少弱らせたといっても魔物はまだ健在なわけで。崩落と魔物、そのどちらも解決しなければドワーフ国に未来はありません。



『着想。獲得。魔物への対抗手段に関しては、ちょうど思いついたんだけどね。今更倒したところで気休めにしかならないかもだけど。だから、そっちは他の皆で何とかしてね?』



 問題の片方、魔物へのトドメに対してはヨミがその役目を買って出ました。言うや否や、皆の返事も聞かずに精錬所の高台からマグマの海に飛び込んだのです。。

 いくら頑丈とはいえ、彼女にウルほどの耐火性はありません。このままでは焼け焦げて消し炭になってしまうでしょうが、決してヤケになったのではありません。



『本体。接続。皆、一緒に落ちないように気を付けてね』



 ヒナやゴゴが各々の本体を展開するのを、そしてウルがマグマを吸い込むのを見て作戦を思いついたのでしょう。

 ヨミが展開した本体、第六迷宮『奈落城』の奈落。マグマの海底に展開された底無しの大穴は、凄まじい勢いで『山脈の血潮』を呑み込んでいきました。



『追加。展開。どんどん穴を増やしていくよ』



 チリチリに焦げた髪や服に気も留めず、ヨミは更に穴の数を増やし、広げていきました。マグマの一部を飛ばすことはできても、根本的に飛行能力など持たない溶岩スライムでは単純に足場を失っての自然落下には対応できません。

 カラダの一部を伸ばして穴の縁に掴まろうとしても、熱すぎる温度が仇となって掴んだ岩壁など一瞬で融けてしまいます。


 ウルによって大きく減らされた体積が、奈落への自然落下で更に減少。その過程で核との接続が切られたせいか、切り離されたスライムのカラダの一部が通常のマグマへと戻っていきつつあるようです。



『観察。アンド考察。さて、ここまで弱った魔物が次に何をするか考えてみよう。まず、破れかぶれの特攻ではないようだ。そうなると、考えられる可能性は逃亡か回復。その両方かな? 自身の栄養源となる魔力を求めて霊脈に入り込み、人目に付かない地面の下で再び成長しつつ逆襲の機会を窺う……と、さっきまでの知性が弱体化に伴って消えてないなら、大体そんな風に考えるんじゃないかな?』


『長いわよ! ヨミ、十文字以内!』


『了。承。あの辺撃って』


『了解!』



 ヨミが指差した先。ついさっきウルが根を伸ばした霊脈に通じる壁の穴に向けて、ヒナが最大威力の水圧砲を叩き込みました。



『手応えあり、よ』



 海に例えられるほどの巨体を誇った先程までならまだしも、ちょっと大きめの溶岩スライムが分厚い鉄板を軽々撃ち抜くヒナの攻撃を防げるはずもありません。


 最期は呆気なさすぎるほどに呆気なく、三千年前から送り込まれた伝説の魔物は、その生涯を終えました。  





 ◆◆◆






『退治。成功。まあ、まだ全然解決してないんだけどね。ウケる』


 伝説の魔物を倒したとはいえ、地下帝国の崩落は止まりません。

 ゴゴもより大きく本体を展開して支えているのですが、流石に国一つの重みとなると簡単にはいかないようで。ウルも今度は通常温度の樹木となって柱の代わりに天井を支えたり、モモが壁や天井の強度を底上げしてもいますが、元々壊れかけた状況ではいずれも焼け石に水。



『ちょっとー!? 誰か何とかしなさいよ!』



 魔物を相手にするならともかく、ヒナやヨミの能力は構造物を物理的に支えるのは不向き。いっそ上層にいる人間全員を液体化させて飛ばすという手も考えましたが、ここから要救助者全員の位置を把握して能力の対象とするには距離が遠すぎます。


 天井も壁も、精錬所の炉や足場までもがガラガラと音を立てて崩れ始めました。もう、地下帝国の崩壊まで何秒もありません。


 その時です。



『くすくすくす』



 こんな危機的状況でも普段と何ら変わらない声が――――。



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― 新着の感想 ―
[良い点] スライムは飲み物だった [気になる点] 地下帝国の終焉 次回からはぐでぇ~ 終わらない帝国再建の迷宮が始まります。(ウソ) まあ、つるはしとスコップに安全ヘルメット装備して ヨシ!といいな…
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