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眼帯の男

ちょっと短めです


 騎士団本部の地下独房でラックたちがサイコロ遊びに興じている頃、直線距離で100mも離れていない位置に一台の黒塗りの馬車が止まっていました。


 料金さえ払えば誰でも利用できる乗合馬車オムニバスや、商品を満載した荷馬車などとは一線を画した高級な仕立て。馬の毛並みや御者の服装もパリッと整っている、貴族や豪商が個人的に所有するような種類の車です。


 人通りの多い道の中で、その馬車の周囲だけが川の中州のようにぽっかりと浮いているかのようでした。うっかり馬車に傷でも付けて弁償を迫られでもしたらたまらないと、道行く人々や荷車もやや距離を開けて遠巻きに眺めるばかり。

 もっとも、車体についている大きなガラス窓の内側には分厚いカーテンがひかれており、どのみち中の様子は分からないのですが。



「くくっ、見事に逃げ切られちまったな。いい勘してやがる」



 その馬車の中にいる特徴的な眼帯を付けた人物。名をモトレドという男は、心底愉快そうに煙草を吹かしていました。座席の傍らには、読みかけだったのか、毒々しい紫色をした装丁の本が開いたまま置かれています。


 彼こそがこの街の騎士団が秘密裏に追っている違法賭博の首謀者なのですが、その本部施設のすぐ目の前にいるというのに一片の怯えもありません。恐らくはこれまでにも数々の修羅場を潜ってきたのでしょう。実に堂々としたものです。



「あのニイさんとは是非とも決着を付けたかったが……ま、縁がなかったってことかね」



 久々に好敵手となり得る相手がどういう理由によるものか異変を察し、勝負の半ば、まだ五分五分の状況で逃げたのは残念でしたが、そのような勝負はあくまで本命の目的のついで。

 虚ろな目をした御者に命じて馬車を出させる頃には、モトレドはもう完全に頭を切り替えていました。

 






 ◆◆◆








 闇カジノの性質上、堂々と居を構える歓楽街の店のように誰でも迎え入れるワケにはいきません。客の選別には細心の注意を払う必要があります。

 この国の法では、違法賭博に関わった者は運営者だけでなく客側も罪に問われるので、たとえ全財産を奪われても泣き寝入りをするしかない……などという理屈は必ずしも通用しません。


 そもそも博打打ちなどという連中は、それも刺激を求めて青天井の賭場に自分から踏み入る輩は、頭のネジが元々飛んでいるのです。

 負けた腹いせに、死なば諸共とばかりに非合理な思考をする者は決して少なくありませんし、普段は紳士ぶっていても負けた瞬間に客から強盗に早変わりするような狼藉者がいる可能性も充分にあり得ます。


 モトレドが現在自由に動かせる人材はざっと百人前後に及びますが、わざわざ組織を束ねる立場の彼自身が直々に客の選別をしているあたり、その慎重な性格の一端が窺えます。


 ……もっとも、自ら現場に足を運ぶ理由に関しては別の事情もあるのですが。



 ともあれ、モトレドは日夜カジノを巡り、これはと見込んだ人物……なんらかの能力に秀で、倫理観が薄く、賭博好きである等の条件を満たす者……を探しては声をかけて勝負に誘っていました。


 賭場が開かれる場所はその時々で不定期に変わりますが、真っ当に経営している商会の倉庫や、買い手のつかない不動産、時には普通に人が暮らしている民家など、カジノとしてすぐに使用可能な確保済みの場所はこの都市内だけでも十箇所を超えます。


 そのうち一つの場所を知るラックが騎士団に確保されてしまったので、その場所はもう使えないでしょうが、大した問題でもありません。


 モトレドの能力・・があれば、場所の確保程度は容易いこと。

 その気になれば金や暴力を使うまでもなく、十でも百でも新しい場所を用意できるのですから。


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