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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十三章『迷宮武者修行』

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灼熱の大津波


 溶岩(ラーヴァ)スライムという魔物がいます。


 生息するのは主に火山の火口付近など。

 その名の通り溶岩が一塊になって動き出したような生き物で、飛び掛かってこられたら生身の人間などひとたまりもありません。カラダのどこかにある核を正確に狙って破壊しない限りは再生し続けるため、経験の浅い冒険者や軍人には荷が重い相手でしょう。


 とはいえ、簡単に核の位置を見切って砕ける熟練者にとっては、いちいち苦戦するほどの相手でもありません。スライムの類の例に漏れず、攻撃らしい攻撃といえば近寄ってきた人間や動物に飛び掛かる程度。


 先に発見していれば回避するのは容易いですし、遠距離から水や氷の魔法で狙うのも有効です。なにしろ溶岩のカラダですから、温度が急激に冷やされるとガチガチに固まった石くれとなって一切動けなくなってしまうのです。

 それでも核さえ無事なら時間をかけて再び加熱することもできるでしょうが、大抵はそのまま動けないところを砕かれて終わりでしょう。


 そもそも不用意に近付かなければ、わざわざ人間を襲いにくることもありませんし、総合的な危険度としてはそう高いものではないのです。普通なら。





 ◆◆◆





 視界の遥か先まで続くマグマの海。

 その全てが超々巨大な魔物で、ドワーフ達の溶鉱炉の調子が悪かったのは、この生き物が燃料となる魔力を食べていたから。ウルの尊い犠牲によって見事に疑問が解消しました。めでたし、めでたし。



『何もめでたくないの!』



 マグマの大波に呑まれたウルが当然のように勢いよく空中に飛び出てきて、そのまま周囲の岩場を蹴って皆のところまで戻ってきました。

 自然界で見られるマグマの温度というのは、おおよそ800℃~1400℃。ただの迷宮の化身であった頃なら燃え尽きていたでしょうが、覚醒により肉体強度が桁違いに向上し、おまけに炎熱と相性の良い形態を獲得した今となってはダメージらしいダメージすらありません。



『ぺっぺっ! ちょっと飲んじゃったの……』



 ダメージがないからといっても、決して気分の良いものではありませんが。どうやらグツグツに煮えたマグマのシチューは、ウルの舌には合わなかったようです。

 


『あの、早く皆さんを避難させたほうがよろしいかと。我々はともかく、ドワーフの皆さんがいくら丈夫といってもアレに呑まれたら、ただでは済まないでしょうし』


「うむ、ここはゴゴちゃんの言う通りにするのが得策じゃろ。アレ、どう見てもワシらを襲う気満々じゃろうし……ぬおっ!?」



 まだ逃げるか戦うかの判断も付いていないというのに、大量のマグマが雨のように皆の頭上に降り注いできました。迷宮達はともかく、老賢者やドワーフ達がまともに喰らったら確実に命はありません。



『こんのっ、止まりなさい!』



 奇跡的に死者が出なかったのはヒナの咄嗟の判断のおかげです。

 先程までマグマの海を押さえつけることに力を割いていた『液体操作』を、皆を守るために使用。無数のマグマの弾丸は、無重力空間であるかのように空中に停止しています。



『あ、ヤバ』



 それが最善の判断だったのは間違いありません。

 しかし彼女が守りに力を割いたことで、その動きを制限されていた巨大な怪物が十全に動けるようになったという意味でもあり……。



「「「退避ィィーッ!」」」



 マグマの雨など比較にもならない、マグマの大津波が精錬所のある高台に迫ってくるのを見て、ドワーフ達は一斉に背後の上り階段へと殺到しました。


 しかし出入りに用いている階段は、大勢が一度に出入りできるほど広くはありません。慌てれば慌てるほど先が詰まり、避難したくともできない状況。このままでは彼らの多くが犠牲となってしまう……ところでした。



「ぬぅん……凍れい!」



 賢者の名は伊達ではないということでしょう。

 老賢者がハンマーの如き杖から撃ち出した強烈な冷気が、迫り来る大波と衝突。絶対零度に限りなく近い低温に晒され、真っ赤に燃える波が黒々と冷え固まったのです。



「……ううむ、表面をちょっと固めるので精一杯じゃの。おう、お前さんら。あんまり長くは止められんから、見物しとる暇があったらさっさと逃げたほうがいいぞ」



 それでも、できたのは十数秒の時間稼ぎのみ。

 老賢者自身が言うように、一度冷え固まった部分もあっという間にドロドロに融け、元の姿を取り戻してしまいました。避難を完了させるには、まだ幾ばくかの時間が必要でしょう。



「ううむ、ワシの使える中でも一番強い術の一つだったんじゃが、ノーダメージとは傷付くのう。おい、そこの皇帝(ジジイ)。ワシがどうにか三分持たせるから、お前らは地上に逃げて通路を塞げ。こいつを上に行かせたら国が終わるぞ」


「はあ!? 馬鹿こいてんじゃねぇぞ、クソジジイ! 殿(しんがり)ならワシが務める。ヨソの国の人間にそんなこと任せられるわけねぇだろうが。テメェこそとっとと尻尾巻いて逃げやがれ!」


「立場を考えんか立場を! 仮にも皇帝が真っ先に死にに行くとか、どう考えてもナシじゃろがい! もっと大局を見て動かんか、この耄碌ジジイ!」


「うっせぇ、バーカバーカ!」


「はぁぁ!? バカって言ったほうがバカなんですぅぅ!」



 そんな状況にも関わらず、もしくはそんな状況だからこそ、どちらが決死の時間稼ぎを務めるかで老賢者と皇帝がケンカを始めてしまいました。ですが、しかし。



『もうっ、どっちもバッカじゃないの!』



 その争う声は、ヒナがかつてないほど大規模に外部展開した自身の本体、第三迷宮『天穹海』の海水が生み出す大津波の轟音によってかき消されました。そしてそのままマグマと海水の津波同士が真正面から激突したのです。




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― 新着の感想 ―
[良い点] ウルは犠牲になったのだ     ↓ なってない [気になる点] 水蒸気爆発とか起きそうです。 極端な温度変化で水分が爆発的 [一言] 更新お疲れ様です ウルちゃんならマグマに呑まれて星の反…
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