燃え盛るもの
はっきり言って、今の迷宮達は凄まじく強い。
それは間違いありません。能力や気性の相性もありますが、知り合い以外で戦闘らしい戦闘が成立する相手を探すのも一苦労。野生の魔物など、大抵は苦戦するほうが難しいくらいです。
しかし、何事にも例外というのはあるわけで。
◆◆◆
『マグマの流れを操ればいいの? それくらいなら簡単だけど』
「うむ、ヒナちゃんや。あそこの、あの尖った大岩が見えるかの? ここから五百メートルくらい先のやつ。あの辺りを中心になるべく広範囲のマグマをどけておくれ」
霊脈詰まりの原因を解消すべく、早速動き出した一同。
老賢者が特定したポイントから、ヒナの『液体操作』で一帯のマグマを取り除きました。本来であれば優秀な魔法使いを何十人と集めて、大規模な工事で目標地点までの足場を組むか、冷気を操る術で周囲一帯を冷やし固める必要がありますが、ヒナであれば視界に収まっていれば問題なく行える作業です。
大量のマグマが遥か遠くまで押し流されて、指定された範囲一帯が剥き出しの岩場となりました。地面を構成する成分の融点差のせいか、ある程度から下はこの高熱でも融けていなかったのでしょう。
『称賛。アンド疑問。マグマをどかした辺りに白いモヤみたいなモノが漂っているね? 火山性の有毒ガスか何かだとしたら、我々はともかく周りの人達は避難してもらったほうが良いんじゃない?』
「いや、それには及ばぬぞヨミちゃんや。あのモヤのように見えるのが、まさに目当ての霊脈そのものじゃからの。よく見れば漂っているのではなく特定の方向に流れているのが分かるじゃろう。普段はマグマが発する光や水蒸気に紛れて見えぬものじゃが、こうすれば直に目視できるという寸法よ」
条件付きとはいえ、こうして霊脈を目視できる場所など世界に何箇所もありません。もう少し見やすければ、良い観光資源になっていたでしょう。
一見すると白いモヤに見えるため弱々しく映るかもしれませんが、あれらはその実、肉眼で捉えられるほど高密度な魔力の流れ。ドワーフ達が使う溶鉱炉は、あの流れから幾らかの魔力を燃料として吸い上げていたというわけです。
『それで、お姉さんのお祖父さん。流れが詰まってるのってどこなの?』
「今探しておるよ。こんなこともあろうかと、あらかじめ望遠鏡を用意しておいたからの。多分どこかの天井が崩落して流れがせき止められとるか、どこかに大穴が開いて変な方向に流れる支流が出来てるとかだと思うんじゃが」
大雑把な場所の特定はできていますが、具体的な原因探しについては地道に目で探すことになります。この工程自体は予測できていたため、あらかじめ用意しておいた望遠鏡を手に手に取った職人ドワーフ達や、迷宮達も肉眼で異常が起きている箇所を探すのを手伝います。
しかし大人数で探しているというのに、どれだけ目を凝らしてみても、それらしい場所が見当たりません。
安全のため大炉が設置されている足場の端から見下ろしているわけですが、角度的に視線が届かない位置にあるのでしょうか。
『もうっ、まどろっこしいの! 我が直接見てきてあげるの!』
とうとう痺れを切らしたウルが、ぴょんと足場から飛び降りて、直接見に行ってしまいました。熱気も有毒ガスも彼女なら問題ありませんが、詳しい事情を知らないドワーフ達は目を丸くしています。
あっという間に目標付近にやってきたウルは、主に先程の足場からは死角となる岩陰などを中心に捜索を始めたわけですが。
『うーん? 全然それらしいのが見つからないのよ』
そこまでしても成果なし。
霊脈の流れを遮る原因となりそうな箇所は見当たりません。
『あれ、皆そんなに我に手を振ってどうかしたのかしら? え、後ろ?』
それもそのはず。
原因が見つからないのも無理はありません。
『ちょっと、何よこれ!? 急に重くなって支えきれない! このマグマ、もしかして生き物なの!? ウルお姉ちゃん、逃げて!』
『ぎゃー、なの!?』
忠告も空しくウルが溶岩流に呑まれてどこかに流されていきます。
魔力の流れを遮っていたのは、ヒナが押し流して固定していたマグマそのもの。原因は探すまでもなく最初から見えていた。見渡す限りの、いえ視界の外まで遥か続くマグマの全てが恐るべき魔物。魔力喰らいの怪物だったのです。
超々大質量のスライムのような生物なのでしょうか。
先程までは眠っていたようですが、目を覚ました今はヒナの『液体操作』でも操り切れないほど桁違いのサイズとパワー。そして目も口もありませんが、どうやら快適な食事と睡眠を邪魔されたことに大層ご立腹のようで……。
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