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ゲーム


「ルールは簡単だ」


 独房の内側、鉄格子のすぐ手前に腰を下ろしたラックは、手にしたサイコロを転がしながら余興の説明を始めました。



「お互いが三つのサイコロを振って、目の合計が多いほうの勝ちってことで」



 正六面体のサイコロの目の合計が大きければ勝利。

 最小が1が三つの“3”。

 最大は6が三つの“18”。

 出目のパターンはその間の十六通りに分かれます。



「まだ、やるとは言っていないのだがな……まあ、よかろう」


「おっ、騎士さん話が分かるねぇ。レンちゃんたちもいいかい?」


「三人のうち誰か一人でも勝てばいいのだろう? ああ、私も付き合うよ」


『我もいいのよ』



 容疑者の証言を引き出せるかどうかをゲームで決める。

 無論、シモンとしては好ましい状況ではないのですが、このままだとラックは決して口を割らないでしょう。それに確率的に考えれば、勝算は少なからずあります。




「ああ、ちょっといいかい? 始める前にいくつか質問があるのだが」



 ゲームを始める直前、腕組みをしながら考え事をしていたレンリがラックに向けて問いかけました。



「質問? いいとも、下着の色でも女の子の好みでもなんでも答えるよ」


「ゲームについての質問だけど」



 ラックの軽口を無視して、いくつかの条件やルールの細部についての質問を投げかけます。



「まず一つめ。双方の合計数が同じ場合は?」


「その場合は引き分けでもう一回振り直し。連続で引き分けた場合も決着が付くまで同じ流れを繰り返すってことで」



 出目のパターンは十六通り。

 決して高い確率ではありませんが、両者の合計数が同じになる可能性は充分にあり得ます。

 そうして引き分けた場合は再度振り直し。

 万が一、引き分けが続いた場合でも同じように決着が付くまで振り続けます。



「二つめの質問だけど、こっちが勝ったらシモンさんの質問に答えるってことだけど、もし私達が負けた場合は何かあるのかな?」



 間を空けず、レンリは二つ目の質問をしました。

 普通の賭けであれば両者が金銭や所有物を賭けるものですが、今回はラックが負けた場合は闇カジノについての情報を話すという一風変わった条件になっています。

 しかし、ここまでの話ではシモンたち三人が負けた場合の条件が出ていません。



「ん、ああ僕が勝った場合ねぇ……? 別に考えてなかったけど、そうだね、ここのご飯のランクがちょっと上がったりすれば嬉しいかな?」



 しかし、ラックは別に大した物を要求するつもりはなさそうです。

 なんとも適当な感じで独房での食事情の改善を望みました。



「ま、騎士さんが無理だって言うなら別に何もなしで構わないけどさ」


「いや、その程度なら俺の裁量で与えることはできる。こちらが負けたら食事の質を上げれば良いのだな?」


「おっ、なんでも言ってみるもんだねぇ。俄然やる気が出てきたよ」



 ラックが勝った場合でも、独房での食事の質が少々上がる程度。

 重要な捜査情報とは明らかに釣り合いが取れていませんが、勝負を持ち出した当本人はただの口約束とはいえ、条件が飲まれたことに満足気な様子。

 


 そこからも、更にレンリはいくつかの条件確認をしました。



「もし私達が負けた場合、そこから二回戦を提案することは出来るのかな?」


「うん、そりゃ、こっちとしては願ってもない。ここってヒマそうだしね。その場合は……そうだねぇ、毛布でももらうか、着替えをもらうか……ま、始まってもないのに皮算用をしてもしょうがないし、その都度条件を考えようかねぇ」



「サイコロの投げ方に指定はあるのかな?」


「いや、好きに投げればいいさ。一つずつでも、三ついっぺんでも、やりやすいほうで構わないよ」



「じゃあ、最後の質問だ。勝負の最中にイカサマが発覚した場合は?」


「そりゃあ勿論、現行犯でタネを指摘されたら無条件で負けってことで」








 ◆◆◆







『じゃあ、まず一番手は我からいくのよ!』


「おっ、元気がいいねぇ。じゃあ、どうぞ」


 ルール説明を終えた後、まずはウルが一番手に立候補しました。

 どうも、こういうゲーム的な遊びに好奇心を刺激されたようです。



『むむむ……っ』



 鉄格子ごしにサイコロを受け取ったウルは(一応、受け渡しのタイミングで彼女を人質に取られたりしないよう、シモンが密かに警戒していましたが何事もありませんでした)、三つのサイコロを強く握り締めて謎の念を送ってから、ポイっと床に転がしました。


 勢いよく投げたサイコロは石造りの床を転がって止まり、この場の四人ともがその出目に注目します。



『1と2と1だから……合計は“4”。まずまずの結果ねっ!』


「いや、ウル君。どうしてそこまで自信満々なんだい?」



 謎の念の甲斐もなく、出目の合計は“4”。

 下から二番目の、はっきり言ってこの時点でほぼ負けが確定です。



『ま、まだなの!? このお兄さんが“3”を出せば……』


「あ、なんだかゴメンね」



 次にサイコロを放ったラックの出目は2、4、3の合計“9”。

 良くも悪くもない程度の結果でしたが、言うまでもなくウルの惨敗です。




「ふっふっふ、ウル君など我ら三人の中でも一番の小物。彼女を倒したくらいでいい気にならないことだね!」


『ちょっと、それは聞き捨てならないの! だんここーぎするのよ!?』



 続く二回戦に出て来たのはレンリ。

 彼女はウルとは違い、サイコロを一つずつ指でつまみ、回転をかけるようにして投げました。



「出目は……6、6、4の合計“16”! どうだね、私の実力は!」


『むむ……お姉さん、なかなかやるの』



 出目の合計数は“16”。

 かなり良い目が出ました。

 先程惨敗したウルも悔しそうにしています。


 ですが肝心の対戦相手に動じる様子はありません。

 サイを投じる際の手元と床に落ちてからの回転の仕方を観察していたラックは、心底楽しそうに告げました。



「へえ、レンちゃん、ひねりサイなんて使えるんだ。これは手強そうだねぇ」


「なっ、なんのことだね!?」



 ひねりサイとは別名をスピントスとも呼ぶ、サイコロで好きな目を出すための技術の一種。

 原理は簡単で、最初に出したい目を上にし、軸を安定させたままコマのような回転を与えるだけ。あとは軸がブレない限りは、一見すると普通に転がっているように見せかけつつ、実際は最初に上にした面が確実に出せるという寸法です。

 今回は三つのうち一つを失敗してしまったようですが、ちょっと練習すれば安定して出目のコントロールが出来るでしょう。



「ほら、こんな風にやるんだよ」


『おお~!』


「ほう、上手いものだな」



 実際に、手元を見せながらラックがひねりサイの実演をしてみると、出目は6、6、6の合計“18”。流石にこの道のプロだけあって、技術の安定度は素人とは比べ物になりません。


 レンリは先程、投げ方の指定があるかどうかを聞いた時点で、ひねりサイを使うことを想定していたのでしょう。

 サイの投げ方がイカサマに抵触するかについてはグレーな部分もありますが、どっちにせよ先に看破された時点でレンリの敗北。



『くふふっ、お姉さんなんて我らの中で一番の小物! ぷくく、ざまぁないの!』


「ぐぬっ……い、言い返せない」



 なんというか、非常にセコい感じのする負け方でした。



ちなみに、ひねりサイは実在するテクニックです。

習得が簡単なかわりに見破るのも簡単だとか。

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