迷宮イメージアップ戦略
時は少し戻ります。
学都のお祭りで正体バレ覚悟で能力の大盤振る舞いをした迷宮達。
あの奇跡のような一夜は、もはや隠し通せるものではありません。
祭りの最中であったならネムが記憶を弄ることもできましたが、すでに鉄道や馬であちこちに人が散った後ではそれも不可能。噂がより遠くまで届くにつれ、意識的にか無意識的にかはさておいても、誇張や憶測で実際以上に大袈裟に語られるのも仕方のないことです。
と、ここまでは単なる前提条件。
「やっぱり、ほとんどの人が知りたがるのは、噂の『使徒様』が何者なのかっていう点だと思うのだよ」
シモンの屋敷で今後の方針について話し合った時、進行役として場を仕切っていたレンリはこのように言いました。他の皆もそれについては同意見。
①まず、『使徒様』は実在するのか?
②実在するとして、それは本当に神が遣わした存在なのか?
③その存在は本当に噂になっているような超常的な力を持つのか?
少なくとも、このあたりの疑問は間違いなく出てくるでしょう。
実際に奇跡的な体験を共有した学都の住民であれば、多少なりとも受け入れやすい下地ができている可能性はありますが、他の街や外国ではより疑問の声が強くなることが予想できます。
というよりも、あの祭りの夜の話を人から聞いて、素直にそのまま信じてしまうほうが問題です。そんな人間は確実に詐欺師にカモにされてしまうことでしょう。
「さっき挙げた三つのうち、①については比較的簡単だね。神の遣いを名乗る何者かがいたということまで否定するひねくれ者はそういないだろう。③もそう難しい話じゃあない。実際に迷宮諸君が力を見せれば否応なく信じざるを得ないからね。だけど」
問題となるのは②。
『使徒様』が本当に神が遣わした存在なのかという証明です。
「一応、解決しようと思えば今すぐできる手もないわけじゃない。それこそ神様の『奇跡』で世界の全人類に夢のお告げか何かでキミ達を紹介してもらうとか。省エネでいくなら、神殿とか大国のお偉いさん限定で同じようなことをするのも可能だろうね。顔写真入りの新聞を刷りまくるとかもやろうと思えばできるだろうさ」
少なからず信仰のエネルギーを消耗するにせよ、そういった方法で労せず解決することも可能です。紹介どころか、人々の記憶に迷宮達の存在についての正確な認識を直接埋め込むこともできなくはないでしょう。
他にも新聞や書籍を介してのマスコミ戦略、シモンやフレイヤなど世間的な知名度が高い仲間を介しての情報の流布もそれなりの効果が見込めます。
それこそコスモスあたりに頼んだら、明日にでも全人類が迷宮達へ好意的な見方をするように洗脳完了しているかもしれません。最後の例は流石に極論すぎるとしても……。
『先程からの口ぶりだと、レンリさんはなるべく人に頼ることなく我々自身の手で解決すべき問題だと思っているようですね?』
「まあ、ね。不満かい、ゴゴ君?」
『いいえ、我も同意見です』
今度は迷宮を代表してゴゴが口を開きました。
姉妹の中でも賢い側の彼女は、レンリの意図を理解しているようです。表情からするに、同意はしないまでもモモとヨミも同じ理解に至っている様子。
何も分かっていないのに自信満々に頷いているウルと、ニコニコ微笑んでいるネム、見た目で分かりやすく焦った風のヒナについては、詳しい追加説明が要りそうですが。
「ま、要はあれだよ。苦労が人を成長させるというか、獅子は我が子を千尋の谷に叩き落とすというか。今のこの状況はキミ達にとってピンチであると同時に大きなチャンスでもあるんだ。それを見過ごして無駄にするのは勿体ないだろう?」
もちろん単なる精神論ではありません。
世界中の人々が『使徒様』に興味関心を向けつつある今の状況を上手く利用すれば、そこから得られる信仰エネルギーによって迷宮達はこれまでと桁違いの成長を遂げることができるでしょう。
これまで学都内で得ていた数千~数万人分の信仰とは、文字通り数字の桁からして三つや四つは違ってきます。そうなれば当然、成長の度合いも桁違い。もしかすると一足飛びに成体の神に至ることすらできるかもしれません。
前述のような簡単な解決法でもある程度の信仰は得られるでしょうが、人々が自発的に祈りを捧げるのとでは、エネルギーの量はともかく質に大きな差が出てきます。
ほとんど万能の『奇跡』でも、動力源となる信仰を直接生み出すことはできないのです。洗脳めいた手段を使って人々を従わせるのと、自発的に祈りを捧げるように仕向けるのとでは、最終的な収支に大きな差が出てくるのは明白。
どうせなら、より多く、より強く。
そう考えるのは悪いことではないはずです。
で、その肝心の自発的に信仰を向けさせる方法ですが。
「そんなの簡単でしょ。困ってる人を探して助けるとかでいいんじゃない? ああ、そうそう。好意だけじゃなくて知名度と、できれば活動資金も稼げるといいかもね。場合によっては、事業を起こして継続的な雇用を生むことで人を救わないといけないみたいなケースもあるかもだし。え、もっと具体的に? うーん……そうだ、勇者さんみたいにキミ達の絵とか像とか売るとかどう?」
『我のグッズ!? それなの、我が求めていたアイデアは!』
これならば知名度と好感度と、ついでにお金も稼げて一石三鳥。
アイデアを出したレンリとしては、絵や像については半ば冗談のつもりだったのですが、自己肯定感と自己顕示欲がめっぽう高いウルが他の姉妹を押し切ってそれも採用。
こうして迷宮達は、世界各地を巡って人助けをしつつ、助けたことを恩に着せて自分達のグッズを販売するという、微妙に引っ掛かりを覚えなくもない活動をすることになったのです。
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