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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十二章『迷界大祭』

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打ち上げパーティー


「ところでさぁ」


 時間はちょうど正午頃。

 場所はルカ達の住む屋敷の庭。

 長くかかった話し合いも上手い具合に一段落して、今は皆でお昼ご飯のバーベキューの支度をしているところです。



「あれって僕らが聞いてもいい話だったのかなぁ? 後になって『知られたからには消えてもらう』とかって言われたりしない?」



 ラックが言っているのは、迷宮達が未来の神様候補だと知ってしまったことです。

 そのあたりの事情を誤魔化しながら深く突っ込んだ話をするのにも限界があったため、半ば成り行き的にそのあたりの情報を知ることになってしまいました。

 単純に時と場所を改めて話し合う場を設ければ済む話ではあったのですが、なんというか昨夜から色々ありすぎて迷宮達にも精神的な疲れが出ており、その程度の手間すら面倒くさく感じられてしまったせいでしょうか。無論、彼らになら教えても大丈夫だろうという信頼が前提ではありますが。



『あはは、いやいや、まさかそんなことは、ははっ』


「うわぁ、露骨に明言を避けてくる!?」



 野菜を切っていたゴゴが冗談でラックをからかっていますが、よっぽどマズい形で言いふらされでもしない限りは迷宮達から何かすることはない、はず。まあ多分、きっと、恐らくは大丈夫でしょう。



『お肉の追加はこれくらいでいいのです?』


『流石に多すぎないかしら? 全部で二十トンはあるわよ?』



 急に決まったBBQパーティーということで、足りない分の食材を確保しに出かけていたメンバーもいました。モモとヒナは第四迷宮の巨大生物、具体的には家屋サイズのウシ、ブタ、トリ、ヒツジ、トリケラトプスあたりの動物と、サイドメニュー用の野菜類。それとサイズは普通ですがデザート用に第三迷宮からフルーツも取ってきていました。

 かなり広めの敷地面積を有するシモンの屋敷の庭も、流石にこれだけの食材が並んでいると少々手狭に感じられます。ついでに解体の過程で庭の一画が流れ出た血と臓物でスプラッタな光景になったため、ヒナが慌てて血液を集めて猟奇的な絵面を回避していました。



『処理。推奨。その量の生ゴミを普通のゴミ捨て場に持って行ったりしたら、街の人の迷惑になるだろうからね。ゴミはここに捨てるといいよ。あ、足を滑らせないよう注意してね』



 この度、晴れて覚醒を果たしたヨミも他の姉妹と同じように、本体の外に自身の迷宮の一部を展開できるようになっていました。その応用が、ヨミの目の前の地面に開いた直径二メートルほどの深い穴。


 第六迷宮『奈落城』の城部分は危険な大穴を封じるための蓋であり、隠されている大穴こそがその本質。そのためかこうして迷宮の外で新しい能力を試してみたら、この通り深い穴が開いたというわけです。

 外部展開可能な穴の大きさは、最小で一センチ以下から最大サイズは未検証のため不明。展開したものを閉じれば、何もなかったかのように元々の地面に戻ります。その気になれば城部分も展開できそうですが、有効な活用法を思いつくまでは保留でしょうか。

 今のところはこうして無限に捨て放題の、いつでもどこでも開いて閉じられるゴミ捨て場として活用するくらいの使い道しかありませんが、まあ便利といえば便利です。もしかすると他にも覚醒に伴って迷宮の仕様が変化している可能性もありますが、そのあたりの細かい調査はまた後日ということになるでしょう。



『あっはっは、我の炎でこんがりジューシーに焼かれるがいいの!』


「なにおぅ、こっちのほうが美味しく焼けるもんね! アタシ、料理は苦手だけど丸焼きだけは得意なんだよね」



 巨大なお肉を焼く担当はウルとフレイヤ。

 なにしろ異常に大きく多いので普通のキッチンやBBQ用の道具では、丸一日かけても調理が終わりません。そこでこの二人の出番というわけです。腕の肘から先のあたりを炎に変えて、なるべく焼きムラが出ないように、表面だけでなく肉塊の奥まで熱が入るように撫で回していく感じでしょうか。味付けは食材と同じ第四迷宮産の岩塩塊を削って振りかけただけというワイルド仕様。素材そのままの味が楽しめそうです。

 ウルはまだ身体を炎に変化させる技を覚えたばかりですが、早くも本家顔負けの火加減で使いこなしていました。というか、火加減についてはフレイヤが大雑把すぎるだけなのですが。



「ここはサーロインかな? おいしい、おいしい……おや? ここは焼けすぎて炭になってるね、ネム君、ここちょっと戻して。ミディアムくらいで頼むよ」


『くすくす。はい、どうぞレンリ様』



 レンリの担当は味見係。

 まあ手を付けた食材を全部ペロリと平らげてしまうのを味見と称していいのかはさておき、下手に調理を任せても邪魔なだけなので、こうして食べるのに集中させておくのが一番安全なのです。

 ちなみにネムはその隣で焦げ過ぎて炭化した部位を食べられるくらいまで『復元』して、レンリが食べやすくするお手伝いをしています。そのせいで自分は食べられていないのですが、まあなんとなく楽しそうだから大丈夫でしょう。



『キュルルルル?』


「おや、ロノ君どうしたんだい? どうやら食が進んでいないようだけど」


「たぶん……レンリちゃんが、自分より食べてるのが……不思議、みたい」


「レンの食いっぷりを見慣れてなければ目を疑うよな。こいつの腹はいったい何がどうなってるんだ?」



 すでに巨大なヤギを一頭丸々食べて満腹していたロノは、自分より遥かに小さなレンリが自分の倍以上の肉や野菜をモリモリ食べて不思議そうに喉を鳴らしています。早くも三トンくらいは胃に収めているはずなのですが体型すら変わっていません。この調子なら大量に集めてきた食材が余る心配をする必要はなさそうです。



「やあ、帰ったよ。てっきりすぐ見つかるかと思ったんだけど、昨日のアレで街中のお酒が飲み尽くされてたみたいで全然なかったんだよね。あちこち探し回って、なんとか今日入荷したばかりのワインを何本か買えたけど」


「むぅ。飲みすぎ注意」


「分かってるってば、ライム。これくらいならジュースみたいなものさ」



 姉妹でお酒の調達に向かっていたタイムとライムも戻ってきたようです。

 昨晩の伯爵の大盤振る舞いの影響で在庫がなくなり、街中の酒屋が今日はほとんど開店休業の如き有り様。二人はたまたま市外から届いたばかりの品を少しだけ買えたようですが、あと何日間かは学都の酒飲みはほとんど断酒を強いられることになりそうです。もっとも昨夜に飲み過ぎた者が多いので、そのくらいがかえって健康的というものでしょうが。



「お芋揚げてきたわよ。あとはそこのやたら大きい野菜でサラダとか、キノコのマリネとか適当に。面倒だから取り分けは自分達でやりなさいよね」


「あ……お姉ちゃん、任せちゃって……ごめん、ね」


「うんうん、もっと気にするとこあると思うんだけどなー?」



 流石に肉も野菜も全部焼いただけというのは味気ないので、屋敷内のキッチンであれこれサイドメニューを作ってきたリンと、その手伝いをしていたレイルも合流してきました。



「にしても、その子達が神様ねぇ。拝んどけばご利益とかあるのかしら? 前々からルカが隠れて何かしてるのは知ってたけど、予想よりだいぶ大事になっててビックリだわ」


「えっ……き、気付いてた……の?」


「そりゃ、ルカ姉隠し事ヘタすぎだしー?」



 具体的に何がどうとまでは分からずとも、ルカの家族は彼女が何かを隠しているらしい、とまでは気付いていたようです。流石に未来の神様を育てるお手伝いというのは、想像の遥か上を行っていましたが。

 まあ嘘や隠し事が苦手なルカが神様案件を家族に秘密にし続けるプレッシャーから解放されたわけですし、これでかえって良かったのかもしれません。



 ここから先はひたすら飲んで食べるだけ。

 特に迷宮達は昨夜は人々を楽しませるばかりで、自分達はほとんど飲み食いできなかったのです。他人が美味しそうに食べるのを眺めるだけでお預けを食わされるというのは、なかなか心にくるものがあったようで。その分を取り戻すかのように、レンリにも劣らぬ勢いで旺盛な食欲を発揮していきました。



「帰ってきたら、俺の家が何やらすごいことになっておる……」



 夕方を過ぎてシモンが帰宅してからは、彼も参加してそのまま宴会続行。

 庭にドンと置かれたトン単位の食材には面食らっていましたが、このくらいなら彼の身の周りで起こりがちなイベントの中ではまだ常識的な部類です。実際、数分後には何事もなかったかのように順応して食事を始めていました。


 また機を改めて集まり直すのも面倒なので、このついでに三日後にはもう出立するラックとフレイヤ、そのすぐ後に旅立つタイムのお別れ会もこの場で全部兼ねることにしてしまって、また飲んで食べて、ひたすらに食べて飲んで。

 眠くなったら屋敷の居間のソファで一眠りしたり、浴室を借りて汗を流したり、戦いたがりの何人かが余興で試合をしてみたり。もう本人達にもほとんど何がなんだか分からなくなっても宴は続き、結局その翌日の夜明け過ぎまで騒ぎ続けたのでありました。



これで十二章終わり。

お読みいただきありがとうございました。

いつものパターンで、またレストランのほうを何話か書いてから十三章を始めます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] レンリにとっては肉は液体 [一言] 更新お疲れ様です ロノも真っ青な食べっぷり 神子と良い勝負が出来ます。
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