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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十二章『迷界大祭』

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あとのまつりのあと


 ラックは家族と離れてフレイヤに付いていくことに決めたようです。

 それに対する弟妹達の反応はというと……。



「そっか……ちょっと寂しいけど、仕方ない……ね」


「ふーん、兄ちゃんとお別れかー」


「ま、生きてりゃそういうこともあるでしょ」



 前から順にルカ、レイル、リンの感想。

 いずれもあっさり目の反応で、特に反対意見はなさそうです。



「あれぇ、意外とあっさり?」


「だって……行きたいん、でしょ?」


「それはそうなんだけどさぁ……何て言うか、もうちょい泣きが入る感じになるんじゃないかなぁって思ってたんだけど。こう、大好きなお兄ちゃんとさよならしたくないよー、みたいな?」


「「「……は?」」」



 長女、次女、次男の声が綺麗に揃いました。普段は控えめで優しい性格のルカも、兄が相手の時だけは例外的に若干扱いが雑になるのです。長年に渡りあれやこれやと積み重ねてきた結果による自業自得なので同情はできませんが。



「うわぁ、息ぴったり! フレイヤちゃん、弟妹きょうだいが僕に冷たいよぉ!?」


「うんうん、当然の反応だね! あとラックは交際初日からアタシの好感度下げにくるのは、正直ちょっとどうかと思うな!」



 まあ良い方向に解釈すれば、これで心残りなく出立できるというもの。

 まだ学都に来て間もない頃なら、ルカあたりはラックが期待したように別れを強く拒んで泣くくらいはしたかもしれませんが、この一年半ほどの間に彼女も随分と逞しくなったということでしょう。

 それに、これが今生の別れというわけでもなし。今回のように一座が学都に再訪することもあるでしょうし、その気になれば鉄道など使ってその時々の興行先を訪ねることも、手紙でやり取りすることもできるのです。


 だから問題があるとすれば、一応今でも保護観察扱いになっているラックがシモンの許しを得られるかどうかと、せっかく始めた遊覧飛行事業の継続をどうするかあたりににあるでしょうか。

 もっとも前者については、先日一人で指輪を買い戻しに行った件で何も言われていなかったあたり、もう実質的に形骸化しているようなもの。保護名目でラック達一家の住む場所を確保するための方便と化しています。恐らく問題はないでしょう。

 後者の遊覧飛行に関しても、まだ幼いレイルや人見知り気質のルカには難しいかもしれませんが、リンに引き継いでもらうことは多分可能。一家にとっては貴重な収入源ですし、せっかく取った街での飛行許可を腐らせるのももったいないというもの。まあ最初のうちは多少の混乱はあるにせよ、遠からず落ち着くべきところに落ち着くのではないでしょうか。



 と、ラック達一家についての今後の話はひとまず完了。



「じゃあ、次は私いいかな? 私もそろそろ出てくから」



 次に手を挙げたのは同じくこの屋敷の住人であるタイム。

 彼女もまたこの街を離れるつもりのようです。



「ほら、もうすぐ弟か妹が産まれるらしいし。聞いた予定だとちょうど年末年始あたりだっけ? ライムが産まれた時は森の外にいて全然知らなかったからね。何かと人手がいるだろうし、私もたまには親孝行しとかないとね」



 理由は至極真っ当なものでした。

 エルフの時間感覚は年齢相応にゆったりしたものであるため、うっかりすると何十年も帰省しないなんてことになりかねません。タイムが初めて妹に対面したのも、ライムが七歳になった頃のことです。

 ですが、今回はライムから聞いて親の出産予定時期を把握できていました。

 長く生きているだけあって、タイムもその気になれば一通りの家事はできますし、ちょうど大変な時期に実家にいれば何かしら力になることもできるでしょう。もちろん新しい弟か妹の顔を早く拝みたいという気持ちもあります。



「できればライムも帰ってきなよ。あ、でも未来の義弟君関係で何かお城の行事に出なくちゃいけないとかあるのかな? 王族ともなると色々面倒くさそうだし」


「知らない。聞いとく」



 これは少し先に分かることですが、後でシモンに確認したところ絶対にライムが出なくてはいけない行事などは同時期にはないということでした(ライムが行ったら行ったで、やんごとない身分の女性達から着せ替え人形として大歓迎されそうですが)。この年末は久しぶりにエルフ一家全員集合ということになりそうです。



「ついでに帰る途中に色々寄ってお土産を買ったりとか、久しぶりに馴染みの店にも顔を出したいしね。あちこちに溜めてるツケも払って回らないと」



 どうせなら真っ直ぐ帰省するのではなく、寄り道も楽しみたいところ。

 それとこれはタイムだけに限った話ではないのですが、エルフのような長命種族の側に踏み倒すつもりがなくとも、時間感覚のズレをうっかり失念したばかりに、ツケを溜めたままの店が知らない間に潰れていたり店主が亡くなっていることがあったりなど、大変後味の悪い気持ちを味わう危険があるのです。

 なので、会うべき相手には思いついた時にすぐ会っておくべきだし、払うべきものは払える時に払っておく。後腐れなく美味しいお酒を楽しむためには大事なことです。



「なに、私ならそのうちまたこっちにも顔を出すさ。一年後か、十年後か、百年後になるかは、その時の私の気分次第だろうけど」



 まあ結局は風の向くまま、気の向くまま。

 縁があればまた会うこともあるでしょう。






 ◆◆◆





『さて、次は我々の番ですかね?』


 迷宮を代表してゴゴが切り出したのは、もちろん昨夜の『使徒様』の件の後始末をどうするかということです。この一夜だけで相当の信仰を集められましたし、決して間違った判断だったとは言えないにせよ、その影響は一日限りで終わるものではないでしょう。



『早ければ、もう今日中にでも他の国まで昨日の話が伝わるでしょうし。後手後手に回るのは避けたいところですねぇ。まあ具体的な対策案はまだ特にないんですが』



 なにしろ、伯爵の威光まで利用して神の遣いとして紹介されたのです。

 誤魔化したり無かったことにするのは現実的ではないでしょう。人によってはもう鉄道や馬で街を離れている者もいそうですし、ネムの能力でも昨晩この街にいた全員の記憶をどうにかする手は使えません。


 そして昨夜の奇跡的な体験を共有したこの街の人間はともかく、他の街や外国の人々が素直にそんな話を信じてくれるものかという問題もあります。

 単にホラ話扱いされるだけならともかく、下手をすれば迷宮達が神の遣いを騙る背信者として色々な国やら組織やらを敵に回しかねません。付け加えるなら、昨夜の異様な雰囲気やアルコールの影響から脱すれば、実際に体験した学都の住人ですら、そういう疑いを持つ者は出てくるでしょう。


 神が明確に実在するこの世界の人々の信仰心は、とにかく強い。

 それが好意的な方向に働くのならば良いのですが、悪い方向に働いた場合にはどうなってしまうことやら。神の遣いを騙る不届き者を成敗しようと思い詰め、学都の街中でいきなり迷宮達に襲いかかりかねません。

 まあ敵に回ったところで今の迷宮達なら大抵の相手は軽く捻ることができるのですが、『使徒様』肯定派の一般市民や伯爵がテロの標的になったら、全員を守り切ることは難しいでしょう。

 かと言って、先手を打って危なっかしい連中を叩き潰すのも悪手。

 まず、どこの誰がそうなのかという存在の把握そのものが困難な上、それをやってしまったら将来的にこの世界に君臨する神となった時に困るのは明らか。力づくでどうにかして禍根を残すくらいなら、ほとぼりが冷めるまでどこかに逃げておくほうがまだマシというものです。



『――つまり、我々としては世界中の人々に、なるべく好意的な形で受け入れられるようにする必要があるわけですね。それも、できるだけ速やかに。まあ、こういうリスク自体が杞憂で済む可能性も結構あるとは思いますけど』



 ゴゴの意見にはそれなりの説得力がありました。

 『使徒様』を認めるかどうかで短絡的な荒事に走る連中が出るというのは、あくまで最悪のケースを想定した場合です。何もせずとも自然と好意的な方向に世論がまとまって、万々歳で受け入れられる可能性だってあるのです……が、運を天に任せて何もせず待つというのは宜しくない。もし杞憂や無駄骨に終わるとしても、できる努力があるならしておくに越したことはないでしょう。


 その対策が、どうやら本日最大の議題となりそうです。



次回で十二章は終わりです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あっさり系兄弟( ̄▽ ̄;) いや、フレイアに着いていくつまり巡業次第では何年も会えないのに( ̄▽ ̄;) いや、此方の世界にもオンライン系連絡手段が確立されていそうな件 つまりコスモスが携帯…
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