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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十二章『迷界大祭』

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お祭り本番:ヨミの店?


「……まあ、普通に俺が負けたわけだが」


 残念ながら奇跡が起きることはありません。

 武術大会は順当にライムの優勝で幕を閉じました。



「どんまい。ぐっじょぶ」


「あ、どもっす。勉強になりました」



 ルグは賢明にも魔剣『五感殺し』の能力を最後まで発動させることなく、素の剣技のみでライムと戦うことを選び、そして彼自身も予想していた通りに敗北。意外にも決着まで十分程度の時間がかかったのは、観客が見ている試合ということでライムが手加減していたおかげです。


 見栄え重視で威力の低い攻撃魔法を一般人の動体視力でもどうにか追える速度で撃ち込んだり、一撃でルグの剣を叩き折ることなく白刃取りで捉えて見せたりなど。

 本戦に出場したような強者達はそうした戦い方に違和感を覚えていたかもしれませんが、戦闘行為を見慣れていない素人にとっては十分に緊迫感のある試合に見えていたはずです。絶え間なく様々な魔法を放つライムと、それらの攻撃を間一髪で搔い潜りつつ一気に間合いを詰めて斬撃を入れるルグ。その攻防はなかなか良い勝負をしているように感じられたことでしょう。


 それにライムの手加減は、この決勝だけに限ったことでもありません。

 うっかり瞬殺してしまった予選はともかく、準決勝以前の本戦ではショー的な魅せる戦いを意識してほどほどに加減して接戦を演じていました。

 「たとえ格下の相手だろうと全力で叩き潰すのが武人としての礼儀」のような価値観もあるでしょうし、ライムも本来はそうした考えを支持する側なのですが、それも時と場合によりけりというもの。

 大人げなく本気を出して誰にも見えない速度で全試合秒殺していたら、いくら強かろうが大会は盛り下がりに下がっていたのは想像に難くありません。しょっぱすぎる塩試合に観客もしおしおに萎れてしまっていたでしょう。手抜きと言っては聞こえが悪いですが、わざと接戦を演じて見せたのは観客を楽しませるための、ライムなりに空気を読んだ気遣いだったのです。


 その気遣いの副産物として賭けの倍率オッズが過剰にライム側に偏りすぎなかったり、必勝が事実上確定しているライムに毎試合賭けられるだけ賭けていたレンリや迷宮達がかなりの額のお小遣いを手に入れたりしてもいましたが。それはあくまで偶然の産物なのです。本戦前に観客受け云々の話をアドバイスを装って吹き込むことで、結果的にライムに実力を偽らせて不正なオッズ操作を企んでいたとかでは決してありません。


 余談ですが、決勝戦で仲間達がライムに賭ける中、ルカだけは迷った末にルグに賭けていました。賭けたお金を失うことはほぼほぼ分かっていたのですが、そこは一応恋人としての立場を優先したようです。まあ前の試合までで既に相当に勝ち越していたので、トータルの収支としては微々たる損失でしょう。



「やあ、二人ともお疲れ。おっ、それが賞品かい」



 ともあれ、武術大会は良い結果で終えることができました。

 ライムは優勝賞品の名剣以外にもかなりの額の賞金をもらっていましたし、準優勝のルグもその1/5くらいの賞金と副賞として学都の高級宿のペア宿泊券を。

 準々優勝以下の選手達も、それぞれ順位に応じた賞金や賞品を貰っていたようです。また何人かの選手は客席で観戦していた他領の貴族の護衛としてだとか、あるいは仲間を探している冒険者パーティなどから勧誘を受けたりもしていました。



「さて、それじゃあ次はどこに行こうか?」



 武術大会を終えて、今はもう夕方近く。

 まだ日は落ちていませんが、他の催し物や店屋も早いところはぼちぼち店仕舞いを始める頃合いでしょう。お祭り自体は夜になってもしばらく続くはずですが、残り時間を考えると行くべき場所は限られてきます。



「ひとまずヨミ君のところにもう一度顔を出して、そこで考えようか? もう一度誘ったら今度は変な意地張らずに付いてくるかもだし。いちいち賞品を持ち歩くのも大変だから、荷物置き場として使わせてもらってもいいかもね。どうせ空いてるだろうから」



 なかなか容赦のない言い草ですが、他の皆としても異論はありません。

 ちゃんと希望を聞いた上で向こうが断った形とはいえ、結果的にヨミを仲間外れにしてお祭りを楽しむような形になったことに少しばかり気が引けていたのもありました。


 幸い、武術大会が開催されていた競技場とヨミの『降霊術の館』は目と鼻の先。移動に要する時間はほとんどありません。一行はぞろぞろとヨミの店へと向けて歩き出したのですが……、



「なんだか……人、多い?」


「あれ、たしかこの辺だと思ったけど。道を間違えたかな?」


「ううん……合ってると、思う……けど」



 目的地に近付くほどに、どんどん人が増えていきます。

 レンリが店の場所を間違えたかと思うのも無理はありません。


 なにしろ、本戦前に立ち寄った時にはお客さんなんて一人もいなかったテントの前には、今や何十人、いえ何百人いるかも分からないほどの人だかりができていたのですから。



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