表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十二章『迷界大祭』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

769/1057

お祭り本番:武術大会本戦


 そんなこんなで武術大会の本戦開始。

 本戦からは誰が勝つかを当てる賭博も開始され、予選後に運営側から受けたインタビューを元にした選手紹介も行われます。午前中にはちらほらあった空席も正午までにはすっかり埋まり、立ち見で観戦する人も少なからずいる様子。



「やあ、ウル君達。席取りご苦労さま。ライムさん以外で誰か強そうな人はいたかい?」


『エルフのお姉さんと比べたら流石にだいぶ落ちるけど、強そうな人は結構いたのよ。我も見たことのない技や魔法を使ってたりしたの』


「へえ、それは楽しくなりそうだ」



 幸い、レンリ達や後から合流した迷宮達の分の席は分裂したウルが確保しておいてくれました。荷物など置いてまだ来ていない人の席をキープするのはマナー的にアウトですが、実際全部の席に座っていたのだからギリギリセーフといったところでしょうか。

 午前中の予選を全部見ていたウルによると、本戦にはライムほどではないにせよなかなかの実力者達が勝ち上がってきているようです。中にはウルでも見たことのない、すなわち本体である迷宮の中でもこれまで誰一人使ったことのない珍しい技の使い手もいるのだとか。単に迷宮探索や対魔物の戦闘に不向きなだけかもしれませんが、これは予想以上に盛り上がりそうです。



「噂をすれば、早速ライムさんの試合からか。手加減を忘れないでくれたらいいんだけど」



 本戦に勝ち上がった選手は十五名。

 人数が奇数なのは、ライムが予選で他の選手を全員倒してしまった回があったせいでしょう。本戦は一対一タイマンのトーナメント形式で進む都合上、クジで決まった幸運な一名はシード枠として一回戦を免除されるようです。



『……こちらのミラー選手は特殊なカウンターを得意とする拳闘士ッ! 対するライム選手は、予選では瞬く間に他の全員を倒す離れ業を見せていましたッ! 勝負の行方はライム選手の見えない技の正体を見切れるかにかかっているか? さあ、張った張ったぁ!』



 音魔法使いの実況が予選での両名の戦いぶりを観客に伝え、観客は客席の通路を歩く売り子から選手ごとに割り振られた番号が記載された賭け券を購入。購入した賭け券は後で競技場の入場口に設けられた換金所で換金する仕組みとなっています。

 ギャンブルに熱くなりすぎて破産する人間が出ないよう、一度に賭けられる金額には上限が設けられてはいますが、それでも確実に勝てる賭けをあえて見過ごす理由もなし。レンリ達は近くの売り子を呼んで、各々のお小遣いからライムの賭け券を購入しました。珍しいことに、普段大人しいルカまで買える上限いっぱい分の賭け券を購入しています。



「えへへ……お小遣い、何に……使おう、かな?」



 そんな風に浮かれたルカが皮算用を始めたあたりで、ようやく本戦第一回戦のゴングがカーンと打ち鳴らされました。





 ◆◆◆






「エルフの娘よ、貴様の技はすでに見切った。この勝負、こちらのものだ!」


『おーっと、ミラー選手いきなりの勝利宣言だ! 謎のベールに包まれたライム選手の技を見切ったというのは本当なのか?』


 こうして始まった本戦一戦目。

 ライムの対戦相手であるミラー氏は、まだ拳も交わさぬうちからいきなりの勝利宣言。その大胆さには実況や観客も驚いていました。ただのハッタリにしては堂々としすぎているようにも思えます。



「わくわく」



 もし単なるハッタリでないのなら、ミラー氏は予選でのライムの動きを見た上で自分なら対応できると判断したことになります。魔力の量や構えを見る限りそこまでの強者には見えませんが、わざと実力を隠して弱そうに見せているのかもしれません。

 ライムとしても興味があったのか、あえて否定や反論をせず、先制攻撃をすることもなく続く言葉を待つことにしたようです。



「エルフ族は我らヒトよりも魔法の扱いに長けると聞く。貴様の予選での圧勝ぶりは魔法によるものだな?」


「ん。そう」



 間違ってはいません。

 ライムの予選での瞬殺劇は、秒間十回を超える空間転移の連続使用と、生身で音速を突破するほどの身体強化魔法の合わせ技。加えてほとんどダメージが残らないような形で意識を奪う格闘技術もありましたが、魔法による効果だと言われたら、それはたしかにその通り。個人差はあるもののエルフがヒト種族より魔力の扱いに長ける傾向があるのも確かです。



「貴様が扱う魔法の中にはヒトの間では知られていない、エルフの間に隠された秘術の類もあるのだろう?」


「ん」



 これも一応は間違っていません。

 そういう先祖伝来の魔法もライムは使えます。なので、ミラー氏が言っていることも間違いではないのです。まあ、この大会で使ってはいないのですが。

 ちなみに大会予選で使用した技に限って言うならば、空間転移の術は師匠アリス由来。身体強化に関しては肉体の強化率が桁違いに高いだけで、原理的にはそこらの兵士や冒険者が使う技と変わりません。


 さて、以上を踏まえて出した結論がどうなったのか。予選で他の選手全てが怪我をせず悲鳴も上げずにバタバタ倒れた恐るべきライムの技を、試合を見ていたミラー氏がどのように解釈したのかというと……。



「ずばり、貴様の技の正体は無色透明かつ即効性の催眠ガスのようなものを噴射する魔法と見た! 試合開始と同時に発動して武舞台全域を覆ったのであれば、あの不可解な結果にも説明が付くというもの。それ自体には殺傷力がないとはいえ、相手を眠らせれば後は煮るも焼くも思いのまま。もし正体を見破ったところで、息を止めて吸い込むのを防ぐには限度があろう。まったく恐ろしい魔法があったものよ……!」


「むぅ」



 魔法による効果だと考えたまでは良かったのですが、最後の結論は大外れ。

 どうやらミラー氏は予選でのライムの動きが全く見えておらず、しかし見えないなりに頑張って推測をした結果、このような仮説に至ったようです。



「だが残念だったな。いくら恐ろしい技であろうと、我が編み出した魔鏡拳の前に魔法由来の技は通じぬ! 全て跳ね返してくれよう……はぁぁ!」


「ん?」



 まあ残念ながら予想は外していたものの、催眠ガス説に対抗するための作戦をちゃんと用意していたのは評価すべきポイントでしょう。これでも本戦に残っただけあって別に弱いわけではないのです。



『おーっと、あの両拳に宿った赤い光は予選でも見せたミラー選手必殺の魔鏡拳ッ! 特殊な魔法を込めた拳で殴ることで、あらゆる魔法を鏡のように跳ね返す大技だーッ』


「なるほど。ありがと」



 どうやら予選でも同じ技を使っていたようです。

 実況の親切丁寧な説明でライムも相手の技の性質を把握しました。



「こうして魔鏡拳を発動したままだな……こう、こんな感じに片手で顔の前を常にガードするわけだ! こうすればいかに無色透明の不可視のガスとて、魔法由来の物質を誤って吸い込む心配は無用!」


「おお」



 拳を覆う赤い光が説明通りに魔法を弾くものであるなら、確かにシンプルながらも効果的な対策です。ライムが感心しているのもお世辞ではありません。実際には透明なガスなど出ていないので無意味に魔力を無駄遣いしている点だけが玉に瑕ですが、せっかく得意気に披露してくれているところに水を差すのも野暮というものでしょう。


 軍用の魔法の中には、自陣一帯を魔力の壁で覆って打ち込まれた攻撃魔法を跳ね返すような種類もあるのですが、基本的にそういった魔法の多くは魔力の消耗が激しく小回りも利かないもの。反射壁の発動や維持には熟練の魔法使いが数人がかりで専念しなければなりません。その反射壁を小型化して独力で発動できるよう省エネ化。更には拳を覆うことで拳打に合わせて魔法を弾くような使い方を編み出して実用化したというのであれば、それは画期的と称しても過言ではありません。



「じゃ。お試し」



 とはいえ、看板倒れという可能性もなきにしもあらず。

 ライムは試しに握り拳くらいの大きさの火の玉を指先に出現させると、それを一般の観客の目でも追えるくらいの速度で撃ち出してみました。



「シッ」


「おぉ~」



 もし相手が跳ね返すのに失敗しても大火傷しないようにとの判断でなるべく弱めの術を選んだのですが、ちゃんとジャブで魔法を打ち返してきました。それもライムが撃った元々の速度に拳の勢いを加えて火の玉のスピードが上がっています。

 例えるなら、野球のピッチャーが投げたボールを打者がバットで打ち返したような具合でしょうか。モノが火の玉ならボールのような弾性はないはずなのですが、勢いを失わずに跳ね返せるあたりにこの技の工夫がありそうです。



「ん。続き」


「うおぉぉぉ!? シッ、シッ、シュッ……!」



 ライムは続けて火以外の魔法も試してみました。

 目に見える実体のない強風や、とてつもなく速い雷、不定形の水の塊など。それも少しずつ大きさや速度を上げたり、同時に複数の魔法を別方向から飛ばしてみたり。どれも直撃してもうっかり死なせないよう手加減した威力だったとはいえ、ミラー選手は次々繰り出すジャブやフック、ストレートでどれも見事に打ち返してきました。

 決して反射の一芸特化というわけではなく、拳闘の基礎的な技術や反射神経もかなりのものがあるようです。よくよく考えてみれば魔法使い相手でなければ何の意味もない技なので、素の実力でもある程度戦えなければせっかくの珍しい技も宝の持ち腐れになってしまう。そうならないためにも地道に修練を積んできたのでしょう。



「わくわく」



 まあ魔法を跳ね返されたところで、ライムは適当に手で払ってかき消すだけ。ダメージは一切ないのですが、珍しい技を間近で見られたのは楽しかったようです。

 本気を出せば秒殺できる相手とはいえ時には学ぶべきこともある。

 予選の時のように瞬殺していたら、こうして楽しむことはできなかったでしょう。


 ついでに付け加えるなら、この試合の観客受けは今のところ上々でした。

 ライムの認識としては当たっても大怪我させない程度に加減した魔法であっても、素人目には魔術の粋を尽くしたド派手な攻撃魔法の連発と、それを両の拳で必死に打ち返すミラー選手という互角の戦いに見えていたのです。



「ぜぇ……はぁ……ど、どうだ」



 片手で顔を守って不可視のガスから身を守るという最初に言っていた戦法はとうに忘れ、両方の拳で必死に連打することで辛うじて凌いでいる状態でしたが、それでも一応ミラー選手は無傷のまま。見るからに息が上がったスタミナ切れ寸前の状態ではありましたが、それでも戦意はまだ失われていないようです。



「ん。大体わかった」


「わかった? ぬぅおぉぉぉぉ!?」



 が、ライムを相手に技を見せ過ぎたのは失敗だったかもしれません。ここまで必死に喰らいついて善戦したことで、ちょっとくらい強めにやっても死ぬことはないだろうと思わせてしまってもいました。

 ライムが直径一メートルくらいの火の玉を両手指の先から同時に十発ほど撃ち出すと、またもや次々と拳の連打で弾き返すミラー選手。ここまでと同じ展開であれば、ライムが跳ね返された火の玉を軽く払ってかき消すところでしたが……、



「こんな感じ?」


「お、俺の技を、うおぉぉぉ!?」



 ライムが自分に返ってきた魔法を、今度はかき消すことなく殴って蹴って、一発残らずそのまま跳ね返してみせたのです。息も吐かせぬ火の玉十連撃をどうにか凌ぎ切ったと思った直後に、より速いスピードで打ち返された十連撃が再び。

 もはや対応することは叶いません。次々と着弾する火の玉が爆発し、その爆風を受けたミラー選手は大きく吹っ飛ばされてしまいました。辛うじて場外に落ちてこそいませんが、これはもう誰が見ても続行不能でしょう。


 見れば、いつの間にかライムの手足が赤い光に覆われていました。

 この試合中に相手の技を観察し、それを自分のモノにしてしまった。いえ、拳だけでなく足でも使えるよう技の改良まで完了してしまったようです。この技でどれくらい強い魔法まで弾けるのか検証するまで過信は禁物ですが、もうその気になれば頭突きや体当たりでも同じ効果を出せるでしょう。



『おーっと、とうとうミラー選手ダウーン! 審判、カウントは……いや、気絶しているようだ。これにて試合終了! 本戦第一回戦の勝者は、恐るべき魔法の使い手ライム選手だーーッ』



 これにてようやく一回戦突破。観客受けを考えて手加減した試合でちゃんと楽しめるかがライムの懸念でしたが、今の戦いを振り返るにその心配は杞憂だったようです。

 自分の本来の戦い方に取り入れるかはさておいて、できることが新しく増えていくというのは純粋に面白いもの。相手の強みをより味わえるような戦い方をあえて選び、興味を持った技があれば自分の試合中に、あるいは他の選手の試合を観戦する中で覚えてみたり、先程のようにその場で改良案を試してみるのも良いでしょう。


 様々な技の使い手が集まったこの大会は、彼女にとってはオモチャ箱のようなもの。

 いったい誰とどんな風に遊ぼうか。それを考えるだけでワクワクしてきます。



「ぶい」



 どうやらライムにとって、今日は思っていたよりも楽しい一日になりそうです。





◆◆◆◆◆◆





《オマケ・ヒナ(設定変更)》

 ヒナのデザインを前のやつから多少変更。

 水兵風のセーラー服をセーラー風ワンピースに。

 髪の毛の後ろ髪を結んでまとめるようにしました。


挿絵(By みてみん)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ライムが強い 〉さぁ、こい戦い方を教えてやる! ドガガガガカ! ってなった様に力業で何とかなりそう。 [気になる点] ライムが本気になれば瞬きするまもなく挑戦者はただのかかしになる。忘れな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ